高エネルギーコスト、世界的な需要の低迷、そして中国を中心とするアジアからの安価な製品の流入という多重の試練に直面し、ヨーロッパの化学産業が過去30年で最大の生存危機に陥っている。
ロイター通信が9月10日に消息筋の話として伝えたところによると、フランス、ドイツ、イタリアなどのEU主要国は、数週間以内にEUに対して極めて異例となる「セーフガード(緊急輸入制限措置)」の発動を働きかける方針だ。特定の化学品やプラスチック製品を対象に、輸入枠および関税制限を課す構えである。
現在、EUで発効している150件余りの貿易防衛措置の多くは、特定国や特定製品を狙った「アンチ・ダンピング関税」や「相殺関税」である。しかし、今回検討している「セーフガード」は適用範囲がより広く、一旦実施すればすべての貿易パートナーに対して一律の輸入枠を設定し、枠を超えた分には関税を課すことになる。EUと自由貿易協定(FTA)を締結している国も例外ではない。
第1弾の申請では、PET、エポキシ樹脂、グラスファイバーといった3種類の重要原料に焦点を当てる見通しだ。これらの原料は、国防、自動車、エネルギー、造船、インフラなどの戦略的産業において幅広く使用している。
ドイツはこれまで、自国の輸出への悪影響を懸念し、強硬な保護貿易政策には消極的だった。しかし、BASF、ランクセス、ワッカー・ケミーなど化学大手が相次いで人員削減を迫られる中、その姿勢も軟化し、フランスやイタリアと歩調を合わせている。
こうした貿易防衛政策への転換の背景には、地政学的リスクと国内産業が抱える複合的な苦境が絡み合っている。
近年、中国は石油化学やプラスチック分野で大規模な増産を進めてきたが、国内需要の減速に伴い、大量の低価格品が海外へと流れ込み、EUの対中貿易赤字が急激に拡大した。さらに、アメリカ政府による追加関税措置により、本来はアメリカ市場へ向かうはずの商品が行き場を失い、貿易規制が比較的緩やかなEU市場へと流入していることで、ヨーロッパの製造業にかかる圧力がさらに増幅している。
これに加え、ウクライナ戦争以降はヨーロッパで電力や天然ガスの価格が高止まりし、厳格な環境規制や高水準の人件費も重なったことで、域内での化学品生産コストはアジアやアメリカを大きく上回る状況にある。
セーフガードの発動には、EUの「特定多数決(加盟国の55%以上かつEU人口の65%以上を代表する国々の賛成)」による承認が必要となる。これまでこのハードルを越えるのは極めて困難であったが、現在の地政学的および産業的危機が、EU加盟各国の足並みを急速に揃えつつある。
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