北京は、米国人2名に出国禁止措置を科した。これは、法の支配が欠如した権威主義国家への渡航リスクが依然として高いことを示した。
4月中旬、中国当局は、米政府職員であることをビザ申請時に申告しなかったとして、米国商務省の職員に出国禁止を科した。彼は元米陸軍所属で、ブラックホークヘリの整備業務について、中国の情報機関から尋問を受けたと報じられ、家族訪問のため成都に滞在していたが、名前は明らかにされていない。
もう一人は、ウェルズ・ファーゴのアトランタ拠点マネージングディレクター、毛晨悦(もうしんえつ)氏だ。米国籍を持ち、中国で育ったとされ、7月18日に出国禁止が明らかになった。中国外務省は「刑事事件に関与している」と主張するが、詳細は不明。こうした事案の解決には透明性が欠けており、ウェルズ・ファーゴは中国への出張を全面的に中止した。
最近の出国禁止措置で最も深刻な事例の一つは、ニューヨーク在住のアーティスト、高震(こうしん)氏の妻と7歳の息子に関するものだ。高氏は「中国の英雄と烈士を誹謗中傷した」として告発され、中国で拘束された。その後、家族に対しても出国禁止が科された。これは、国際社会の大半が不当と見なす「連座制」の一形態だ。
中国で強制的な措置に直面している米国人は、200人を超え、これらには、拘束、出国禁止、地方法の恣意的な適用などが含まれ、中国共産党(中共)に民主的な正統性や政府としての正当性がないことを踏まえると、200人という数字はあまりに多い。
何万人もの中国国民も、こうした出国禁止措置の影響を受けているとみられ、これは、外国企業に勤務する場合でも、他者に圧力をかけ、政権の情報機関への協力を強要する手段として利用される恐れがあった。さらに、資本規制や家族全員の出国ビザ取得の難しさも、抑圧的な体制からの恒久的な移住を阻止する、事実上の出国制限といえる。
国際ビジネス界では、出国禁止のリスクは過小評価されていて、2024年に欧州企業を対象に行われた調査では、中国で外国人従業員を採用する際に課題があると回答した企業はわずか9%、出国禁止によって本社への出張に支障があると答えた企業は4%にとどまった。
中共はしばしば、無関係な問題で外国企業や国家を脅迫するため、外国人社員を拘束する。これは事実上の「外交人質」であり、法の支配とは無縁だ。出国禁止の対象となるのは主に中国系の外国人で、多くは空港で、搭乗直前にその事実を知らされたことが多い。
共産党が中国系に焦点を当てるのは、二重国籍を認めないことに起因する。しかし、米国生まれの中国系米国人でさえ、中国政府を批判すれば「民族の裏切り者」とみなされる可能性があり、このまま対抗措置を取らなければ、いずれ中国系は国籍を問わず、すべて中国国民だと主張されるかもしれない。
非中国系も標的になることがある。著名な例として、カナダ人、マイケル・コブリグ氏とマイケル・スパバー氏が挙げられ、彼らはファーウェイ幹部の引き渡しを巡り、3年間拘束された。
1995年から2019年の間に外国人に科された128件の出国禁止を分析した研究によると、カナダ人44人、米国人29人が対象だった。カナダの立場の弱さが、より標的になりやすい要因とされ、3分の1はビジネス紛争に関連していた。
最近、米国人に対する出国禁止措置が新たに2件発表され、そのうち1件は米国政府職員を対象とする初のケースとなった。これは、共産党支配下の中国では、誰も安全ではないことを改めて示すものだ。中共は個人の人権や法の支配をほとんど尊重せず、その実態は、自国民や外国人の権利を保護する政府に慣れた西側諸国の人々にとって、極めて異質なのだ。
多くの米国人は、こうしたリスクを理解しないまま中国を訪れて、例えば、中国でビジネス情報を収集しただけでスパイ容疑をかけられ、出国禁止となることがある。西側では通常のビジネス慣行だが、中国では外交人質戦術として利用され得る。これにより、不動産市場の崩壊や消費低迷、デフレ、失業、規制強化、国家補助金による過剰生産に苦しむ中国への投資は、さらに冷え込むことになる。
米国務省は2024年11月、「現地法の恣意的な適用や出国禁止」を理由に中国への渡航に、注意を呼びかける勧告を出し、危険度をレベル3(渡航再考)からやや緩和した。しかし、この判断は誤りだったと見られ、国務省は再びレベル3に引き上げるべきだ。
さらに、米国は、米国人の不当拘束や出国禁止が解除されるまで、対中制裁や関税を段階的に強化すべきだ。

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