イギリス政府は現在、中国共産党が同国のエネルギーシステムにどの程度影響を及ぼしているかを調査しており、国家戦略インフラが中国の影響下に置かれるリスクに対して警戒を強めている。
英紙ファイナンシャル・タイムズによると、イギリスの情報機関MI5が、中国製の太陽光パネルや産業用バッテリーの使用が将来的にイギリスの安全保障にどのような影響を与えるかを特定する作業を支援しているという。MI5のマッカラム長官は昨年10月、傘下の国家保護安全保障局が供給網の安全性を長年監視してきたことを明らかにしている。
政府調査
今回の調査は、イギリス政府が実施している「中国監査(China Audit)」プロジェクトの一環であり、英中関係の包括的な審査の一部として行われている。監査報告書は今年後半に発表される予定だ。
本プロジェクトは、英外務・英連邦・開発省が主導し、他の政府機関も参加している。イギリス政府は、中共当局との実務的な経済関係を維持しつつ、安全保障上のリスクから国を守るという二重の課題に直面している。
昨年秋には、「国家安全保障・投資法」に基づき、イギリス政府が中国の投資家に対し、イギリスの半導体企業における過半数の株式を売却するよう命じた事例もある。
イギリスは化石燃料からの脱却を進める中で、中国企業が脱炭素技術の国際供給網で支配的な地位を確立しつつあることに警戒を強めている。
スコットランド沖で計画されている浮体式洋上風力発電プロジェクト「グリーン・ボルト(Green Volt)」に関し、中国民間企業・明陽智能が風力タービンを提供する提案が議会の下院で激しい議論を呼んだ。
明陽智能は中国最大の浮体式洋上風力発電企業の一つであり、民間企業ではあるが、一部の議員は「中国政府が同社の経営判断に干渉する可能性がある」と懸念を示している。
英エネルギー安全保障・ネットゼロ担当相ケリー・マッカーシー氏は12日、議会で「重要インフラ投資における中国の供給網の役割を厳格に審査しており、安全保障面を考慮する必要がある」と発言した。
また、「イギリスの風力発電所に中国製のタービンが設置されることは、安全保障上の影響を無視できない」と警鐘を鳴らした。
同氏は「安全保障専門家は、タービンのセンサーがイギリスの領海、防衛用潜水艦の計画、エネルギーインフラの配置を監視するために利用される可能性があると警告している」と述べた。さらに、「中国製の設備やソフトウェア、サプライヤーに依存することで、中国政府が介入する余地を与えることになる」との懸念を示した。「財務省は明陽智能のタービン購入を承認する可能性があり、これは極めて憂慮すべきことだ」と指摘。国防省も「グリーン・ボルト」がスパイ活動に利用されるリスクを懸念していると報じられている。
2023年に、富山県下新川郡入善町沖で進められている洋上風力発電事業にも、明陽智能の風力発電ユニットが導入された。
企業側の反応
グリーンボルト(Green Volt)は、ノルウェーとイタリアのヴァルグロン社と英国のフローテーション・エナジー社の合弁会社によって開発されている北海の浮体式風力発電プロジェクトであり、開発側は「明陽智能を正式なタービンサプライヤーに決定した事実はない」と主張している。
プロジェクト関係者は「現在、風力発電所の建設を支援できるサプライチェーンのパートナーを模索している」と説明し、「政府のインフラ安全対策に関する規制とガイドラインを厳守する」との方針を示している。明陽智能は、もし同社が採用されれば、スコットランドにタービン製造工場を開設する計画であることを明らかにした。
英財務省はこの計画を支持しており、情報筋によると、「レイチェル・リーブス財務相が最近の訪中後、このプロジェクトに強い関心を示している」という。イギリス政府は2030年までに国内の電力産業を脱炭素化する計画を掲げており、大規模な風力タービン、太陽光パネル、バッテリーの導入を急いでいる。
アメリカの対応
一方、アメリカではトランプ大統領が2月14日に行政命令を発令し、「国家エネルギー主導委員会(National Energy Dominance Council)」を設立。国内のエネルギー生産と供給を強化し、AI分野での中国との競争に対抗する方針を示した。
行政命令には、「エネルギーの安定供給を拡大し、インフレ抑制、経済成長、雇用創出、製造業の再興を促進するとともに、AI技術分野でのリーダーシップを確保し、外交的・商業的影響力を通じて国際的な紛争を終結させる」との趣旨が記されている。
ホワイトハウスの声明によると、新設の委員会は連邦政府のエネルギー政策を統括し、エネルギー関連の許認可手続き、開発、流通を迅速化する役割を担う。
トランプ大統領は「我々はエネルギー分野を完全に主導する。この電力供給はAI工場の成長にも不可欠だ」と強調した。
この委員会の議長にはダグ・バーグム内務長官が就任し、副議長にはクリス・ライト・エネルギー長官が任命された。バーグム氏は「米国と中国はAIの軍拡競争を繰り広げており、勝利の鍵は十分な電力供給にある」と述べた。
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