英国内の情報収集を担う情報局保安部(MI5)のマッカラム長官は、人工知能(AI)を悪用したテロ攻撃の脅威が現実のものになりつつあると警告した。AIを使って新たな病原体が生み出される可能性にも懸念を示し、生物兵器への転用を重大な安全保障上のリスクとして挙げた。
マッカラム氏は今月13日に公表した年次報告で、AIの普及に伴う新たな国家安全保障上のリスクをMI5が重視していると説明。同時に、敵対国による活動が活発化しており、こうした脅威への対応を強化していると述べた。
同氏によると、過去10年間でMI5が扱う国家安全保障上の脅威に関する案件は約3倍に増加した。対応に投じる資源も、冷戦期を上回る規模に達しているという。
マッカラム氏は、将来の脅威を見据える必要性を強調。「AIはすでに、攻撃側と防御側の間で繰り広げられるサイバー空間の攻防を激化させている」と指摘した。個人に合わせた宣伝や過激化を促すコンテンツの生成にもAIが利用される可能性があるとした。
テロリストによるAIの悪用は仮定の話ではないとも強調。偵察や攻撃の能力を高めるためにAIを利用しようとしたテロリストを、MI5がすでに摘発していると明らかにした。また、AIの活用が無人機の運用にも新たなリスクをもたらしていると述べた。
AIを利用した生物兵器の開発を警戒
マッカラム氏が特に懸念を示したのが、AIを利用した生物兵器の開発だ。テロ組織だけでなく、敵対国がこうした技術を悪用する可能性もあるという。
同氏は、AIの誤用によるさまざまなリスクのうち、生物兵器の分野について政府が追加的な対策を講じていると説明。現時点で具体的な脅威が現実化しているわけではないとしながらも、AIによって既存の生物兵器や新たな生物兵器を巡るリスクの構図が変化する可能性を、特に警戒すべきだとの認識を示した。
MI5が想定するリスクには、危険な知識が本来それを得るべきでない人物に渡ることに加え、AIによって従来存在しなかった病原体が生成される可能性も含まれる。
マッカラム氏は、国際テロ組織アルカイダを例に挙げ、過去25年にわたり、多くのテロリストが化学兵器や生物兵器、放射性物質を用いた攻撃能力の獲得を望んできたものの、実現は困難だったと説明。AIの発達によって、こうした技術的な障壁が変化する可能性に警戒感を示した。
ロシア、イランの脅威も深刻化
英国はAIを巡る新たなリスクに加え、ロシアやイランによる具体的な脅威にも直面している。
マッカラム氏によると、イランは軍事施設など、警備が厳重な標的への攻撃を企てる動きを見せている。英フェアフォード空軍基地を巡って最近浮上した攻撃計画も、英国で起きている一連の事案の例外ではないと述べた。
過去12カ月間には、イランに関連する活動を巡り、50人以上が逮捕されたという。
一方、同氏は、ロシアを英国に対する最大の侵略的脅威と位置付けた。ウクライナ侵攻を続けるプーチン政権が、英国や同盟国への圧力を強めているためだ。
ロシアは、軍事衝突による北大西洋条約機構(NATO)の集団的な対応を招かないよう慎重に行動しながら、サイバー攻撃や情報工作などを組み合わせた「ハイブリッド戦」を展開しているとされる。マッカラム氏は、ロシアが一線を越えてNATOの対応を引き起こすような事態になれば、ロシア側にとっても「愚かなこと」になるとの見方を示した。
同氏によると、ロシアによるウクライナ侵攻以降、英国はロシアの情報機関に関係する要員ら約1000人を国外退去させた。これにより、ロシア側は攻撃を実行させるため、代理人の雇用に資金を投じざるを得なくなっているという。
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