中国共産党(中共)空母「山東号」編隊が香港で一般公開されたが、中共メディアの宣伝とは裏腹に、海軍装備や運用の限界、現実とのギャップが明らかになった。
7月3日、中共海軍の山東号航空母艦と3隻の護衛艦が香港で一般公開され、中共メディア、新華社は連日にわたり、この出来事を大々的に報じ、軍事力の誇示と「愛国主義」の宣伝を展開した。しかし報道の内容からは、中共海軍の実力や装備の限界、そして制度的な脆弱性が浮かび上がった。本稿では、中共メディアの報道をもとに、今回の編隊公開の実態と中共海軍の現状を詳しく検証する。
055型駆逐艦「延安艦」:宣伝の限界
新華社は055型ミサイル駆逐艦「延安艦」について、「最大排水量1万トン超、隠密性・適航性・航続力・自動化水準が高く、総合戦闘能力は世界先進レベルに達した」と紹介した。ただし、防空・対潜・対艦能力の具体的な性能には一切触れず、他国の最新鋭艦との比較も行っていない。
本来であれば「世界をリードする」と喧伝すべき場面で、中共メディアは「達した」という表現にとどめている。この背景には、米国のアーレイ・バーク級、日本や韓国の最新艦艇との差を認識している現実がある。中共海軍の055型駆逐艦であっても、主要な性能指標において米軍艦に及ばないことを自ら示す形となった。
主力駆逐艦052D型「湛江艦」の苦悩
052D型ミサイル駆逐艦「湛江艦」は、「主力作戦艦艇」として紹介されたが、評価は「総合戦闘能力が突出」と控えめに留まった。やはり防空・対潜・対艦性能については言及を避け、排水量が7500トンで万トン級に届かない点を明らかにした。
052D型は、米海軍の模倣を経て発展した艦であり、2012年の建造開始時点において、中国は万トン級駆逐艦の建造技術を保持していなかった。29隻が現役で、8隻を建造中とするが、性能面の限界について、中共メディアも否定できていない。
054A型護衛艦「運城艦」:低評価の現実
054A型ミサイル護衛艦「運城艦」については、「総合戦闘能力が比較的強い」とさらに抑制された表現を採用した。40隻が現役、6隻が建造中であり、量の上では存在感を示すが、搭載する垂直発射装置(VLS)は32セルのみで、装備可能なミサイルはHQ-16と対潜ロケットに限られる。防空能力は脆弱であり、排水量は4000トンにとどまり、航続距離にも制限があることから、主に近海防衛の任務に充てられていた。
実際には、054A型が戦闘において「弾除け」としての役割を担う場面も多く、搭載されているYJ-83対艦ミサイルも旧式の域を出ない。中共メディアもこの艦を過度に持ち上げることを控えた形となった。
山東号航空母艦:評価省略の意味
山東号航空母艦について、新華社は明確な評価を避けた。中米の空母戦力における格差を中共メディアも理解しており、過去の報道においてすでに限界を示してきたことが背景にある。
中共航母の「実戦化訓練」の実態
2025年6月30日、新華社は「遼寧艦・山東艦航母編隊が遠海実戦化訓練を完了した」と伝えた。訓練項目としては「西太平洋での対抗演習」「偵察・防御・対艦・対空・艦載機の昼夜飛行」などを列挙した。
だが、実際には両艦とも防空任務を中心に据え、搭載機のJ-15戦闘機も空対空ミサイルを主装備としている。これは旧ソ連の空母設計思想と同様に、自国防空の射程を近海から外洋へ拡張する意図に基づく。
しかし、米軍のF-22やF-35との交戦は想定されておらず、AGM-158Cなど長射程対艦ミサイルへの対応も困難であるとされ、HQ-9防空ミサイルはロシア製S-300のコピーに過ぎず、ステルス機やミサイルの迎撃には不向きであり、実戦となれば、敵に包囲されるだけの自殺的状況に陥る可能性が高いという。
「探索」段階にある中共航母運用
新華社は「編隊作戦要素と戦力運用を積極的に探索中」と述べており、訓練の未熟さを間接的に認め、訓練中には日本の自衛隊などが全行程を監視・記録しており、軍事的未成熟が露見した。
山東号が香港に直行できなかった理由
山東号は第一島嶼線から直接香港へ寄港せず、一度中国の海南島三亜基地に戻って整備を施し、再度香港へ向かった。米軍空母であれば訓練終了後に直接近隣港へ寄港するのが一般的であるが、中共海軍は戦備や艦の信頼性の問題から、それを実行できなかった。
香港は台湾やバシー海峡に近い地理的位置にあるにもかかわらず、補給拠点として活用されていない。山東号は三亜基地のみを補給港とし、戦時には行動範囲が大幅に制限されることになるという。
さらに、香港の治安や政治的リスクから、艦隊の補給や乗組員の上陸にも厳しい制限が課され、米軍空母が寄港時に乗組員の休暇を許可するのとは対照的な対応である。
艦載機の数と装備の現実
6月に山東号が第一島嶼線外を航行した際、日本の防衛省の写真から、J-15は甲板上に8機、遼寧号には10機程度が確認された。今回の香港公開では、山東号の甲板上に12機のJ-15と4機のヘリのみが並べられ、事前には「最大36機搭載可能」と宣伝していたが、実際の搭載数はそれを大きく下回った。
この状況は、J-15の老朽化や生産停止、可用機体の不足を反映しており、安全確保を理由とした政治的演出である可能性が高い。実戦力の不足を完全には隠しきれていなかった。
また、護衛艦3隻も香港訪問時に限り、艦尾にヘリを載せていた。半月前の第一島嶼線外航行では、安全上の理由により、ヘリを搭載していなかった。600kmの航路を2日かけて移動した背景にも、ヘリの落下リスクを避ける意図があったといわれた。
中共メディアの宣伝と現実の乖離
今回の香港公開は、中共メディアによる「愛国主義」宣伝の一環であったが、結果として、中共海軍の装備的・運用的な弱点が明らかとなった。055型駆逐艦を除き、各艦艇の評価は「突出」「比較的強い」など控えめな表現にとどまり、山東号に至っては評価自体を避けた。
訓練も「探索」段階に過ぎず、米軍との装備・運用・補給体制の格差は歴然だった。装備の数量と質、艦載機の可用性、補給体制、作戦能力のいずれにおいても、中共海軍は、先進国の基準に達していないという現実が、中共メディアの報道内容からも見て取れた。
結論
山東号航空母艦編隊の香港公開は、中共メディアの宣伝意図とは逆に、中共海軍の実力不足や体制的な課題を浮き彫りにした。装備の性能、運用能力、補給体制の限界、そして政治的演出と現実との乖離が明確となり、「愛国主義」宣伝の破綻を象徴する出来事となった。今後も中共海軍の実態と課題を注視する必要がある。

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