トランプのグリーンランド獲得執念の理由 中国北極浸透と氷上シルクロードを封じる戦略

2026/01/15
更新: 2026/01/15

トランプ米大統領がグリーンランド獲得に執念を燃やす理由は、中国の北極浸透阻止。自治拡大後のレアアース投資と「氷上シルクロード」戦略を分析。買収・連合のシナリオと中国共産党(中共)への打撃を専門家が解説。

アメリカがベネズエラへの奇襲作戦でマドゥロ大統領を捕らえた翌日、トランプ大統領はグリーンランドに視線を向けた。1月5日、トランプ大統領は「国家安全保障の観点から見ても、我々にはグリーンランドが必要だ」と述べた。

その後、トランプ大統領はさらに「アメリカはグリーンランドを借りるのではなく、手に入れなければならない」と強調し、「もし我々が動かなければ、ロシアや中国が動くだろう。私が大統領である限り、そんなことは絶対に起こさせない」と警告した。

トランプ氏がグリーンランド獲得に執着する背景には、一つの重要な要素がある。

グリーンランドの自治拡大と中共の浸透開始

すべては十数年前に遡る。

2009年6月、「グリーンランド自治法」を正式に発効し、外交・国防および通貨政策を除く大部分の権限がグリーンランド政府に移譲した。同法はまた、グリーンランドがデンマーク王国から離脱し、独立を宣言する権限を有すると明記している。

とはいえ、政治的独立には経済的独立が前提である。現状では、グリーンランド政府の歳入の約60%が年間約35億デンマーククローネ(約735億円)の特別交付金に依存しており、この交付金は自治化以降凍結されている。つまり今後は、財政のより大きな部分を自らで賄う必要があるということだ。

こうした状況の下、グリーンランド政界では外部投資を呼び込む必要性が広く認識されるようになった。特に、同地は世界第8位のレアアース埋蔵量を誇り、世界最大級の鉱床を2か所抱えている。

このころから中共の影がグリーンランド島に差し始めた。

2020年の研究によれば、グリーンランドがデンマーク政府からより広い自治権を獲得し、欧州共同体(EC)を離脱した後に生じた権力空白を、中国が埋めたという。デンマーク王国はいまだ外交と国防を所管しているが、グリーンランド自身も外国と独自に国際協定を締結できるようになった。これがデンマークおよびEUにとって新たな懸念材料となっている。

2013年以降、中共の影響力と投資はグリーンランドの天然資源分野で徐々に顕在化していった。いまやグリーンランドは北極圏において、中国投資のGDP比が最も高い地域となっている。

2016年、中国のレアアース企業・盛和資源有限公司がクヴァネフィェルド鉱山の筆頭株主となり、2018年には同社が同鉱山で採掘される資源の加工・販売を主導する旨の覚書を締結した。

台湾・東海大学政治学科の林子立教授は大紀元の取材に対し、「グリーンランドの人々は独立を望んでいる。しかし独立には財政的自立が不可欠であり、これはデンマーク政府が課した条件でもある。財政自立を果たす唯一の道は、レアアース鉱物を次々に開発・売却することだ。まさにその段階で中共の介入余地が生まれた」と語った。

実際、中国本土の一部学者も「独立したグリーンランドは中共が北極圏に進出しやすくする」との見方を示している。

グリーンランド(shutterstock)

中国の北極戦略 「氷上シルクロード」と軍事活動の拡大

十数年前、中共はその野心を隠すため、北極問題について沈黙を守りながら、行動を起こした。「極地資源の潜在価値」といった言葉の使用すら避けていた。

しかし2013年、習近平政権が発足すると状況は変化した。同年4月に発表した『国家海洋事業発展第12次5か年計画』では、北極航路の利用調査・研究、北極探査の常態化などを明記した。さらに2014年6月、中共軍の『戦略評価2013』報告書では、北極の海上輸送および資源開発の戦略的重要性を強調し、「北極資源を共有する権利」を中共にとっての「重要な戦略的利益」と位置づけている。

2018年1月、中国は初の『北極政策白書』を正式発表し、自国を地理的に「近北極国家」と定義した。同白書では初めて「氷上シルクロード」の概念を提唱し、従来の西向き・南向きの海上シルクロードに北向きの航路を追加した。

