近年、退職あるいは引退した中国共産党(中共)の官僚が出国後に行方不明となる事例が相次ぎ、党内で警戒感が高まっている。体制内部の複数の関係者によると、当局は私的な出国申請の審査を大幅に厳格化するとともに、在職・退職者の資産や出入国の動向を常時監視し、資金流出や機密情報の漏洩防止に乗り出している。
こうした動きの背景には、省級統一戦線工作部の元官僚・馬瑞林氏が最近、米CNNのインタビューに応じ、党内部の実情を暴露した問題がある。これを受け、官僚の出入国管理は政権の安定に直結する重要課題として扱われるようになった。
関係者の沈氏(仮名)によれば、今年1月以降、退職・引退した複数の官僚が出国後に行方不明となっている。「少なくとも6人確認しており、大半は局級や処長級の幹部だ。家族はすでにアメリカやオーストラリア、ヨーロッパに定住しており、出国前に不動産を処分し、預金の大部分を引き出している。中には年金さえ放棄する者もいる」と語る。
沈氏は、これらの官僚について「計画的な逃亡」との見方を示す。現時点で調査対象には含まれていないものの、同僚の相次ぐ失脚を目の当たりにし、官界の不安定さを恐れて退職後の待遇を捨て、海外へ資産を持ち出して生き延びようとしていると分析している。
アメリカ亡命の元高官による暴露で 出国管理が厳格化
甘粛省統一戦線工作部の元幹部である馬氏は、家族とともにアメリカへ渡りCNNの取材に応じた。その中で新疆ウイグル自治区における強制収容施設の存在を認めたほか、党内では表向き習近平に同調する姿勢を見せながらも、内心では支持していない官僚が少なくないと指摘した。
沈氏によると、このインタビュー内容が党の上層部に報告されたことが、退職・引退官僚に対する出入国規制強化の直接的な契機となった。党関係者は「海外での情報漏洩を防ぐため」と説明している。
特に、民族・宗教政策に20年以上携わってきた回族系官僚である馬氏の離脱は、統一戦線工作における重大な空白と受け止められている。また、関係者の徐建氏(仮名)は、馬氏の出国自体が異例であり、その後の暴露により、当初出国を承認した担当者が厳しい責任追及を受けると指摘する。
「事実上出国できず」 在職官僚に広がる萎縮
体制内部の関係者によると、中央政府機関や国務院傘下の企業・事業単位は、職員のパスポート申請や更新を厳格に審査する内部通達を出し、出国管理を一層強化している。退職した官僚についても、家族の海外状況や資産の動きを詳細に確認し、収入と資産が一致しない場合には出国制限を課すという。
別の関係者、丁玉其氏(仮名)は「在職官僚は事実上出国できず、承認した側も責任を負う連座的な仕組みになっている」と語る。このため現場では自己防衛の観点から、出国申請に対して「遅延・阻止・拒否」が常態化し、多くの官僚の出国の自由は実質的に凍結されている。
反腐敗強化で官界に緊張
中共上層部が「過去20年に遡る反腐敗の徹底追及」を指示する中、退職した末端官僚の間では資産整理の動きが加速している。丁氏は「多くが不動産を売却し、海外移住を模索している」と述べ、当局もこうした動向を注視し、特別調査を開始している。
北京の学者・李氏は、こうした恐怖感が中低層の官僚にも広がっていると指摘する。「新たな反腐敗の動きにより、安全圏にいると思われていた人々も再び不安を抱いており、官界は極度の緊張状態にある」という。
山西省太原市の退職官僚、黄氏(仮名)も現状を「草木皆兵(恐怖心から、山野の草木までも敵の兵士に見える)」と表現し、「いつ自身の過去が調査対象になるか分からない」と日々不安を抱えていると語った。
統一戦線工作部元幹部による暴露と、退職官僚の相次ぐ失踪は、中共体制内部の緊張を一段と高めている。
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