アメリカ議会 米中経済・安全保障調査委員会(USCC)報告書は、中国共産党(中共)がイラン・ロシア・北朝鮮に対し多様な方法で経済制裁逃れを戦略的に支援し、国際的な回避ネットワークの中枢的役割を担っていると警告した。
北朝鮮は長年の制裁による貿易封鎖の中で、穀物や燃料など生活必需品から軍需・技術供給まで、中国にほぼ全面的に依存している。中国とのグレーネットワークは北朝鮮経済・金融の生命線となり、アメリカはネットワーク遮断に向けて規制強化を進めている。
報告書によれば、中国は平壌にとって経済的・金融的生命線の双方を担っている。
経済制裁下の北朝鮮−中国のグレーネットワーク
まず経済面から確認する。北朝鮮は核開発問題をめぐり、長年にわたり国連、アメリカ、日本、韓国から多重制裁を受け、対外貿易がほぼ全面的に制限されている。
このような状況下で、北朝鮮が穀物、燃料、金属、化学製品、機械設備、さらには生活必需品を輸入するには、誰を頼るのか。
答えは明らかである。ほとんどすべてを中国に依存している。
北朝鮮の輸入物資の大半は、中国との国境経由、あるいは非公式な「地下ルート」を通じて流入している。
とりわけ制裁が最も厳しい近年、北朝鮮の中国依存度はむしろ高まり、封鎖が厳しくなるほど「見て見ぬふりをする隣国」である中国の存在が不可欠になっている。それがなければ、物資を国内に取り入れることも、輸出を行うことも不可能である。
報告書は、制裁下の環境において、北朝鮮と中国の間に平壌の基本的な経済活動を支える「グレーな貿易ネットワーク」が自然発生的に形成されていると分析する。

サイバー資金と中国経由のマネーロンダリング
次に金融面である。この部分はさらに敏感で、かつ重要である。
北朝鮮がサイバー犯罪によって得た多くの資金は、中国を経由して洗浄されている。
北朝鮮のハッカーは銀行、暗号資産取引所、さらには民間企業を攻撃し、得た資金を「クリーンマネー」へと転換する必要がある。そうして初めて、平壌政府はその資金を用いて技術や装備を購入できるのである。
では、この資金はどのように洗浄されているのか。
これらの資金は、通常、中国の地下銀行やペーパーカンパニーを経由し、さらに香港の銀行や仲介プラットフォームも組み合わせながら、資金を分散・転送・混合し、最終的には「合法的な貿易収入」として統合される。
外から見れば、ある香港の貿易商が突然数百万ドル(約数億円)もの収入を得たようにしか見えない。しかし、その背後にある北朝鮮の資金源は全く見えない。
報告書はさらに、北朝鮮のサイバー犯罪による収益が、中国の金融システムによって「道筋を整えられ」、世界的な金融監督を回避し、最終的に平壌政府の手に戻っていると指摘している。
供給チェーン
そして最後の部分では、多くの人が「そうではないか」と推測していたが、詳細は分からなかった内容が明らかにされている。それは、中共が北朝鮮の輸出統制回避の重要な経路となっているという点である。
北朝鮮の軍事システムが必要とする部品・原材料・技術は、すべて国際的な禁輸措置の対象である。しかし、これらは中国から「公式に輸出」されているわけではないが、グレーな供給網を通じて流通している。
まず、中国国内で部品が調達され、中間業者が用途を偽り、一般的な工業製品として通関手続きを行う。そして最終的には陸路や複数の経由地を経て北朝鮮へ輸送する。
書類上では、それらは「産業機械」「金属材料」「電子部品」と記しているが、北朝鮮に届いた途端、ミサイル製造、衛星開発、核兵器体系にすぐ組み込まれ、用途が一変する。
さらに追跡を困難にしているのは、これらの貨物が多層構造のペーパーカンパニー、地下貿易業者、仲介代理人などで構成されたグレーなネットワークの中に完全に組み込まれており、監視当局はその実態を把握することがほとんどできない点である。
したがって、北朝鮮は中共から一時的な支援を受けているわけではなく、その経済システム全体、金融システム全体、さらには軍需・技術供給チェーンの全体が、中共のグレー経済ネットワークの深層に埋め込まれているのである。

