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于朦朧事件 沈黙の国が揺れた

俳優・于朦朧の死が呼び覚ます中国社会の覚醒

2025/10/14
更新: 2025/11/10

中国の人気男性俳優・于朦朧(ユ・モンロン/アラン・ユー、37歳)の不可解な死から1か月。ひとりの俳優の死が、沈黙していた人々の心に火をつけ、封じ込められていた怒りと不信を噴き上がらせた。

中国当局は、情報拡散者の逮捕からSNSの徹底検閲に至るまで、空前の規模で言論統制を強化し、事件を力づくで沈静化させようとしている。だがその試みをよそに、厳しい封殺の中でも中国国内では隠語や暗号を使った議論が続き、やがて彼の名を暗示する「魚(中国語発音:ユー)」や、権力の闇を象徴する「傘」の文字やマークまでもが検閲対象となった。

それでも「真相を求める声」は止まらない。

 

中国俳優・于朦朧の死について「全面・独立・透明な調査」を求めるAVAAZの署名ページに掲載された于朦朧の写真。写真の隣には「無実の罪」や「不当な死」を象徴する「冤」の字が大きく記されている(AVAAZの署名ページより)

 

中国各地の携帯ショップでは、展示機のホーム画面が市民の手で于朦朧の写真に設定され、街の建物の壁面には、市民が自腹で彼の映像を投影している。人々は「真相究明」を求め、警察に通報や手紙を送り続け、立件と調査を訴えている。

発信手段を奪われた人々は、VPN(検閲回避ツール)を使い、海外メディアや配信者に「代わりに声を上げてほしい」「このまま終わらせてはならない」と訴え、情報提供を続けている。その呼びかけは国境を越えて広がり、いまや世界各地で署名運動へと発展した。

 

中国本土の携帯ショップでは、展示機の画面に于朦朧の写真が一斉に表示されていた(スクリーンショット)

 

不可解な死

9月11日、于朦朧は北京の集合住宅から転落死した。警察はわずか1日で「酒に酔った末の転落事故」と断定し、刑事事件の可能性を排除したが、詳細は明かされず、徹底した言論封鎖によって「背後に巨大な闇がある」との疑念が高まっている。

現場住民が撮影した映像には、于本人とみられる悲鳴や助けを求める声、複数の人物に廊下で引きずられる姿(何かの儀式のような様子)が記録されていた。住民からは「高額な口止め料が支払われた」とのネット証言も相次いでおり、事故とは考えにくい。

ネット上では、権力者による性的要求を拒んだ末の「殺害説」、マネーロンダリングの証拠を握っていたための「口封じ説」、中共党首・習近平の延命のための「いけにえ説」などが飛び交い、上層部関与の噂も絶えない。

事件当夜の悲痛な声や現場映像、録音データが次々と流出し、目撃証言も相次いだことから、世論では彼の死を「酒に酔った末の転落」ではなく、共産党高官や特権階級による計画的殺害だとみる見方が広がっている。

 

(左)于朦朧の墜落現場、(右)現場に手向けられた花(スクリーンショット)

 

怒りは行動へ

ネット上では、芸能人や共産党の権力階級の子女らを含む、于の殺害に関わったとされる17人の容疑者リストが拡散し、全民規模のボイコット運動が始まった。

容疑者全員のSNSには批判が殺到し、出演映画の放送中止やコンサート中止、ライブ配信の停止が相次ぐ。官製メディアのSNSにも真相を求める書き込みが万単位で押し寄せ、コメント欄が閉鎖に追い込まれた。

さらに、著名芸能人や友人たちも「于を忘れるな」と訴え、沈黙の中でそれぞれの形で声を上げている。コンサートでは、ステージ背面の大型スクリーンに黒い手に突き落とされる于や、白い羽で空へ昇る姿を描いたイラストが映し出され、歌手が涙で歌えなくなる場面もあった。会場は彼の名を叫ぶ観客の声で包まれ、追悼と怒りの空気に満ちていた。

 

中国の人気歌手・華晨宇(ホァ・チェンユー)が音楽フェスで使用した、親友・于朦朧(ユ・モンロン/アラン・ユー)を追悼する舞台背景(映像よりスクリーンショット)

 

一方、所属事務所「天娯伝媒」では、傘下タレントのうち少なくとも9人の不審死や失踪が指摘され、同社の関与を疑う声が高まっている。その影響で、所属事務所前には大勢の市民が集まり抗議し、親会社・芒果超媒(マンゴー・スーパー・メディア)の株価が急落、副社長の辞任も報じられた。

于への暴行が行われたとされるホテルは、ネットユーザーによる大量の低評価投稿によって、グーグル評価が1つ星へ転落した。

 

中国の商業施設で、市民が自費で大型スクリーンに于朦朧の写真を投影し、追悼の意を示した場面 (映像よりスクリーンショット)

 

社会の覚醒

この熱は国境を越え、米誌『フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)』やBBC、台湾・韓国メディアも相次いで報道。海外では30万人超が真相究明を求める署名に参加し、事件は社会運動の様相を帯び始めた。

AVAAZ(国際署名サイト クリックすると署名ページに移動します)

いまやこの事件は、中国本土から台湾、香港、マレーシア、シンガポール、欧米まで、世界中の華人社会が最も注目する話題のひとつとなっている。関連動画の再生数は延べ200億回を超え、長期間ホット検索の上位にとどまり続けている。

なぜこれほどの熱が続くのか。それは、于の死を風化させまいとする華人ユーザーたちの執念があるからだ。
その執念の根底には、「次は自分が『彼』になるかもしれない」という恐怖がある。「于朦朧効果」は、恐怖に沈黙してきた人々を目覚めさせ、共産党の支配から離れようとする覚醒の波を広げている。

 

于朦朧(映像よりスクリーンショット)

 

封じられても

いま、中国のSNSでは彼の名を暗示する「魚(発音:ユー)」や、権力の闇を象徴する「傘」といった文字や絵文字ですら検閲対象となっている。それでも人々は、それぞれのやり方で沈黙の中から声を上げている。

「于朦朧効果」は、いまも静かに、しかし確実に、中国社会を揺さぶり続けている。
封じられた真実は消えず、いつか権力の壁を打ち破るだろう。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!