中国への技術流出相次ぐ日本 国家情報局新設で防諜体制を強化

2026/07/28
更新: 2026/07/28

2025年2月、中国籍の研究員、権恒道は営業秘密を漏えいした罪で、東京地裁から懲役2年6か月、執行猶予4年の判決を受けた。一方、米ゼネラル・エレクトリックの営業秘密を盗み、アメリカで経済スパイ活動の罪に問われた中国系エンジニアの鄭小清は、懲役2年の実刑判決を受けた。

いずれも重要技術の流出に関わる事件だが、適用された罪名や判決には大きな違いがみられた。

こうした法制度上の不備を補うため、政府は情報・安全保障体制の強化を進めている。7月31日には、内閣情報調査室を格上げした「国家情報局」を正式に発足させる予定だ。政府は2027年をめどに、スパイ行為を取り締まるための法整備も進める方針である。

関連法が整備されれば、軍事機密や重要な営業秘密を狙った情報窃取事件に対し、これまで以上に厳格な刑事責任を問えるようになるとみられる。

国家情報局の発足を機に、日本が米英などによる情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」との連携をどこまで深められるかにも注目が集まっている。

安倍元首相の秘書官が初代局長に

初代国家情報局長には、原和也氏が就任する。

原氏は1990年に警察庁へ入り、安倍内閣の首相秘書官や警察庁警備局長などを歴任した。2023年に内閣情報官に就任し、高市首相が2025年就任して以降、国家情報局の創設を推進してきた。

産経新聞によると、原氏は今年5月に米国を訪れ、米情報当局者との会談で、国家情報局を設置する目的を説明した。

国家情報局の職員数は約700人で、治安や国家安全保障に関する情報の収集、分析、評価を担う。

警察庁、公安調査庁、外務省、防衛省などがそれぞれ保有してきた情報を集約し、分析する司令塔となる。

木原稔官房長官は「複雑で厳しい国際環境においてより質の高い、時宜にかなった情報をもとに、政府として的確な意思決定を行うことに繋がる」と述べた。

台湾国防安全研究院研究員、沈明室氏は大紀元の取材に対し、国家情報局の設置は、日本の戦後の安全保障戦略が、受動的な防衛を中心とした体制から、省庁横断で情報を扱う体制へ移ることを示していると指摘した。

中国共産党(中共)、ロシア、北朝鮮による複合的な安全保障上の脅威に対応するための重要な転換点になるとの見方を示した。

日本国内で活動する工作員 数万人との推計も

日本の情報体制の見直しについて、x風きょう中央テレビは、高市政権が進める「再軍事化」の一環だと報じた。

一方、日本には長年、スパイ行為を包括的に取り締まる法律や、防諜活動を統括する専門機関がなかった。このため、日本を「スパイ天国」と呼ぶ声もある。

こうした状況を背景に、日本は中共による軍事、科学技術、産業情報の収集活動の主要な標的の一つになってきたと指摘されている。

戦略研究フォーラムの政策提言委員を務めた藤谷昌敏氏は、ABEMAの番組で、各国の情報機関が把握している情報を総合すると、中共が日本に送り込んだスパイや工作員は約2万〜2万5千人に上ると述べた。

北朝鮮やロシアの工作員を加えれば、日本国内で活動する外国工作員の規模はさらに大きくなるという。ただし、これらは公的に確認された人数ではない。

「週刊大衆」は、中共による対日情報活動は、従来の工作員だけに頼るものではないと報じている。学者、留学生、企業の技術者、民間団体などを通じ、軍事、科学技術、産業に関する情報を集めているという。

軍と民間の技術や人材を一体的に活用する軍民融合を背景とする関係者は、3万〜5万人に上るとの推計もある。

権恒道事件で浮かんだ法制度の不備

権恒道は、中共国防当局との関係が深いとされる大学群「国防七校」の一つ、南京理工大学で教員を務めた後、産業技術総合研究所(産総研)に研究員として入った。

報道によると、権は2018年、フッ素化合物に関する研究成果を電子メールで、北京に本社を置く化学企業へ送信した。

約1週間後、同社は中国で特許を出願し、2年後に認可された。発明者の一覧には権の名前も記載されていた。

この企業の日本法人は、産業技術総合研究所がある茨城県つくば市に置かれ、社長は権の妻が務めていた。

技術流出は個別事件から組織的活動へ

権恒道の事件は、例外的な事例ではない。

近年、中共による日本の先端技術や産業サプライチェーンへの浸透は、従来型のスパイ活動にとどまらなくなっている。

日本メディアは、中国側がLinkedInを通じ、積水化学工業の技術者に接触し、高額な顧問料と引き換えにスマートフォン向け材料の技術情報を提供させていたと報じた。

また、電子機器会社に勤務していた中国籍の技術者が、先端的な農業用温度管理技術を中国企業へ提供した後、中国へ帰国した事件もあった。

捜査当局は、この人物が中共軍関係者と接触していたことを確認し、技術流出が中共の進める農業の近代化政策と関係していた可能性があるとみている。

また、近年、中共との関係が指摘されるハッカー集団による大規模なサイバー攻撃も相次いでいる。

NTTもサイバー攻撃を受け、通信関連データを盗み出そうとする動きが確認された。情報戦が人的な浸透だけでなく、サイバー空間にも広がっていることを示している。

専門家は、中共が軍民融合や、「グレーゾーン戦略」を通じ、日本の科学技術、産業、情報分野への浸透を拡大していると指摘する。

国家情報局は、各省庁に分散する情報を集約する役割を担うが、分散化し、表面化しにくい活動への対応は容易ではない。

沈明室氏によると、国家情報局は情報分析と省庁間の調整を中心に担う機関であり、海外で独自に情報を収集する権限や、捜査、逮捕の権限は持たない。

国家情報局は7月31日に初会合を開き、「国家情報戦略」の策定に着手する予定だ。スパイ防止に関する法制度や組織のあり方、人権とプライバシーの保護についても議論し、政府は早ければ2027年の法案提出を目指す。