米国・国際社会の対応と制裁強化
アメリカはどう反撃しているのか。そして現時点でどのような成果を上げているのか。
これまで多くの回避手法を見てきたが、ここからはアメリカがどのように対抗しているのかを見ていく。
米中経済安全保障調査委員会(USCC)の報告によれば、アメリカの法執行機関はここ2年ほどで「中国による制裁回避支援の取り締まり」を最優先課題の一つとして明確に位置付けている。
アメリカ司法省も、これを「現在最も重要な法執行分野の一つ」と認めている。
では、具体的にどのような措置を取っているのか。
まず、アメリカの複数の機関が共同で「Disruptive Technologies Task Force(破壊的技術特別タスクフォース)」という省庁横断の特別チームを設立した。
名前は技術的であるが、実際の目的は明確であり、「中国企業を重点監視し、敏感技術や軍民両用製品を対象に、誰がロシア・イラン・北朝鮮への転送・取引偽装を支援しているのかを徹底的に突き止める」ことである。
このチーム設立後、すでにいくつかの大規模な地下取引ネットワークを摘発している。
報告では、中国企業がイランの弾道ミサイル用部品を密かに販売していた事件などを挙げており、これらがイランに流れれば中東情勢に極めて危険な影響を与える可能性があったとしている。
こうした取引・マネーロンダリングの連鎖を断ち切ったことで、単なる逮捕者の発生にとどまらず、ネットワークそのものの破壊、さらには資金流・物流の同時遮断という、より構造的な効果が生まれている。
第二の動きは、財務省と商務省による「50%ルール」の拡大である。
これはどういう意味か。従来、制裁対象企業を指定する際、個別にその会社を明記する必要があった。
しかし新たな方針では、制裁対象企業がある子会社や関連企業に50%以上の出資をしている場合、その子会社や関連企業もすべて制裁の範囲に含めるとした。
つまり、「影子子会社(いわゆる隠れペーパーカンパニー)」を新たに設立して制裁を逃れることはできなくなる。
親会社がブラックリストに載っていれば、その傘下の名義替え会社もすべて処分対象となる仕組みである。
もっとも、この規則の実施はトランプ・習近平会談後に1年間延期された。交渉余地を残すためであるが、方針自体は変わらず、この拡大ルールはいずれ実施される見通しだ。
第三の動きとして、アメリカと同盟国は手法の面でも新たな融合を進めている。それが「金融制裁と輸出規制を連動させる」というアプローチである。
以前は両者を別々に運用していた。金融制裁は財務省、輸出規制は商務省の管轄であった。しかし現在では、ある国や企業が輸出規制を回避していることが判明した場合、アメリカは同時に金融制裁を発動し、資金の流れ自体を遮断できるようになっている。
この「二重の締め付け」は、従来よりもはるかに強力であり、回避も極めて困難である。
さらに、この手法はアメリカだけでなく、ヨーロッパ、日本、韓国、オーストラリアも追随しており、回避ネットワーク全体に対する圧力が急速に高まっている。
このため、アメリカの対応はすでに「後追いで穴を塞ぐ段階」から「能動的にネットワークを包囲する段階」へと進化している。すなわち、単発的な取り締まりから、体系的な監視および封じ込めのシステム戦へと転換したのである。
USCCからアメリカ議会への警告と提言
ここまで見てくると、一つの現実が明確に浮かび上がる。すなわち、中共がロシア、イラン、北朝鮮の制裁回避を支援しているのは、偶発的でも暗黙の容認でもなく、構造的・組織的・長期的に行われているということである。
このため、USCCは報告書の中でアメリカ議会に対し、いくつかの重要な提言を行っている。
第一に、議会は「中国のネットワークがあまりに大きく深く、もはや『穴埋め』では対応できない段階に達している」ことを認識すべきだとしている。
したがって、アメリカが取るべき道は、違反企業を個別に追及する「点の取り締まり」を続けることではなく、制裁体制と輸出管理体制を完全に統合し、協調して機能する「一体的なシステム」を構築することである。
そのためには、財務省、商務省、司法省、FBI、国土安全保障省などの機関が連携し、情報を共有し、同時に執行できる仕組みが必要である。
第二に、アメリカはもはや単独で対応すべきではない。
これまでは、アメリカが制裁を発表しても、ヨーロッパ、日本、韓国の対応が一歩遅れ、その間にグレーなネットワークが抜け道を見つけていた。
USCCの提言では、今後アメリカがある国を制裁する際、同盟国が同時に行動できる体制を整えるべきだとしている。これにより、回避コストを一気に「耐えられない水準」に引き上げ、あらゆる抜け道を同時に封じることが可能になる。
第三に、香港はこの回避ネットワークの中核であり、アメリカは監視体制を強化すべきである。
なぜ香港がそれほど重要なのか。それは、国際金融のハブでありながら、西側諸国に比べて規制が緩く、透明性が低く、膨大な数のペーパーカンパニーが集中しているためである。
報告書は、議会が香港の金融リスクを重視し、香港の金融機関をより厳格かつ新しい監督枠組みに組み入れ、香港を「ブラックホール」のままにしてはならないと提案している。
第四に、アメリカは「長期戦」に備える必要がある。
中共が構築しつつあるのは、巨大で高速、かつ深く浸透した「平行経済システム」であり、もしアメリカの対応が年によって厳しかったり緩かったりするような状態であれば、中共のグレーネットワークの拡散速度に到底追いつけない。
報告書は強調する。アメリカは、長期的・安定的・継続的な対中戦略を構築すべきであり、断続的なキャンペーンや事後対応では、回避システムはむしろ肥大化し、将来さらに手がつけられなくなるおそれがあると。
(終わり)



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