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于朦朧事件 于朦朧事件の波紋 国家ぐるみ隠ぺいへの国民の反撃

中国のファンが「推し」の映画をボイコット 于朦朧事件がもたらした予期せぬ連鎖

2025/12/08
更新: 2025/12/08

「本当にごめんなさい……今回だけは許して。だって、この戦い、負けるわけにはいかないから。」

最近公開された新作映画に出演した中国の俳優・歌手シャオ・ジャン(肖戦)。そのトップスターを長年応援してきたファンたちが、今、SNSで涙ながらにこう訴えている。

本来なら公開初日に駆けつけ、劇場を盛り上げるはずの「推し」のファンたちである。

「決して嫌いになったわけじゃない。愛してる。一生応援する。でも……今回は観に行けない」同じような投稿がSNSで相次ぎ、「私も同じ気持ち」「一緒に踏ん張ろう」と共感の声が広がっている。

——大好きなスターの映画を涙を呑んで観に行かない。
そこまでして挑む「負けられない戦い」とはいったい何なのか。

 

〈肖戦の新作映画を前に、「ごめん、今回は観に行けない」と涙ながらに事情を説明するファンの投稿をまとめたスクリーンショット。いずれも于朦朧事件を受けて「娯楽ボイコット」を貫く決意を示したものだ。・「観ない。あなたのせいじゃない。消された“あの人”のため。」
・「誰の映画も観ないと決めた。」
・「何年もあなたのファンだけれど、今回は観に行けない。本当にごめん。」
・「観に行けば、この2か月の努力が無駄になる。」
・「今回は于朦朧のために観に行かない。」

 

 「戦い」の正体

それは、中国全土で静かに広がりつつある「娯楽ボイコット(中国語:禁娯)」という市民の戦いである。特定の芸能人や作品に対する支持活動を一時停止し、公式・市場に対する抗議や圧力として用いる行動を指す。この行動の引き金となったのが、俳優・于朦朧(アラン・ユー、享年37)の不審点だらけの突然死だ。

 

故・中国人俳優の于朦朧(アラン・ユー/ユ・メンロン/ユ・モンロン、享年37歳)。

 

于朦朧は9月11日、北京の高級住宅で不審な死を遂げた。助けを求める叫び声が団地中に響いていたにもかかわらず、警察はわずか1日で「事故」と断定。関連投稿は即座に削除され、アカウント凍結、情報発信者の拘束まで続く異常な封殺が続いた。

一方、市民調査が進むと、長期監禁、性的暴行、過酷な契約、計画的殺害説のほか、于朦朧名義で兵器関連を含む数十社が作られていた事実が判明。芸能界を利用したマネーロンダリング疑惑が急浮上した。同様の名義利用は他の芸能人でも確認され、国家権力と娯楽産業を結ぶ深い闇が市民の間で共有されていく。

こうした深刻な疑念が積み重なる中、それでも芸能界はほぼ沈黙を貫いた。ごく一部の友人が控えめに追悼したものの、背後の闇の大きさを思えば、誰もが保身に走らざるを得なかった事情は理解できなくもない。

さらに追い打ちをかけたのが、于朦朧が倒れた高級団地に、トップスターを含む約80人の芸能人が住んでいたという事実である。あれほどの悲鳴が響き渡っていたのに、「聞こえなかった」ということがあるのだろうか。

それでも誰一人、公には声を上げなかった。この現実は、市民に「芸能界は腐っている」と痛感させる結果となった。

さらに市民調査で共有された 「加害者リスト」の存在が怒りを決定的にした。

そのリストには大物俳優や人気タレント、著名プロデューサー、スポンサー企業の関係者、芸能事務所の幹部、特権階級の子女らが名を連ねていた。市民はここで初めて、「芸能界の上層と特権階級が事件の背後で結びついているのではないか」という疑念を抑えられなくなった。

 



中国「強制火葬」への反乱が拡大 「遺体を奪わせない」雲南・貴州で数千人が連日集結 

「于朦朧事件」連載第2回。沈黙を強いられる地上で何が起きているのか。世界では「Justice for Alan Yu(アラン・ユーに正義を)」の声が響いている。

 

こうして積もり積もった不信は、「娯楽ボイコット」という行動となって噴き出した。

10月、浙江省杭州の音楽イベントで、于朦朧の所属事務所と同系列の大手メディア企業名が読み上げられた瞬間、観客席のあちこちから「倒閉(つぶれろ)!」という怒号が響いた。

組織でも指示でもない。
沈黙を強いられ続けた市民の、抑えきれない怒りが噴出した瞬間だった。

 

(現場映像、2025年10月25日、浙江省杭州で開かれた音楽イベント『至少今天很快乐』の会場では、主催企業として芒果超媒(マンゴー・スーパー・メディア/于朦朧が生前所属していた天娛傳媒と同系列の巨大メディアグループ)の名が読み上げられた瞬間、観客席のあちこちから「つぶれてしまえ!(中国語:倒閉〈ダオビー〉)」という叫び声が沸き起こった)

 

観ない、買わない、再生しない。

市民が選んだ「静かな反撃」は、こうして中国全土へ広がっていった。

——市民はこう語る。「于朦朧を見捨てるなら、私たちもあなたたちを見ない」

SNSでは呼びかけが連鎖した。

「沈黙する娯楽業界には一銭たりとも払わない。再生数の一回すら貢献したくない」
「加害者リストに載る俳優・プロデューサー・スポンサーの作品はすべてボイコットする」
「于朦朧事件の真相が明らかになるまで、この戦いは終わらない」

娯楽ボイコットの矛先はやがて、彼の所属事務所の親会社である巨大メディア企業へ集中した。動画配信サービスの登録者数は急減した。

SNSでは「つぶれろ!」といった呪いにも近い罵声が飛び交い、企業イメージはかつてないほど失墜し、株価も下落の一途をたどっている。

その下落はSNSでも「良い知らせ」として共有され、「私たちの戦いは無駄じゃなかった」「この調子で続けよう」と市民同士が励まし合う姿も広がっている。

禁娯は、一部ファンの気まぐれではない。
声を封じられた社会で、市民に残された数少ない意思表示のかたちであり、その静かな選択がいま、中国全土の風景を変えつつある。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!