日本でも、ここ数年たばこの値上げが続いている。
健康対策を前面に掲げつつ、1箱の価格は大きく上がってきた。
喫煙エリアも年々減り、決められた場所以外では吸えない状況が広がっている。
それでも日本では、不満が大きな動きになることは少ない。
値上げも規制も、いつの間にか日常の一部として受け入れられていく。
では中国はどうか。
中国では今、たばこをめぐってまったく別の反応が広がっている。
値上げに対する答えは、抗議デモでも署名運動でもなかった。
「禁煙」という選択だった。
2026年1月、当局はたばこの流通管理を強化する新たなルールを始めた。
名目は偽物対策だ。
だが実際には、安いたばこの流通を締め付け、価格を押し上げる狙いだと受け止められている。
店頭では低価格帯の銘柄が姿を消し始めた。
2割前後の値上げが取り沙汰されている。
生活が苦しくなる中での値上げに、不満は一気に広がった。
「もう、たばこを通じて金を取られ続けるのは嫌だ」。
そんな声がネット上に並んだ。
やがて、2026年の元旦を前に、中国のネット上で「みんなで一斉に禁煙しよう」という呼びかけが現れた。
動画で禁煙を宣言する人も次々と現れ、多くの人が呼応した。
この動きは、健康志向の広がりではない。
発端は、たばこをめぐる強い不満だった。
値上げだけではない。
品質への疑念も広がった。
多くのネット利用者が実験動画を投稿した。
中国国内産のたばこは、輸入品や香港のたばこより燃焼時間が明らかに短いという。
このため、一部では、助燃剤が加えられているのではないかとの疑念が出た。
「早く吸い切らせ、より多く金を取るためではないか」と受け止められた。
背景には、たばこをめぐる国家の仕組みがある。
中国では、たばこ産業は国家による専売体制に置かれている。
製造、流通、価格管理は国家が握る。
たばこは重要な収入源だ。
喫煙者は長年、その仕組みを黙って支える存在だった。
一方で、この業界では、世襲と利権が固定化し、腐敗が続いてきたと指摘されている。
そこに、経済の悪化が重なった。
中国経済は減速している。
賃下げが広がり、賃金未払いも増えた。
失業に直面する人も少なくない。
生活の重圧は、確実に強まっている。
その中で、当局はたばこの値上げを進めた。
国民からさらに利益を吸い上げようとしている。
多くの喫煙者は、そう受け止めた。
ネット上には、率直な言葉が並んだ。
「理由はどうあれ、これ以上あの連中を養いたくない」。
やがて、不満は行動に変わった。
声を荒げる抗議ではない。
ただ、吸うのをやめる。
金の流れを断つ。
それが、彼らなりの拒否だった。
ネット世論では、この禁煙運動を特別な動きと見る声が出ている。
中国社会における、さらなる覚醒を象徴するものだという。
禁煙の動きが広まれば、中国共産党の財政にも一定の打撃を与えるとされる。
公開データによると、2025年末時点で中国の喫煙者は約3億人に上る。
世界の喫煙者の約3分の1にあたる規模だ。
たばこに課される重い負担は、長年、財政を支える柱とされてきた。
この点について、中国人民大学の法律学教授、羅祥(ら・しょう)氏は次のように語っている。
羅祥氏は、中国では珍しく、制度の矛盾や不都合な現実を率直に語ることで知られ、ネット上でも高い支持を集めている。
「中国には多くの偽物があるが、当局は本気で取り締まっていない。
力を入れているのは偽のたばこや酒だ。
国家の利益を侵害するからだ。
たばこ1箱には45%の消費税、17%の付加価値税、さらに流通税がかかる。
10元のたばこでも、原価は1元にも満たない。
吸えば吸うほど、国家への貢献が増える。
私はその仕組みを知り、何年も前に禁煙した。
あれほど多くの税金を払うと分かったからだ」。
健康や家計といった理由も一因だろう。
そうした事情が一部にあることは否定できない。
ただ、目立つのは、
「これ以上、国家に貢献したくないから、意地でも吸わない」
という姿勢だ。
値上げは、静かに進められた。
反発もまた、静かに広がっている。
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