論評
私たちは今、新しいタイプの軍拡競争のまっただ中にいる。狙われているのは武器ではなく、「考える機械」だ。
テクノロジー大手は人工知能(AI)インフラに何十億ドルという資金を投じ、広大な土地を電力を食い尽くす計算要塞へと変えつつある。マイクロソフトはウィスコンシン州に初めてAIラボを開設し、州内で合計33億ドルを投資する。
グーグルはアメリカ最大の送電網「PJMインタコネクション」に沿って250億ドルをかけ、AIデータセンターを建設中だ。アマゾンはインディアナ州のトウモロコシ畑1200エーカーを取得し、スタジアム30個分に相当するAIデータセンター群を作る計画を進めている。
メタも新たなデータセンターを次々に立ち上げており、オハイオ州には「プロメテウス」を、ルイジアナ州には100億ドル規模でマンハッタン島の大きさに匹敵する「ハイペリオン」を建設している。
さらにオラクルとオープンAIは、今後4年間でアメリカ国内に5千億ドルを投じAIインフラを整備することを約束している。
これはもはや単なる技術競争ではない。人間を超えて考え、学び、耐え続ける機械をつくろうとする、世界規模の競争だ。AI技術の恩恵を否定するわけでも、AIが本質的に悪いものだと言っているわけでもない。
しかし、この巨額の投資は、単なる善意の進歩を求めているのではない。より大きな目的――知的な覇権を握ること――があり、そのために各社は静かに未来の「力」を文字通り手中に収めようとしているのだ。
アメリカのエネルギー当局は警告する。2030年までにデータセンターが全米の電力消費の20%を占める可能性があるという。今はまだ2.5%だが、増えるのは新しい雇用のためではなく、人間をシミュレートする機械の膨大な電力需要のためだ。
だが、「より賢い機械」をつくる熱狂の陰で、私たちは驚くべき事実を見落としている。今の機械は、人間の脳が毎秒無意識のうちにやっていること――独自の発想を生み、未知の状況に適応し、感情を整え、意味を創り出す――をいまだに実現できていない。そして人間の脳がこのすべてを、豆電球よりも少ない電力でこなしていることを、ほとんど誰も考えていないようだ。
頭の中には、生きたスーパーコンピュータがある。そこには860億個のニューロンと100兆以上のシナプス結合が存在している。地球上のすべてのテクノロジーを合わせたよりも多い回路だ。しかも、それが消費するのはわずか20ワットで、ノートパソコンの充電器よりも少ない電力にすぎない。脳は、感情、記憶、運動、倫理、言語、注意を同時に司り、夢を見、即興し、損傷しても適応する。それは計算だけでなく、創造も行う。
科学界では確かに驚くべき進歩が続き、今もなお続いている。それでも、神経科学者のデビッド・イーグルマンの言葉を借りれば、人間の脳は依然として「宇宙で知られている最も複雑な存在である」
神経科学は脳の大まかな働きや発火パターンをマッピングしてきたが、私たちはまだ、思考がどう生まれるのかも、意識がどのように生じるのかも、トラウマがなぜ一部の脳の神経回路を再構築し、他の脳の神経回路を再構築しないのかも知らない。天才や思いやり、洞察がどうやって物理的に生まれるのかも、まだわからない。
では、地球上で最も賢いエンジニアたちが、自分の頭の中にあるこの装置をまだ理解していないのに、私たちは一体何を再現しようとしているのだろうか。
AIは驚きを感じない。喜びを味わえない。自分が生成する言葉の意味を理解できない。AIはただ、最もありそうな次の語を探し、人間の知性のパターンをまねているだけだ。それでも私たちは今、子どもたちにも大人たちにも「コンピュータのほうが人間より賢い」と教え込んでいる。
過去数十年の科学的発見が示す圧倒的な証拠にもかかわらず、人間の心の持つ力と柔軟さはほとんど教えられていない。人間の体は1日に3300億個の細胞を入れ替え、感情が遺伝子の働きを変え、信念だけで生物学を変化させることを知る人はほとんどいない。
学校では人間の注意力の限界を躊躇うことなく強調するが、集中した精神の流れの無限の可能性については教えない。メディアはAIが人間を超える恐怖をあおる見出しを掲げるが、AIを生み出した人間の驚異的な力をたたえることはほとんどない。
人間が機械よりも劣っていると信じ込むことで得をする力ある人々もいる。しかし、その話はまた別の機会にしよう。今は立ち止まって、思い出してほしい。あなたとあなたの脳は、まだ時代遅れになっていない。まだ解き明かされてもいないのだ。
シリコン、量子チップ、ニューラルネットにいくら数千億ドルが注ぎ込まれようと、知性の最大のフロンティアは、あなたの頭の中にある重さ1.3キロの謎の塊であり続ける。それは、私たちがこれまでに作ったあらゆる機械を生み出したものであり、自分自身の限界すらまだ知らないのだから。

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