沈氏は、現段階で国家情報局に期待される最大の役割は、省庁横断的に情報を集め、ビッグデータ分析を活用し、大量の断片的な情報から異常な活動を見つけ出すことだと説明した。

異常が確認されれば、警視庁公安部や海上保安庁など、捜査権限を持つ機関に速やかに情報を渡し、調査や摘発につなげる。

沈氏はまた、日本の企業や大学も審査体制を強化すべきだと指摘した。

特に軍民融合と関係する組織や人物との交流を慎重に確認し、中共が産学連携、科学技術交流、共同研究などを通じて、機密性の高い技術や重要情報を取得することを防ぐ必要があるという。

ファイブ・アイズとの情報協力強化へ

国内の情報体制を再編することに加え、国家情報局を設置するもう一つの狙いは、アメリカやファイブ・アイズとの情報協力を深めることにある。

2020年、当時の河野太郎防衛相は、日本がファイブ・アイズとの協力拡大を希望していると述べた。双方はすでに緊密に連絡を取り合っており、加盟国から日本に情報共有を求める声も繰り返し上がっていたという。

ただ、複数の研究者は、日本が協力をさらに深めるには、制度面と能力面の不足を補う必要があると指摘している。

台湾国防安全研究院国防戦略・資源研究所所長、蘇紫雲氏は、欧米の情報機関が長年蓄積してきた人的浸透や協力者の獲得、海外での情報収集能力と比べ、日本は人を通じて情報を集める人的情報、HUMINTの分野で依然として弱いと述べた。

日本はこれまで、海外情報の多くを商社や民間企業による情報提供に頼ってきたという。

蘇氏は、国家情報局の設置後、日本の情報体制では二つの重要な変化が起こる可能性があると指摘した。

一つは、警視庁から情報分野の専門人材を登用し、省庁横断の運用体制を構築すること。もう一つは、情報分析機能を維持しながら、海外での情報収集能力を段階的に強化することである。

日本が強みを持つ信号情報

一方、日本は通信や電波を傍受して得る信号情報の分野では大きな強みを持つ。

先進的な電子技術、衛星システム、日本列島から台湾、フィリピンへ連なる第一列島線に配備されたレーダー網を活用し、海上自衛隊と航空自衛隊は長年、中共、ロシア、北朝鮮の軍事活動を監視してきた。

これによって大量の一次情報を蓄積しており、日本が国際的な情報協力に参加するうえでの重要な基盤となっている。

近年、ファイブ・アイズは協力相手を拡大している。台湾の国家安全局も、ファイブ・アイズと一部の協力を進めていることを明らかにしている。

蘇紫雲氏は、アメリカが近年、日本、フィリピン、台湾との間で、より緊密な情報交換の仕組みを構築し、地域の早期警戒能力と抑止力を高めたい考えだと述べた。

沈明室氏は、日本とファイブ・アイズの情報能力は相互に補い合う関係にあると指摘する。

日本は第一列島線の中心に位置し、東シナ海、黄海、宮古海峡周辺にレーダー、ソナー、電子偵察システムを配備している。このため、海空域の最前線における動向を把握し、情報を提供できる。

将来、韓国も協力を深めることができれば、情報ネットワーク全体の価値はさらに高まるという。

地理的な優位性に加え、日本は半導体材料、精密機械、基礎科学などの分野でも高い技術力を持つ。

これらの能力は、同盟国が先端技術のサプライチェーンに関するリスクを減らし、重要技術を分析するうえでも役立つとみられている。

法整備は2027年が節目に

国家情報局は7月31日に発足する予定だが、スパイ防止法など中核となる関連法は、まだ成立していない。

沈明室氏は、2027年には戦略上の重要な意味があると指摘する。

この時期は、中共が台湾に対して大規模な軍事行動を起こす可能性があると国際社会で指摘されている時期と、おおむね重なっている。そのため日本は、それまでに情報体制と法制度を整えたい考えだという。

沈氏は、日本では人権やプライバシーの保護が重視されているため、関連法案は国会で十分な議論を経る必要があると説明した。

制度改革には一定の時間がかかるとみられ、新法が成立するまでの間も、日本は外国勢力による継続的な浸透がもたらす安全保障上のリスクに直面する。

蘇紫雲氏は、日本にとって最大の課題は、憲法9条や既存の法制度により、安全保障分野における政府の権限が制限されていることだと指摘した。

関連法が整備されるまで、政府が行政上の措置によって省庁間の連携を強化し、情報機関全体の運用効率をどこまで高められるかが重要になるという。

権恒道の事件で明らかになった法制度上の不備を受け、日本は長年分散していた情報体制の再編を進めている。

日本の情報改革が実効性を持つかどうかは、スパイ防止法などの整備、省庁間の情報共有、アメリカやファイブ・アイズとの連携をどこまで進められるかにかかっている。

趙彬
顧暁華