「氷上シルクロード」は北東航路・北西航路・将来構想の中央航路という三つのルートで構成される。

北東航路は主にロシアの支配下にあり、上海からハンブルクまでの貨物輸送が18日で完了する。スエズ運河経由の場合は約35日を要する。一方、北西航路は北米大陸北岸に沿ってカナダ北極諸島を抜けるルートで、パナマ運河経由より約20%短縮される。

中共が言う「氷上シルクロード」は単なる航運構想ではなく、地政学秩序を再編しようとする試みであり、世界戦略バランスを転換させる潜在力を持つ。

2013年以降、中国遠洋運輸公司は北極航路の利用を拡大し、2021年までの8年間で26隻・56航行を実施した。2021年だけでも14回に上る。

2015年には、中共海軍の5隻の艦艇がアラスカ沖のベーリング海を通過し、アメリカ側の警戒を招いた。2016年には香港拠点の企業が退役したデンマーク海軍基地の買収を打診し、2018年には中共国有企業がグリーンランドの空港滑走路拡張事業への入札を試みた。いずれの計画も最終的にデンマーク政府が拒否した。

2017年には中共の調査船「雪龍号」が初めて北西航路を通過。2020年には中国の学者らが「グリーンランドを氷上シルクロードの戦略的支点として活用すべき」と提唱した。

2024年10月には中共の海警艦艇が初めて北極海海域に進入。従来より北方での活動は、中共がアメリカ勢力圏にまで行動範囲を拡大したことを意味し、アメリカへの挑発メッセージとも受け取られている。

トランプが譲れないグリーンランドの安全保障価値

トランプ氏の第1期政権下で、アメリカは中共の浸透を懸念し、2019年にはデンマークに対しグリーンランド購入を正式に打診した。

第2期政権となった現在、トランプ氏がなおもグリーンランド獲得に強くこだわる背景には、北極圏をめぐる覇権争いと安全保障戦略の再編がある。アメリカが同島を直接支配することは、その目標達成の最も有効な手段と見なされている。

1月11日夜、トランプ大統領は「基本的に、彼ら(グリーンランド人)の防衛手段といえば犬ぞりが二台あるだけだ。その一方でロシアと中国の駆逐艦や潜水艦があちこちに展開している。そのような状況は許さない。もしそれがNATOに影響するなら、それはやむを得ない」と発言した。

同大統領は改めて「アメリカはグリーンランドを借りるのではなく、必ず手中に収めなければならない。もし我々が先に動かなければ、ロシアか中国が動く。私が大統領である限り、それは絶対に起こさせない」と強調した。

台湾淡江大学国際事務与戦略研究所の馬准威副教授は、「グリーンランド周辺には大国が存在せず、カナダがかろうじて中堅強国といえる程度だ。アイスランド、ノルウェー、デンマークなど他の国々は大国と競い合う力を持たない」と述べた。

馬氏はさらに、「中共の軍艦は北極一帯で頻繁に活動している。デンマーク側は確認していないが、監視能力でアメリカがデンマークを上回っていることを考えれば、中露の艦艇がこの海域に出入りしていることをアメリカが把握している可能性は高い。世界唯一の覇権国家であるアメリカが、中露をこの地域で自由に活動させるとは考えにくい」と分析した。

中央警察大学教授で中華海巡協会秘書長の葉雲虎氏は、「グリーンランドは北米とヨーロッパの間に位置する要衝であり、アメリカにとって航路の安全確保のみならず、海上戦や対潜作戦における戦略拠点でもある」と指摘した。

同氏はまた、「アメリカ軍はグリーンランドにミサイル早期警戒用の宇宙関連基地を設置している。アメリカがグリーンランド周辺海域を中露の潜水艦で満たすような事態を容認するはずがない」と述べた。

アメリカ議会動向 トランプ政権のグリーンランド買収法案

1月12日、フロリダ州選出の共和党下院議員ランディ・ファイン氏は、グリーンランド獲得とアメリカ編入を目的とする法案を提出し、トランプ大統領に「必要なあらゆる措置を講じる」権限を与えることを目指した。

