世界的な地政学的緊張が高まる中、改正は北朝鮮の指導者が体制維持のみに専念していることを示すと専門家は指摘する。
北朝鮮が憲法を改正し、基本政策に変更を加えた。世界的な地政学的緊張が高まる中での動きで、米国は2月下旬にイラン政権に対する戦争を開始している。
専門家らは大紀元の取材に対し、今回の改正は朝鮮半島における地政学的緊張の一時的な緩和につながる可能性があるとの見方を示した。一方、中国の共産党政権にとっては不確実性が高まったと指摘している。
韓国および海外の複数のメディアは5月上旬、北朝鮮が3月に憲法を改正し、長年追求してきた韓国との「統一」目標を正式に放棄したと報じた。改正後の憲法では「平和統一」や「民族大団結」といった再統一に関するあらゆる表現が削除された。
改正版憲法には新たな領土条項が盛り込まれ、韓国の正式名称である「大韓民国」が明記された。これは平壌が朝鮮半島上に二つの独立国家が存在することを正式に承認したことを意味し、1948年以来数十年にわたり追求してきた統一政策に終止符を打つものとなる。
このほか、憲法から「金日成・金正日憲法」への言及や、「帝国主義侵略者」「搾取と抑圧からの解放」「内外の敵対勢力による破壊活動」といったイデオロギー色の濃い表現もすべて削除された。
一方、改正憲法は北朝鮮を「責任ある核保有国」と位置付け、金正恩総書記に核兵器使用の権限を付与している。
3月22日に北朝鮮の追認機関である最高人民会議で承認された改正憲法は、金正恩氏が暗殺された場合の自動的な核報復攻撃も義務付けていると、英紙デイリー・テレグラフが5月8日に報じた。
北朝鮮の憲法改正は、2月に米軍がイラン神権体制の最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害したのを受けた動きだ。
台湾の国防安全研究院・国家安全研究所の林志豪・助理研究員は今回の憲法改正について、「北朝鮮は米国に対し、自国の体制を守るための核戦力の抑止力と、朝鮮半島で米国と軍事的に衝突・対立する意思がないことの両方を示している」と大紀元に語った。
米国在住の軍事評論家で、中国語の軍事ニュースを扱うユーチューブチャンネル「Mark Space」を主宰する曹マーク氏によれば、トランプ政権がベネズエラとイランの指導者を排除し、キューバに対して全面的な封鎖を科すのを目の当たりにし、金正恩氏はトランプ大統領の次の標的が自分になることを恐れているという。
曹氏は、今回の憲法改正は金正恩氏の目的が単に北朝鮮の体制維持にあることを示しており、金正恩氏は朝鮮半島のいわゆる統一を実現する能力が自らにはないと認識している、と分析した。
東アジアにおける地政学的影響
曹氏によれば、韓国の存在、すなわち大韓民国を正式に承認することは、北朝鮮が朝鮮半島の唯一の正統な統治者であるとしてきた従来の主張とは大きく異なる。これにより金正恩氏はもはや韓国に侵攻する意思を表明する考えはなく、法的観点からは朝鮮半島の統一という野心と願望を実質的に放棄したことになる。曹氏は、この変化は金正恩政権の従来の立場から一歩後退するものだと付け加えた。
第二次世界大戦後の朝鮮半島の状況は、台湾海峡を挟んだ両岸の状況と類似している。すなわち、同じ民族で同じ文化的ルーツを持つ人々の間で、共産主義政権と自由民主主義体制が対峙する構図である。両共産主義政権はいずれも民主主義側の存在を否定し、武力による「統一」を絶えず脅してきた。しかし、北朝鮮政権が立場を転換したのに対し、中国共産党政権は台湾、すなわち中華民国の主権を依然として否定し続けている。
林助理研究員は、北朝鮮が南北関係を「国家間の国際問題」へと格上げしたことは、朝鮮半島および台湾海峡をめぐる地政学について、中国本土を統治する中国共産党にとって不確実性を高めた、と指摘した。
曹氏によれば、こうした行動を通じて金正恩氏は事実上、中国共産党から韓国に圧力をかけるための重要な交渉カードを奪った。これは中国共産党にとって対処の難しい状況であり、少なくとも歓迎できる展開ではないと曹氏は述べた。

北東アジアおよびより広範なアジア太平洋地域の地政学の観点から見れば、金正恩氏の動きは朝鮮半島の緊張緩和につながる可能性が十分にあると曹氏は分析する。
林助理研究員は、今回の憲法改正は北朝鮮が自国の利益に有利な国際環境を醸成しようとする試みを示すものだとし、北朝鮮・中国・ロシアの三か国関係の力学を調整しようとする可能性が極めて高いと指摘した。
曹氏によれば、実際のところ北朝鮮と中国共産党との関係は決して良好なものではなかった。北朝鮮は中国共産党に対して根深い警戒感を抱いており、その結果、中国共産党と組むよりもロシアと結束することを選び、中国共産党と意図的に距離を置いていると曹氏は説明した。
