中国共産党(中共)政府が2018年、韓国大統領執務室や大統領官邸に隣接する核心地帯の土地を購入したことが明らかになり、議論を呼んでいる。このことは、韓国メディア「アジア経済」が5月13日に初めて公に報じた。
「アジア経済」によると、2018年12月に、中共は龍山区梨泰院洞一帯にある11区画で、総面積4162平方メートルの土地を計299億2千万ウォンで取得する契約を締結している。翌年7月末には全額を支払い、土地の所有権が中共政府に正式に移転した。購入主体は、在韓中共大使館だ。
外交施設の不動産取得については「ウィーン外交関係に関する条約」に基づき免税措置を適用している。韓国の現行法では、外国政府や外国人による土地取得に対して事前許可や制限が設けられていない。そのため、中共側は韓国政府の承認を受けることなく土地を購入できていた。
韓国外務省の関係者は「駐韓外交団が土地を取得する場合、特別な申請や承認は必要ない」と説明している。ただし、建物の建設を伴う場合は、用途や目的について事前に韓国政府との協議が必要である。
要衝の立地 用途不明 安全保障上の懸念も
取得した土地は南山の麓にあり、大統領執務室や官邸からおよそ1.5キロ、アメリカ大使館の移転先「キャンプ・コイナー」から直線距離で1キロしか離れていない。この地域周辺には多くの核心的な行政、安全保障、外交関連機関が立地しており、地下には首都圏広域急行鉄道(GTX)A線が通るなど、ソウル市における戦略的な要地となっている。
さらに注目すべきは、この土地は中国政府が購入してから6年間未利用のままだ。元々あったゴルフ練習場とフェンス、3階建ての西洋式住宅が一棟残されており、開発の兆しは見られない。
敷地の周囲に複数の監視カメラが設置されており、一定の管理体制が敷かれていることはうかがえるが、具体的な用途や開発計画については公表されていない。
中共大使館は「大使館の公務に使用するための土地」だと説明し、コロナの影響により使用・開発計画が遅れていると述べた。そして将来的な建設内容や具体的な目的については「内部事項であり回答できない」としている。
なお、韓国政府が公表している当該地の2025年1月1日時点での公示地価は約320億ウォン(約33億円)であるが、最近の裁判所による周辺地の評価額(1坪あたり8800万ウォン)を基にすると、推定地価はすでに1千億ウォン(約104億円)を超えている。取得時から価格は約3倍に上昇していることになる。
外国人土地取得に実質的制限なし 制度の空白を指摘
韓国では現在、外国人や外国政府による土地取得に対して、実質的な制限や審査制度は存在しない。2023年9月、洪碩晙(ホン・ソクジュン)元国会議員が公開した国土交通部のデータによれば、2022年末時点で中国人が所有する韓国国内の土地面積は20.66平方キロに達し、2023年の外国人による土地取引のうち中国人の占める割合は64.9%に上った。
今回の中共政府による取得地のうち2区画は、もともと韓国政府が所有していたが、2017年に個人に売却した後、わずか1年半で中共側に転売された。取引自体に法的な問題はないが、国の中枢機関が集中する地域でのこうした土地取引は、安全保障上の懸念を呼んでいる。
アメリカでは現在35州が、中国人や中国系企業による土地購入を制限する法律を導入しており、カナダも2023年から外国人による住宅用不動産の取得を全面的に禁止している。これに対し、韓国では外国政府による土地取得についての審査や規制がなく、ほとんどの取引を一般的な商業取引として処理している。
また、韓国人が中国本土で土地の所有権を持つことはできない。一方、中国人や中共政府は韓国国内で自由に不動産を取得できるという「制度の非対称性」も、メディアや専門家の間で批判されている。
専門家と政界 「国家安全に関わる問題」として法整備求める声
今回の土地取得が明るみに出たことで、韓国国内では「外国政府による土地取得はもはや単なる不動産取引ではなく、国家安全保障に直結する問題だ」との見方が広がっている。とりわけ首都ソウルの中枢に近いエリアでの取得であるため、政府の対応の在り方が問われている。
安全保障の専門家は、中共政府がここ数年、大使館や国有企業などを通じて世界各地で戦略的な土地取得を進めていると指摘。特に近隣諸国や交通要所における取得については、韓国政府は警戒を強める必要があると述べている。
洪碩晙元国会議員も、「韓国人は中国で土地を所有できないが、中国人はソウルの要所に土地を取得できる。この制度の不均衡は深刻だ」と訴え、外国政府や特定国による土地取得にはリスク審査制度を導入すべきだと主張している。
近年、日本でも外国人の土地取得が問題視されている。14日の国土交通委員会、法務委員会連合審査会で、日本保守党の島田洋一議員は「区分所有のマンションで外国人所有者の割合が高まっている事例が増えている。外国勢力による悪意を防ぐ、さまざまな法整備が必要だ」と指摘した。
現時点で韓国政府は、本件に関する具体的な方針は示していない。世論の関心の高まりや政界の動きを受けて、今後は外国政府による土地取得に対し、法制度の見直しを本格的に議論していくとみられる。
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