FSOC 年次報告書で米国金融システムの脆弱性指摘

2024/12/07
更新: 2024/12/07

FSOC、2024年年次報告書で米国金融システムの14の脆弱性を指摘

米国財務安定監督審議会(FSOC)は、2024年の年次報告書で、米国の金融安定性に対する14の主要な脆弱性を特定した。特に、商業用不動産市場のストレス、サイバーセキュリティの脅威、デジタル資産のリスクが深刻な課題として挙げられている。この報告書は12月6日に公表され、14の分野における金融の脆弱性を特定し、預金機関のリスク管理慣行の強化、商業用不動産の信用リスクへの対処、デジタル資産の規制枠組みの確立など、金融の安定に対するリスクを軽減するための勧告を行っている。

商業用不動産:高まるリスク

イエレン財務長官は声明で「米国経済と国民の繁栄は、金融システムの安定性にかかっています」と述べた。また、新たな脆弱性に対応することで、「市場の回復力、効率性、安定性を高める必要がある」との考えを示した。

商業用不動産市場は、空室率の増加や賃料の伸び鈍化、そして連邦準備制度(FRB)の高金利政策による借入コストの上昇が深刻な課題とされている。FSOCは、大都市部のオフィス物件で空室率が過去10年間で最高水準に達していると指摘。リモートワークの定着など構造的変化が、この問題をさらに悪化させている。

報告書は、「大都市圏のオフィス物件は特に高いストレスに直面しており、これらのローンを保有する大手金融機関が最も影響を受けやすい」と警告している。さらに、商業用不動産市場の相互依存性が金融機関間でリスクを拡大させる可能性も強調された。

また、この懸念は商業 不動産担保証券(CMBS)のパフォーマンスにも反映されている。今年5月には、プライベートラベルCMBSのAAA格付けトランシェで2008年の金融危機以降初となる損失が発生。さらに、最近の報告によれば、オフィス物件に関連するCMBSの延滞率が2024年11月に10.4%に達し、金融危機時のピークに迫る水準となっている。

FSOCは規制当局に対し、金融機関が不動産価格の下落やローンの質の低下に備えたリスク管理と緊急時対応計画を強化するよう求めた。

サイバーセキュリティ:増大する脅威

商業用不動産に加え、FSOCはサイバーセキュリティの脅威を金融システムの重要なリスクとして挙げた。サイバー攻撃の頻度と複雑さが増す中、大規模な金融機関でのセキュリティ侵害が、システム全体に大きな影響を及ぼす可能性があると指摘している。

報告書は、「大規模なサイバー攻撃が成功すれば、業務の混乱、流動性アクセスの困難、銀行破綻や市場機能不全を引き起こし、金融システム全体への信頼を損ねる恐れがある」と警告。主な脅威としてランサムウェア攻撃、内部者による情報漏洩、偽情報の拡散が挙げられており、地政学的緊張がこれを一層深刻化させている。

FSOCは、連邦および州の機関、民間セクター、国際機関との連携を強化し、サイバーセキュリティ演習の実施や情報共有の拡大を推奨した。

また、イエレン財務長官は「プロジェクト・フォートレス」など、1千以上の金融機関が協力する取り組みを例に挙げ、準備と協調の重要性を強調した。

デジタル資産:システミックリスクの増大

FSOCは、デジタル資産、特にステーブルコイン(価格の安定性を実現するように設計された暗号資産・仮想通貨・のこと)が金融安定性にとって新たなリスクであると指摘。暗号市場は伝統的な金融市場に比べて規模が小さいものの、そのシステミックな重要性が増しているとFSOCは警告した。ステーブルコインは暗号取引に欠かせない存在である一方で、不安定な「取り付け騒ぎ」のリスクを抱えている。

報告書は、「市場の集中度や不透明性が、取り付け騒ぎのリスクを増幅させている」と述べており、特定の企業が市場の約70%を占める集中度の高さが、市場全体の混乱を招くリスクを増大させていると警告している。

FSOCは、ステーブルコイン発行者に関する連邦規制枠組みを確立し、取り付け騒ぎや決済システムリスク、市場の健全性、消費者保護に対応する必要性を提言。また、暗号資産のスポット市場に対する規制当局の権限強化も求めた。

その他の課題

FSOCは、預金機関、投資ファンド、プライベートクレジット市場、サードパーティのサービスプロバイダーなどにおける脆弱性も指摘。銀行の流動性計画の強化、バーゼルIII改革の完了、投資ファンドの流動性ミスマッチの解消、プライベートクレジット市場の透明性向上などを推奨している。

さらに、財務市場の回復力や中央清算機関の運用リスクについても、データ収集の強化やリスク管理の向上、政府機関間の連携強化が求められている。

 

The Epoch Times上級記者。ジャーナリズム、マーケティング、コミュニケーション等の分野に精通している。