<独自>中国危険レベル、日本は「ゼロ」のまま…元外交官が語る日米の「温度差」

2024/10/31
更新: 2024/10/31

2023年11月15日に掲載した記事を再掲載

中国共産党が7月に反スパイ法を改正したことを受けて、米国は自国民に対し中国本土への「渡航の再考」を促す警告を発している。いっぽう、日本の外務省が発表する渡航危険レベルは「ゼロ」のままだ。邦人の拘束が相次ぐなか、外交関係者は邦人の安全をどのように見ているのか。長年中国に携わってきたベテランの元外交官から話を伺った。

渡航危険レベル据え置きの謎

米国務省は6月30日、中国への渡航勧告を改訂した。恣意的な法執行や不当な拘束に遭うリスクがあるとして、警戒レベルを4段階中2番目に高い「渡航再考」へと引き上げた。中国で拘束される米国人が増加しているとの報告があるという。

同省は次のよう共産党体制の中国におけるリスクを説明している。「様々な文書やデータを国家の秘密とみなし、外国人をスパイ容疑で拘束する権限を持っている」「外国政府との交渉での優位を確保するために外国人を拘束する可能性がある」

いっぽう、日本の外務省が指定する中国本土の渡航危険レベルは「ゼロ」のままだ。チベットおよびウイグル自治区は「レベル1(十分注意)」だが、過去の抗議活動を念頭に置いたものであり、反スパイ法を対象としたものではない。

これについて、外務省が「中国共産党に遠慮しているのではないか」との指摘がある。外務省に問い合わせたところ、「(中国の邦人拘束について)状況説明は難しいが、渡航警告レベルの引き上げが決まれば直ちに対応する」とのことだった。

日本政府が注意喚起を全く行なっていないというわけではない。外務省は、中国で改正版反スパイ法が成立したことを受けて、スパイ行為とみなされる可能性のある行為を例示し、「不透明かつ予見不可能な形で解釈される」との警告を発した。

さらに、東京電力福島第一原発の処理水放出に際しては、中国に滞在する邦人が嫌がらせを受けないよう「不必要に日本語を大きな声で話さないなど、慎重な言動を心がける」ことが大切だと注意喚起した。

元外交官「社会主義を捨てるべき」

不安定化する邦人の境遇について、大陸の変遷を長年ウォッチしてきたベテランの元外務省外交官はどう見ているのか。元外交官は匿名を条件にエポックタイムズの取材に応じた。

元外交官によると、日本と米国では渡航勧告発出のアプローチに違いがあるという。米国は明確な勧告を出すのに対し、日本は情報提供に重きを置き、渡航希望者の自己判断に委ね傾向があるとした。

「米国も日本も自国民を大事にしている、その点は同じだ。ただ手法は違う」「米国は国家として中国渡航に対して勧告、つまり『行くのを避ける』とはっきりさせている。しかし日本の態度は米国と同様ではない。注意喚起を行い、安全対策を呼びかけている」

このほか、日本は特に経済界を中心に中国との関係を重視し、対立を避けたいという意見が強いものの、中国での日本人拘束などの問題も考慮する必要があるとした。拘束事案は正当化できるものではなく、中国は自ら発展や成長を阻害する行動だとも指摘した。

さらに、中国に関する多くの問題は体制にあるとの分析を示した。「特色ある社会主義」や「共産主義」を掲げている以上、日本との関係においては避けがたい困難が生じると強調した。

「これらの体制では国際的に協調することは難しい。日本が重んじる透明性やルールの遵守といった価値観を共有できない。まず、これらの社会主義を放棄しなければならないだろう。そうすれば多くの問題が解決する」

17人もの邦人拘束

外務省によれば、15年以降、拘束された邦人は計17人にのぼる。今年3月、大手製薬のアステラス製薬の日本人の幹部社員は拘束され、10月、正式に逮捕された。最近も、レアメタルを扱う日系非鉄専門商社の中国人社員も拘束されていることも明らかになった。

アステラス社員の拘束について、経団連の十倉雅和会長は4月、中国の駐日大使に面会。経済活動に支障をきたす行為であり「すみやかに調べ、明らかにしてほしい」と述べ、早期解決を要請した。

特に中日商工会議所の理事を務め、中国共産党幹部とも交流のあったアステラス幹部社員の逮捕は「ビジネスにかなりの冷え込み効果をもたらした」と、関係筋は述べている。外国投資が少なくとも2014年以来最低レベルに落ち込み、駐在員の流出が加速した。

駐日米国大使ラーム・エマニュエル氏は「日本のビジネス界は安全確保への懸念から中国駐在人員の確保ができず、対中取引を見直している」と述べた。

この状況の中で、中国の外国投資が数十年ぶりに初のマイナスを記録した。外貨管理局は11月3日、第三四半期に外国から中国への直接投資(FDI)が史上初のマイナスになったと発表。

今年最初の9か月間で、日本の対中国本土への直接投資は前年比30.6%減少し、3934億円に落ち込んだ。これは2014年以来の最低額だ。

WTO加盟以降、外国投資によって急速に成長した中国共産党政権下の経済だが、恣意的な拘束や罰則、技術転用などのチャイナリスクが顕在化し、外国資本が中国市場を敬遠する傾向が強まっている。

中国に住む日本人の数も過去10年間で減り続けており、2022年には10万2066人になった。今年も同様の減少があれば、少なくとも2004年以来最低の在留者数になる見通しだ。

16日から17日まで米サンフランシスコで開催されるAPECサミットで、岸田文雄首相は中国共産党側と会談する予定。関係筋はロイター通信に対して、邦人拘束事案が議題に上ると明らかにした。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。