日本で収益80%を得る中国ゲームも 浸透工作ひろがるモバイルゲーム市場

2024/11/23
更新: 2024/11/23

2020年6月25日に掲載した記事を再掲載

「孔子学院?新華社?こんなものは退屈だろう。中国が世界でソフトパワーを拡大させるには、モバイルゲームに注力すべきだ」中国国内メディアは最近、100億米ドル規模に達している中国ゲームの影響力の高まりに自信を見せている。世界各国を席巻している中国製ゲームは、共産党政権が進めている文化の浸透工作のツールとしての側面を持ち合わせている。

冒頭は、中国ゲーム情報サイトGameLookが2012年9月に発表したオピニオン記事から引用した一節だ。同記事は、海外で展開する孔子学院や新華社の影響は限定的だとし、ゲームは「10代の少年から祖父母まで楽しんでいる」とそのメリットを伝えた。「文化で今の若者、つまり未来に影響を与えたいなら、全ての子どもがゲームに夢中になっているこの時代に、ゲームより優れた方法があるのか?」

中国共産党政権は21世紀初頭、世界で影響力を拡大するため、文化の「海外進出」戦略を打ち出した。2012年に開かれた中国共産党党大会で中華文化の海外進出について「歩幅をさらに広げて、国際的影響力を高め、新たな局面を切り開く」と強調した。それ以降、中国当局は政策面でも資金面でも文化の海外普及を支援してきた。

日本でも大人気のゲーム「第五人格」「荒野行動」「ライフアフター」を作った中国IT企業大手網易(NetEase)の丁磊最高経営責任者(CEO)は 2019年12月、中国ゲーム業界の年次総会に当たる「中国遊戯産業年会」でこう述べた。「中国文化産業の使命の一つは中国と世界を繋ぎ、中国を正しく伝えることだ。ゲームが持つ文化の力は想像以上のものがある」

「中国を正しく伝える」は、中国外務省が海外で活動する官製メディアあるいは、国内の国内外メディアへの要求「中国について良い話を伝える」に共通する。海外に流行するあらゆる中国関連情報は「良い話」に限定し、不都合な話を取り上げないとするというものだ。

中国製ゲームは現在、米国や日本、韓国、台湾ほかアジア諸国でも人気を得ている。「中国遊戯産業年会」で発表された報告書によると、中国ゲームの海外市場の売り上げは前年比21%増の115.9億ドルに達した。アメリカ、日本と韓国の売り上げはそれぞれ30.9%、22.4%、14.3%となっており、この3カ国は全体の7割を占めている。

英調査会社IHS Markitの2019年モバイルゲームに関する報告によると、2018年世界モバイルゲーム収益TOP10は、6位に騰訊控股テンセント)の「王者栄耀」、10位にIGGの「ロードモバイル」の中国企業が開発した2作品がランクインした。

IHSは中国ゲームが日本国内でシェアを拡大していくと予想している。「荒野行動」の収益80%は、日本市場からだという。ゲーム情報誌「ファミ通モバイルゲーム白書2020」によれば、2019年モバイルゲーム課金売上ランキング TOP10(国内)で、「荒野行動」は4位につけて、424億円の売り上げを記録した。

中国メディア・時代週刊の曾憲天記者は2019年9月30日の記事で、中国のゲーム開発企業は、文化の普及という目標に達成するため、「ゲームを通じて、企業とのコラボを手段とする」発展の道を切り開いたと述べた。

「荒野行動」に登場するヘリコプターは、中国軍需企業、中国航天集団が開発した直-8輸送機と武直-10輸送機をモデルにした。中国メディアは「中国軍が独自開発した武直-10輸送機は我が国の誇りだ」とした。「マッチングした外国人プレイヤーとヘリコプターから降り立つとき、誇りと喜びが炸裂するだろう」

「三国志」シリーズのヒットで知られる日本のゲームメーカー・コーエーテクモゲームスは、2019年9月から、馬雲氏のアリババ系列アリゲーム(Aligames)に中国国内向けモバイルゲーム『三国志・戦略版』を展開させた。コーエーテクモの鯉沼久史社長は5月、日経トレンドの取材に対して、創作知的財産権(IP)を中国企業に貸し出して海外のゲーム会社が制作する事業だと説明。こうしたIP関連利益は、会社全体の業績をカバーしていると語った。

「日本のソフトパワーを模倣」

前出のGameLookのオピニオン記事には、このソフトパワー拡大には、日本がアニメやゲームを通じた対外ソフトパワーを模倣にするべきだと提言している。記事は、露骨な共産党中央委員会の宣伝企画が海外で素直に受け入れられるとは考えにくいし、人気俳優を使った宣伝よりかなり安い、とゲームの利点を並べた。「日本はゲームというソフトパワーを通じて伝統的な芸術、音楽、神道まで多岐にわたる文化を海外に広めた。しかも、ただ単に楽しく遊べるようにデザインされている」と評した。

しかし、中国製ゲームはただ楽しむためだけのものではない。「中国を正しく伝える」という役割を果たすため、中国に不都合なことを検閲し、封鎖している。

2019年、アクティビジョンは主催したオンライン対戦カードゲーム「ハースストーン」世界大会で、香港民主デモに応援メッセージを送った香港人プレイヤーの大会参加資格を停止した。これに反発したプレイヤーらは、同ゲームのボイコット運動を起こした。

また、中国共産党が4月4日を新型コロナウイルス(COVID-19)との戦いの勝利を宣言する「武漢肺炎国戦記念日」と指定し、中国オンラインゲームは全世界で強制的な利用禁止となった。このように、中国当局は都合次第でゲーム利用者に対し24時間何らかの影響を行使できる。この利用禁止について、不平をコメントしたユーザは課金制アカウントにもかかわらず、永久凍結されたという。

中国では、国営企業も民営企業も、共産党政権の管理を受けている。ゲームは言論統制を他国に広めるだけでなく、FacebookやYouTubeなどの広告で海外の世論に影響を与えている。ゲームに関するSNSの広告は非常に収益性が高く、ゲーム会社はFacebookやYouTube上に積極的に広告を掲載し、間接的にSNSの広告収入システムに政治的な影響力を与えている。

台湾の時事評論家・徐嶔煌氏は大紀元の取材に対して、広告枠を買う中国企業側は、間接的にSNSの広告収入システムに政治的な影響力を与えていると述べた。たとえば、香港の民主デモや、中国の失業率、台湾蔡英文政権を好意的に伝える内容など、当局が制御したい情報コンテンツが含まれる動画には広告がつかなくなる。

逆に、中国共産党が好ましいとみなすコンテンツには、高い広告料を設けている。徐氏はその例として、台湾総統選挙に出馬した親中派政治家の韓国愈・高雄市長の動画には、高い広告収益率がついていたと指摘した。

米国では最近、中国製アプリは国家安全にとって脅威であるとの懸念が高まり、動画共用アプリTikTokなどは政府機関、軍での使用を禁止にされている。

しかし、日本では中国共産党の検閲や情報封鎖が行われる中国製ゲームやソフトに対する懸念は強くないようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル昨年11月29日、「誰が作ったゲームで遊んでいるのか、中国製ゲームが日本進出を加速」と題する記事で、「日本のプレイヤーは中国製ゲームで遊んでいるとの認識はない」「中国当局が個人情報を悪用している可能性を日本メディアはあまり取り上げていない」と分析した。

(大紀元日本語編集部)