2025年7月、日本の参議院選挙は、かつてない見えざる脅威に直面している。
選挙期間中、SNSでは特定候補者の発言を一部だけ切り取り、刺激的な見出しをつけた動画や画像が多く出回っている。たとえば、「公約を守らない」とされる動画の多くは、発言文脈を無視して編集され、事実とは言いがたいものもある。
さらに、これらの情報を拡散したアカウント群の中には、海外のIPアドレスを使用していたり、同一の文章や画像を一定間隔で投稿したりするなど、自動プログラムによる操作が疑われるパターンが複数確認されている。大手SNSプラットフォームX(旧Twitter)では、「JAPAN NEWS NAVI(日本のニュースや世論の反応をまとめて掲載する形式のまとめサイト)」と関係があるとされる複数の情報拡散アカウントが凍結された。
目的は明確だ。単なるフェイクニュースではない。これは、日本社会に対立と不信感を植え付け、民主主義の基盤である選挙という制度への疑念を深める、いわば心理的な戦いなのだ。
外国勢力(ロシアか、中国共産党か)が選挙期間中に行う情報戦の主な目的は、民主国家における社会の分断・不安定化を促し、国民の間に疑いや怒りを植え付け、共通の価値や信頼を破壊することである。
このような戦略は単体では目立たないが、積み重なることで“国の意思決定”を鈍化させ、社会疲弊を引き起こす。
翻って「台湾」はどうか? 日本と似たような状況は、自由と民主主義の最前線・台湾にも存在している。台湾では、総統選挙に合わせて中国共産党が行ったとされる情報戦が激化。2024年の選挙期間には、次のような戦法が展開された。
1)AI偽情報・ディープフェイクの投入 候補者の偽映像や、ねつ造された公文書が出回る
2)SNSや親中メディアの活用 中国本土との和平や危機を印象付け、政権批判を誘導
3)「戦争になる」という恐怖を煽る 民意を萎縮させ、投票行動にブレーキをかける
4)親中的団体との連携:台湾国内の親中政党に間接支援される資金・人材流入
こうした動きの背後には、中国共産党の「統一」戦略があり、情報の戦場が物理的侵略と相補的に機能している。
情報戦に警戒を 分断を誘う中共の戦略
現代の国際社会において、情報戦は国家の安全保障を左右する重要な要素となっている。特に中国共産党(中共)は、情報戦や世論操作を巧妙に活用し、他国の内政に干渉しようとする動きを強めている。民主主義国家の社会に分断を生じさせ、国家としての一体性や判断力を鈍らせることは、中共にとって極めて都合がよい。
中共が仕掛ける情報戦の手法は多岐にわたる。SNSや動画投稿サイトなどのオンライン空間において、極端な意見を拡散させ、政治的・社会的な対立を激化させる行為はその一例である。また、フェイクニュースを意図的に流布し、政府やメディアに対する不信感を醸成することで、民主主義体制そのものへの疑念を植え付けようとする動きも確認されている。
こうした工作の背後にある狙いは明白である。すなわち、民主国家の団結を崩し、中国に対する国際的な批判や包囲網を弱体化させることである。そして同時に、自国の体制、言論の自由や政党間対立のない「安定した」社会主義体制の優位性を国内外に誇示する意図も含まれている。
中国共産党一党独裁の中国においては、政権に批判的な団体や宗教運動への組織的妨害を国内外で展開してきた。とりわけ1999年7月から中共政府から厳しい弾圧を受けてきた法輪功はそのターゲットとなっている。
中国共産党は法輪功に対して、SNSやメディアを使った偽情報拡散、集会やイベントへの妨害・脅迫、行政・法的手段による妨害、監視・スパイ活動、経済的・外交的圧力など多様な手法で抑圧を加えた。
日本にとって、この種の情報工作は決して他人事ではない。宇宙航空研究開発機構(JAXA)を標的とした大規模なサイバー攻撃が中国系の組織「Tick」によるものと警察当局によって断定されており、中国共産党の国家情報法との関係からも、こうした攻撃が政治的・戦略的な指導のもとに行われている可能性が高い。
中国と地理的に近く、また歴史的・経済的にも深く関わっている日本は、影響工作の対象となりやすい。政党間の対立が過熱し、社会の分断が深まれば、それは中共にとって思うつぼとなる。政治的な立場の違いはあっても、国の安全と一体性を守るという共通の認識のもと、冷静で理性的な議論を行うことが何よりも求められている。
情報戦は目に見えにくいが、確実に進行している。日本社会がこの現実に目を向け、適切に対処していかなければ、知らぬ間に外部勢力の思惑に巻き込まれてしまう危険性がある。
われわれにできることは?
偽情報に流されない力、すなわち「メディア・リテラシー」は民主主義国家における“防衛力”でもある。政府や専門家がどれだけ体制を整えても、個々の国民が情報を吟味せず、不安から行動すれば、民主主義は静かに崩れていく。
情報の出所と引用元を確認することだ。刺激的な主張こそ、ひと呼吸おいて事実を確かめる。情報空間に流されない「疑う力」を持つ。これらが多元的な社会や選挙空間を守る鍵となるだろう。
終わりに 見えない戦場にどう立ち向かうか?
2025年の参院選は、投票用紙に書かれた一票だけで動いているわけではない。SNSの一言、動画の切り抜き、ひとつのリポストなどが、私たちの未来と制度のゆくえを左右している。
今、問われているのは単に「正しい情報を選ぶかどうか」ではない。問われているのは、「民主主義という制度を、わたしたちが当事者として守る覚悟があるかどうか」である。選挙妨害は、もう遠い国の話ではない。すでに私たちのスマートフォンの中に侵入している。


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