近年、ロシアと北朝鮮の関係は著しく緊密化している。金正恩政権はウクライナに対するロシアの戦争を支援するため兵士の派遣を含む軍事支援を提供し、その見返りとしてプーチン大統領は北朝鮮にミサイル開発を中心とする軍事技術を提供してきた。一方、中国と北朝鮮の関係は、特に新型コロナウイルスの世界的流行以降、冷え込んでいる。
曹氏は、金正恩氏の最大の懸念は、米国がベネズエラやイランに対して行ったような「最大限の圧力」を実際に北朝鮮に行使してきた場合、それに耐えられるかどうかだと述べた。曹氏によれば、金正恩氏はロシアが自国の問題で手一杯であり、北朝鮮を支援する余地が限られていることも認識している。
曹氏は、金正恩氏が中国とロシアの実際の支援意思と能力を慎重に見極めてきたとした上で、ベネズエラ、キューバ、イランといった国々に対する中国共産党の姿勢を観察した結果、金正恩氏はかなり失望させられたと指摘した。曹氏によれば、中国共産党がこれらいわゆる「弟分」の国々を全力で支援していないと金正恩氏は見ており、自身の生き残りに対し顕著な脆弱性と危機感を抱くようになった。
その結果、金正恩氏は防衛的な姿勢をとり、何よりも自己保存を優先するようになったと曹氏は分析する。
曹氏によれば、金正恩氏は米国および西側諸国に対し、自らの唯一の目的は北朝鮮の確保と維持であり、自国の支配者であることだけを志向しているとのシグナルを発した。朝鮮半島全体については、金正恩氏は過大な野心を抱いていないと曹氏は付け加えた。
「社会主義」の放棄
北朝鮮の共産主義政権は1948年9月に初めて憲法を制定し、1972年に社会主義憲法を導入した。今年3月の憲法改正で注目されるのは、題名および関連条項から「社会主義」の文字が削除された点である。
曹氏は、憲法から「社会主義」の文字を削除し、「半島統一」の理想への言及を取り除いたことは、「金正恩氏が比較的現実主義的であることを示している」と述べた。曹氏によれば、金正恩氏の主たる目的は金一族の世襲的地位を世代を超えて維持すること、すなわち金王朝の存続にある。

第二次世界大戦後、朝鮮が日本の統治から解放されると、ソビエト連邦の占領軍は金正恩氏の祖父である金日成を選び、北朝鮮の共産主義政府を樹立し率いる任を与えた。金日成はソ連赤軍の将校を務めた経歴を持つ。北朝鮮政権はソ連から全面的な支援を受け、半島南部は米国とその西側同盟国が支援した。
曹氏は金一族政権の起源について、金日成が権力の座に就いたのは全面的にソ連のおかげであり、ソ連の庇護の下で共産主義的な統治モデルの採用を余儀なくされたと説明した。
ただし、金日成が自党に付けた名称が「共産党」ではなく「労働党」であった点は注目に値すると曹氏は指摘する。曹氏によれば、金日成は「共産党」という呼称を意図的に避けており、これは金日成自身が「共産党」という呼称や共産主義のイデオロギーそのものに嫌悪を抱いていたことを示唆する。
曹氏によれば、現代において金正恩氏はこの社会主義が実際には行き詰まりに達したと認識している。「社会主義」の文字を放棄することによって、金正恩氏は米国と西側に対し、自国は本物の共産主義国家ではなく単なる王朝的独裁にすぎず、したがってイデオロギー上、西側と対立してはいないと示そうとしていると曹氏は分析した。
林助理研究員は、これは金正恩氏が安定した党国家の行政体制を確立する意図を示すものであり、同時に世襲支配の路線を強化するものだとし、これにより「政治体制」と「統治の正統性」の双方がさらに固められると指摘した。
将来への備え
近年の金正恩氏の健康問題と、娘との公の場での同伴が増えていることが国際的な注目を集めており、金正恩氏が政権の後継者を準備しているとの観測を呼んでいる。
林助理研究員は、北朝鮮の最近の憲法改正と国内の政治教育の内容から判断すると、北朝鮮政権は「金日成・金正日主義」という過去のイデオロギー枠組みからの脱却に成功したと述べた。林助理研究員によれば、この転換によって憲法から「民族統一」条項の削除が可能となり、これは金正恩氏の国内政治改革が具体的な成果を上げたことを示している。
林助理研究員は現状を踏まえ、娘の金主愛氏が後継者となる可能性は極めて高いとの見方を示した。
曹氏は、ロシアであれ中国共産党であれ、いずれも真の友ではなく、いずれも金王朝の存続を保証することはできないと述べた。曹氏によれば、金正恩氏は娘が将来的に西側との和解の道を歩むことを望んでおり、これが金正恩氏の主たる考慮事項だという。
林助理研究員は、朝鮮半島における金正恩氏の立場や今後の展開について、より慎重な見方を示した。林助理研究員によれば、金正恩氏の対米姿勢は今後の推移を見守る必要があるが、朝鮮半島の非核化に関する米国の立場を変えることは困難であり、この問題は今後も米朝関係の発展の障害となり続ける可能性がある。
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