論評
まあ、これは気まずいね。
数か月にわたり、経済学者の多く、ほぼ全員と言ってもいいかもしれないが、トランプ政権の関税政策によるインフレ再燃を予測してきた。これらの関税は、戦後70年間続いた低関税の流れを打ち砕く劇的な引き上げだ。どの経済理論の観点から見ても、アメリカの企業や消費者が輸入品に支払う新たな税金は、価格上昇を引き起こすだろうと。
ところが、こうした価格上昇は起こらない。
先週発表された消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)のデータは、この点を改めて示した。インフレは消滅したわけではないが、過去4年間のインフレ率に比べ、過去最低の水準を記録している。関税は全く影響を及ぼしていないようだ。
CPIは前年比2.37%上昇した。

スティッキーCPIは前年比3.15%で、高めだが、ロックダウン後の最低値だ。

スティッキーCPIは、消費者物価指数(CPI)の一種で、価格が頻繁に変動せず「粘着的(sticky)」な商品やサービスの価格に焦点を当てた指標。目的としては総務省の「食料・エネルギーを除く総合指数」に近い。FRBや経済学者が、短期的な価格変動に惑わされず、経済の安定性を評価する際に使う。
PPIは前年比2.64%で、目標値を上回るが、顕著な改善が見られる。

年率換算を除外すると、月次の動向はこれまで以上に良好だ。リアルタイムのインフレ率は2%未満である。
驚くことに、この傾向はトランプ大統領の就任日とほぼ同時期に始まった。ここで因果関係を推測するのは単純すぎる。確かに、トランプ氏の多くの大統領令は価格低下に有利だ。エネルギー規制の緩和、製品規制の緩和、産業への制約の緩和は、物価を下げる効果を持つ。しかし、この急激な下落は、以前のインフレが一巡した結果である可能性が高い。
マネーサプライは最近になって3年前の水準に戻り、それまでは下落していた。連邦準備制度(FRB)の高い金利政策は、システムから大量の流動性を吸い上げた。バイデン政権時代の支出ブームは使い果たした。何兆ドルもの購買力がドルから吸い上げられ、2025年のドルは5年前に比べ4分の1の価値を失った。
その悲劇は起こり、非常に苦痛だった。しかし、その影響はほぼ終わった。これはトランプ政権にとって最も幸運な偶然だ。大統領は、必ずしも自分の功績でないにもかかわらず、すべての称賛を得る。
それで構わない。それが政治だ。
しかし、関税の導入がインフレを再び加速させるのではないかと懸念する声は多かった。それは今のところ起こっていない。これは衝撃的だ。多くの経済学者が、インフレは起こりつつあると指摘していた。理論的にはその通りだが、筆者自身も疑問を抱いている。
関税は、誰かが対処しなければならない厄介な問題だ。国内の消費者、企業、または供給業者が価格調整の形で支払うことになる。関税収入は自動的に生まれるものではない。必ず誰かがその代償を負っているのだ。
現時点では、それが生産者でも消費者でもないように見える。少なくとも、私たちが確認できる限りではそうだ。繰り返すが、あくまで今のところであり、今後起こるかもしれない。誰にも断言はできない。
これは、経済学の核心的な点、誰もが忘れたがる事実を強く思い出させる。
それは、経済学の予測は、定量的な予測ができないということだ。経済学は数字や時期を特定するのが極めて苦手だ。一度正しく予測できたとしても、次はほぼ確実に間違ってしまう。まれに2、3回連続で的中した者は、4回目か5回目の予測は壮絶に外すことがほぼ確実と言ってよい。
経済学は定性的な予測を行うのに優れている。これは、Zが一定であればXがYを引き起こすという観察に相当する。それはそれで正しい。しかし、Zは決して一定ではない。そのため、経済学は量的予測を信頼できる精度で行うことができない。
これは今も昔も真実だ。
問題なのは、この観察――ごく単純で、常識的な知性を持つ人なら誰も異論を唱えないようなことが、過去100年近くにわたり経済学という学問が追い求めてきた方向性と真っ向から矛盾しているという点である。
多くの経済学派の信条は、「科学とは予測である」というものだ。予測が正確であればあるほど、真の科学に近づく。経済学は100年間この理想を追い続けてきたが、決してその目標を達成できていない。
この見方は、知的な傲慢さの極みを表している。経済学の根底にあるのは人間の選択。しかし、人間の選択は予測に反する。ゆえに、経済学は定量的予測には向かない。その予測力は常に定性的領域に限定される。それを超えると、経済学そのものが偽の科学として信用を失うリスクを冒すことになる。それが今日、経済学がそう見られる理由だ。
それでも、経済学者たちはやめられない。彼らは、これまでの経験で明らかなように、存在しない予測力があると装うことで、名声やキャリアの向上をあまりにも多く得ている。だから、彼らは試み続ける。そして結果的に、自分たちの信頼性を自ら損ない続けている。
確かに、経済学者の予測は量的には正しい。関税は、ある特定の分野やグループに対して価格を押し上げるが、それが具体的に誰に影響するかを正確に予測することは難しい。これまでのところ、消費者には影響していないようだ。
ここで、インフレーションとその定義についても触れておきたい。新しい税が価格を上昇させることがあり得るが、それはインフレとは異なる。
ミルトン・フリードマンが繰り返し主張し、証明したように、インフレは常に、そしてあらゆる国・地域において、貨幣的な現象だ。インフレ率の上昇とは、単に個別の財やサービスの価格が上がることではなく、通貨の価値が下落していることを意味するのだ。
筆者は関税の支持者ではないが、客観的な実証データに基づいて話を進めたい。現時点では、トランプ関税が価格上昇を引き起こしたという証拠はない。現時点では、関税は主に輸入業者が負担し、価格転嫁されていないように見える。あるいは輸出業者が十分な利益率を持っていたため、価格を下げて関税分のコストを吸収している可能性がある。
まだすべての現象を説明する十分な実証データがない。それでも、もしここで勝敗をつけるなら、低関税の終了による差し迫った危機を予測した経済学者たちは、今のところ勝利側にいない。そして、ここには教訓がある。経済学者たちは、少し謙虚さを身につけたほうがいいのかもしれない。

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