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沈黙を強いる見えない圧力 日本に広がる中共の越境弾圧の影

2025/08/28
更新: 2025/08/28

中国共産党(中共)政府が国境を越えて海外在住者を監視・脅迫し、沈黙を強いる「越境弾圧」

その対象は香港の民主活動家、ウイグルやチベットなどの少数民族、さらには外国人研究者にまで及び、日本に住む人々も例外ではない。専門家や当事者の証言から、その実態と危険性を追った。

世界最大規模の越境弾圧

8月24日、日本ウイグル協会主催のシンポジウムで、一橋大学の市原麻衣子教授はこう指摘した。

一橋大学の市原麻衣子教授 (清川茜/大紀元)

「中国の越境弾圧は世界最大規模であり、対象者の数も手段の範囲も圧倒的だ」

2023年のフリーダムハウス調査では、50か国が越境弾圧を行い、少なくとも350万人が被害を受けたとされる。市原氏は「カンボジアやインドから日本在住者が弾圧を受けた例もあり、実際の被害者はさらに多い可能性が高い」と指摘。

従来の圧力に加え、中国は国内法を国境を越えて適用することで弾圧を強化している。香港国家安全維持法(2020年)では香港外での活動も処罰対象とされ、日本でSNS投稿をした香港人学生が一時帰国時に拘束された事例もある。市原氏は「域外適用は日本の主権侵害そのものだ」と強調した。

香港活動家「声を上げると家族まで狙われる」

香港の民主化団体「Lady Liberty HongKong」代表のアリック・リー(李伊東)氏は、国家安全法(2020年)と国家安全条例(2024年)の脅威を語った。

香港の民主化団体「Lady Liberty HongKong」代表のアリック・リー(李伊東)氏(左)南モンゴルクリルタイのオルホノド・ダイチン常任副会長(右)(清川茜/大紀元)

この法律は香港以外にも適用され、海外在住の香港人も処罰対象である。「2024年末に、香港警察は海外在住の活動家19名に対して逮捕状を出し、最大100万香港ドルの懸賞金まで懸けた」

さらに移動の自由も奪われている。

「同じタイミングで、香港政府が海外で活動を続ける民主化活動家のパスポートをキャンセル(無効化)した海外に住んだ香港人、 活動家はまだ香港パスポートを使っている。 そのパスポートをキャンセルされ、 活動家たちが海外に移動することは、 ものすごく困難になっている」

活動家自身の嫌がらせだけではなく、香港に残っている活動家の家族へのいやがらせ、圧力がある。李氏は「私の両親は 脅迫を受けていたことがある。これは活動を辞めさせるための圧力だ」と述べた。

ウイグル人代表 「精神的な拷問」

日本ウイグル協会のアフメット氏は、在日ウイグル人の苦境を話した。

 「2017年以降、中国大使館は私たちのパスポート更新を拒否している。更新できなければ在留資格を失い、不法滞在となる。子供は学校を追われ、会社員は職を失う。結局“帰国するしかない”と迫られるが、帰れば収容や失踪の危険がある」

アフメット氏は、中共当局が現地の家族を介して活動家に「協会の情報や、日本で支援する団体や個人の情報を提供せよ」と迫ってくると語った。

 「『これは政府の人なので追加してくれ、どうしてもあなたに話したいことがある』と家族から求められる。拒めば家族がいじめられるので、仕方なく通信アプリに追加する。すると最初は『友達になりましょう』と穏やかに接してくるが、次第に協会の情報や支援者の個人情報などを求めてくる」

「これはスパイ行為の強要だ。一度従えば要求はエスカレートし、抜け出せなくなる。拒否すれば今度は家族が報復を受ける。どちらにしても地獄であり、精神的な拷問に等しい。こうした事例は珍しいことではなく、幾らでもある」

また、親族への圧力で帰国した人々が収容され、死亡する事例は日本やアメリカ、トルコなど世界各地から報告されている。アフメット氏は「やり方は違っても本質はテロリストと同じだ。人質を使って『従わなければ家族が危ない』と脅してくる」と激白した。

HRW調査が裏付け

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は 2024年6月から8月 に日本で調査を実施し、香港や中国本土出身者25人から聞き取りを行った。新疆ウイグル自治区、チベット、内モンゴル出身者も含まれている。

HRWアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平氏は、

「活動といっても、新疆ウイグル自治区での人権侵害を市民に伝える啓蒙活動や、チベットの食文化を広めるといった文化的な取り組みである。内モンゴル出身の活動家の本を扱った読書会に参加しただけで標的にされた事例も確認している」と説明した。

また、東京・新宿駅で行われた「白紙運動」の企画に関わった人物が在日中国大使館から圧力を受けた事例もあった。

白紙運動は2022年、中国共産党のゼロコロナ政策に抗議し市民が白紙を掲げ抗議した運動。言論弾圧への抵抗の象徴で、政治批判にも発展した。

証言した多くの人々は、中国当局から本人や母国に住む親族に直接連絡があり、「日本での活動をやめろ」と圧力をかけられたと語った。その裏付けとして、WeChatの記録やビデオ通話の録画、防犯カメラ映像を提供しており、証言の信憑性は高いとする。

圧力を受けても活動をやめなかった人が大多数であったが、中には「嫌がらせを受けて怖くなった」として人権活動や政治活動から退いた人もいた。

さらに、日本での活動停止にとどまらず、所属団体やコミュニティに関する情報提供を求めた例もあった。笠井氏は「被害者自身を利用してさらに網羅的に情報を収集する手口である」と指摘する。

「パスポートを更新したければ母国に帰れ」と大使館職員に告げられた人もいた。日本の警察に相談したかどうか尋ねると、多くの人が「報復が怖い」「警察にできることは限られている」と答え、助けを求めなかったという。

日本社会への影響

越境弾圧は個人の人権を奪うだけでなく、社会に恐怖と分断をもたらす。市原教授は「日本の主権侵害でもある。私たちは人権と自由を守る観点から向き合わなければならない」と訴えた。

 リー氏は「香港人の声をどこにいても抑え込もうとしている」と危機感を示し、アフメット氏も「これは当事者の問題であると同時に、日本の主権や法の支配への挑戦である」と訴えた。

人権と主権を守るため、日本社会はいかに法制度の悪用と監視の拡大に立ち向かうのか。その議論は待ったなしである。

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。