1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件から30年。事件を引き起こしたオウム真理教の後継団体に対する公安当局の厳しい監視が続いている。
法務省公安調査庁の最新資料(2025年2月21日更新)によると、現在も国内に約1600人の信者数が所属し、15都道府県に30施設を展開しており、事件後に生まれた世代の中にはテロ事件の発生など知らず、巧みな勧誘に誘われ入信するケースも後を立たないという。
事件の経緯と現在の組織構成
オウム真理教は麻原彰晃(本名・松本智津夫)が1984年に設立した宗教団体だ。1995年の地下鉄サリン事件では13人が死亡、6300人以上が負傷する戦後最悪の化学テロ事件を引き起こした。2025年現在、組織は「アレフ」「山田らの集団」「ひかりの輪」の3派閥に分かれて活動を継続している。
公安調査庁の報告書によると、主流派の「アレフ」は麻原死刑執行(2018年7月)後も施設内に教祖の肖像写真を掲示し、「麻原の脳波データを注入する」と称するヘッドギア「PSI」を使用するなど、教祖崇拝を堅持している。未成年者向けにイラスト入り教材を用いた洗脳教育も実施しており、未就学児を含む子供たちが施設に出入りしている実態を確認している。
拡大する新規勧誘の手口
これらの組織は現在も新規入信者を獲得し続けており、時事通信によると、2023年までの10年間で860人以上が入信し、そのうち地下鉄サリン事件以降に生まれた20代以下が52%を占めているという。
公安当局が2024年に摘発した事例では、30歳以下の若者を対象にし、SNSやウェブ会議システムを活用し、団体名を伏せた偽装サークル「ヨーガ教室」を装って接触。段階的に宗教色を強め、最終的に「アレフ」への加入を迫る手口を確認している。
法務省の立入検査資料(2023年度)によると、勧誘マニュアルには「麻原彰晃を信用できますか?」と質問を挟み、反応を探る心理操作手法を記載していた。2024年にはロシア連邦内にも活動拠点を拡大したことが判明している。
続く公安当局の対応
政府は2000年2月に施行した「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」に基づき、3年ごとに観察処分を更新している。2026年1月には8回目の更新決定が下され、2029年1月31日まで施設立入検査や活動報告要求を継続する。特に「アレフ」に対しては2025年3月以降、施設使用禁止と金品授受禁止を内容とする再発防止処分を適用している。
同団体は2020年2月以降、資産報告を一部省略し、被害者への賠償金約10億円を滞納しており、公安調査庁の推計では実質8億円以上の資産を隠蔽しているとみている。
また公安調査庁は令和6年、15都道府県下延べ45施設に対して立入検査を実施している。団体は、主流派(アレフ)・上祐派のいずれの構成員も、検査官の質問を無視したり、「質問に答える義務はない」と答えたりするなど、従前同様に検査に対する非協力姿勢を示したという。
特に「アレフ」は、検査中も、複数のビデオカメラを使用して、検査官の容貌を含め、検査の状況を終始撮影し続けて検査官をけん制したり、検査行為に抵抗したりするなど、非協力姿勢が顕著だったとしている。
事件から30年が経過した今も、オウム真理教問題は過去の事件ではなく、現在進行形の社会問題として続いている。公安当局は「組織の危険性は完全に除去されたとは言えず、監視体制の継続が不可欠」(公安調査庁幹部)との認識を示している。
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