2025年11月9日に開催された「第15回 アジアの民主化を促進する東京集会」において、評論家の江崎道朗氏は「共産党後の中国への備え」と題した基調講演を行った。江崎氏は、アメリカの有力シンクタンク・ハドソン研究所が発表したレポートを詳細に解説し、中国共産党体制が構造的な問題を抱え、いずれ崩壊する蓋然性が高いと指摘。その上で、日本やアジア諸民族は「崩壊後」のシナリオを具体的に想定し、アメリカの戦略に関与していくことの重要性を強く訴えた。
江崎氏はまず、アメリカの対外政策が、大統領が変われば180度転換する可能性があり、その政策オプションは政府機関だけでなく、民間のシンクタンクによって形成されているという構造を説明した。特に、トランプ政権に影響力を持つハドソン研究所、ヘリテージ財団、アメリカ第一政策研究所の3つのシンクタンクの動向を注視する必要があると強調した。
その上で、江崎氏はハドソン研究所のマイルズ・ユー氏が発表した『共産党後の中国への備え』というレポートを取り上げ、中国共産党が誤った経済政策(MMT的政策)、高齢化と労働力不足、住宅市場の危機、政治的腐敗など、内外で深刻な「構造的問題」を抱え、体制の行き詰まりは明らかであり、「いずれ崩壊する」ことの蓋然性が高まっていると述べた。
また「レポートが提言する省庁横断型のタスクフォースは、内々にすでに設置されていると考えるべきだ。そのメンバーは、現時点ではオーカス(米英豪)とファイブアイズ(米英豪加新)が中心で、日本や台湾は『加わる可能性がある』という位置づけだ」とし、アメリカがハドソン研究所のレポートに示されたような準備をすでに水面下で進めているという見解を明確に示した。
レポートは、混乱期の治安と秩序を回復するためのいくつかの実務的対策を提示している。
第1に、治安確保のため特殊部隊を派遣する準備を進めること。第2に、生物・化学・核兵器の拡散防止を目的とし、関連施設を迅速に掌握・無力化する体制を整える必要性。次に中国崩壊による金融混乱を抑えるため、国有資産の民営化や資本主義化を進め、アメリカ主導で市場を管理すること。さらに、アメリカ国内の中国共産党関連資産の処理方針も、没収や再資本化を含め事前に決定すべきだという提案をしている。
江崎氏は、日本企業の多くが中国に進出している以上、日本もこの議論に参加しなければ国益を損なうと警鐘を鳴らした。
レポートの軍事面では、人民解放軍や民兵を武装解除し、防衛と災害救援に特化した小規模な軍への再編。秘密警察組織の解体などを指摘している。またスパイ網の摘発や真相解明するにあたって協力者や被害者の記録を含む「アーカイブ」を確保しなければ、不可能だと強調している。
レポート第10章では自治区と人権問題を取り上げ、崩壊後に民族間暴力や復讐、内戦が発生するリスクを指摘。これを防ぐために、アメリカは介入・保護を行うべきであり、特にウイグル、チベット、内モンゴル(南モンゴルに相当する地域)などの自治区と、弾圧されてきた法輪功やキリスト教など宗教・信仰団体の保護が必要であると論じられている。保護は、報復行為を抑止することも含む。
最終的目標としては、新憲法の制定を通じた憲法上の民主主義の確立を掲げている。江崎氏は憲法制定会議では、台湾の地位や尖閣を含む国境線の再編が議論され得るため、日本が議論に関与しておかなければ自国の権益が損なわれる可能性があると警告している。
報告はさらに、こうした対応を管理するための省庁横断型タスクフォースの設置を提言している。江崎氏は現状ではオーカス(米英豪)やファイブアイズ(米英豪加NZ)が中心となる可能性が高く、日本や台湾は「参加の可能性がある」位置づけにとどまると指摘。江崎氏は先日行われた高市トランプ日米会談の際、高市首相がトランプ大統領と台湾問題を協議した行為は、日本が当該タスクフォースに加わる意思表示と解釈できるとした。
江崎氏は最後に、いつ崩壊が起きるかは予測不能だが、ソ連の例のように突然である可能性があるとして、呆然と事態を受け止めるのではなく、今から徹底的に準備し、アメリカの議論を分析して「交渉当事者」としての立場を整えることが、日本および関係する諸民族の将来と日本の国益にとって極めて重要であると結んだ。

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