13日には、トランプ大統領の北極問題担当特使トーマス・ダンス氏が米紙「USAトゥデイ」に対し、「トランプ氏のグリーンランド占領への意欲はくじかれておらず、アメリカは数週間から数か月以内に意味ある行動を取る可能性がある」と語った。

同氏は、交渉が進展し合意に達することもあるとしつつ、最終的な買収完了までには時間を要すると補足した。

これに先立つ1月9日、トランプ氏は「できれば簡単に合意に達したいが、それが無理なら困難な交渉でもやり遂げるしかない」と述べていた。

独立したグリーンランドが中共の北極進出を容易にするとの見方もあるが、現実的には、独立によって同島が安全保障面で一層アメリカへの依存を強める可能性のほうが高いとされる。

この依存関係が強まれば、アメリカはグリーンランドでの中共活動を抑え込むうえで、現在以上に強い影響力を握ることになる。

トランプの3つの選択肢 買収・連合・軍事介入の実現性

トランプ氏がグリーンランドを手中に収めるシナリオは三つある。

第一の案は、率直に「買収」することである。2025年1月には、アメリカ政府はグリーンランド買収交渉の権限を与える「グリーンランドを再び偉大にする法案」(Make Greenland Great Again Act)ほか関連法案を提出した。

第二の案は、「分離独立後の連合」である。デンマーク政府が「グリーンランドは売り物ではない」と売ることを強く拒否する中、「いったん独立したうえでアメリカと連合を結ぶ」という方式が代替案として浮上している。

第三の選択肢は軍事介入である。

葉雲虎氏は「もしトランプ氏が軍事行動に踏み切るなら、その前にNATOを離脱しない限り難しいだろう。そうなれば深刻な対立と衝突を招き、この選択肢の実現可能性は極めて低い」との見方を示した。

同氏はまた、「グリーンランドが完全な独立国家となる可能性は高くはない。その理由は、自前で国防費を賄う財政力がないためだ」と指摘した。

その隙を突いてロシアや中共の勢力が流入し、実質的な影響力を強める恐れがあるとして、「仮にグリーンランドが独立すれば、自前で軍事・外交・財政を運営しなければならず、NATO加盟か、アメリカまたはデンマークとの安全保障協定締結かという選択に直面する」と述べた。

さらに葉氏は「一つの可能性として、グリーンランドとアメリカの関係をクック諸島とニュージーランドの関係に似た形にする案がある」と提案。グリーンランドをアメリカの『自治連合国』と位置づけ、外交と防衛をアメリカが全面的に引き受ける構想である。

「要するに、財政支援と安全保障の担い手がデンマークからアメリカに代わるだけだ。このシナリオが最も実現しやすい」と葉氏は述べた。

グリーンランド掌握で中共に与える戦略的打撃

グリーンランドは北極圏のほぼ中心に位置し、アジア・アメリカ・ヨーロッパを結ぶ結節点に当たる。

アメリカがこの戦略的要衝を確保すれば、中共にとっての最大の打撃は、同地域での活動がすべて監視下に置かれ、商船や軍艦の動向など各種データが透明化する点である。

さらに、グリーンランドがアメリカ領、またはアメリカの自治連合国となった場合、中共の港湾・空港・海運・衛星・レアアース投資はアメリカの安全保障審査の枠内に組み込まれることになる。結果として中国資本の影響力は大幅に制限され、中共が常用してきた「経済をてこにした政治介入」戦略はグリーンランドでは早期に封じられる公算が高い。

アメリカがグリーンランドを掌握すれば、北極圏の「門戸」を押さえることに等しくなり、中共の航空機が同地域に接近すれば即座に探知可能となる。さらに、中共が観測所や衛星通信施設など「グレーゾーン」インフラを軍事転用することも、これまで以上に困難になると見られる。

葉雲虎氏は「グリーンランドがアメリカ領となれば、アメリカは北極問題の主導権を握りやすくなり、『中露が共同で安全保障上の挑戦となっている』という枠組みの下で北極議題を再構築できるだろう」と指摘した。

その場合、中共がグリーンランドとの協力関係を通じて北極ガバナンスへの関与を正当化しようとしても、障壁はこれまで以上に高くなる見通しである。

宋唐
易如