欠席のバイデン
13、14日のG7サミットに引き続き15、16日とスイスのビュルゲンシュトックで、100の国と国際機関が参加して世界平和サミットが開催されたが、バイデンは事前に欠席すると発表していた。代わりに米副大統領のカマラ・ハリスが出席したが、問題は、欠席の理由だ。
米国における選挙キャンペーンに参加するためだという。世界の92の国と8国際機関が参加する外交の大舞台を欠席して、自分の選挙活動に専念しなければならないと言うのなら、次期大統領に当選できるかどうか、危ういと自ら認めた様なものである。
ゼレンスキーの失敗
世界平和サミットは、2022年2月にロシアに侵略されたウクライナのゼレンスキー大統領が同年11月に提唱した和平提案を議論するために、今回初めて開催された。ところが、ウクライナの最も強い後ろ盾である米国が副大統領しか送らず、中国は不参加、ロシアはもともと招待されていないから、盛り上がりの欠けた会合にしかなりようがない。
ゼレンスキーは6月2日、シンガポールで開かれていたアジア安保会議に飛び入り参加し、世界平和サミットへの参加を呼び掛けた。つまり同サミットへの参加を表明している国々の数が期待した数に及ばないので、当初参加を予定してなかったアジア安保会議に急きょ参加して、同サミットを宣伝して参加国を増やそうとしたのだ。
だがこの努力は徒労に終わった。この時点で106の国と国際機関が参加を表明していたのに、実際に参加したのは100であるから、6減らしたのである。
焦ったゼレンスキーは、同サミットの共同声明で多数の賛同を得るために窮余の策を講じた。ゼレンスキーが2022年11月に提唱した和平提案は全10項目であったのに、この共同声明では7項目を削って3項目に限定したのだ。
もともと10項目を実現するためのサミットだったから、大幅な後退としか言いようがない。しかもそれでも賛同したのは80か国に留まった。特にインド、ブラジル、南アフリカの反対は衝撃だ。これにロシア、中国を加えるとBRICSであり新興国の中核をなす。つまり先進7か国G7が主導するウクライナ和平案に新興国が反旗を翻したのである。
ウクライナの敗北
現在、ロシア軍はウクライナのおよそ6分の1を占領しており、これを完全に追い払うのはウクライナの戦力では不可能だというのが、米国防総省を含めた軍事専門家の共通の見解だ。
侵攻から11か月後の2023年1月に当時の米統合参謀本部議長のマーク・ミリー陸軍大将は「今年中にウクライナからロシア軍を軍事的に完全に追い出すことは非常に困難」であるとし、「遅かれ早かれ、どこかの時点で事態を収束させるため交渉を行う必要がある」と述べている。
同年5月、ゼレンスキーは広島で開かれたG7サミットに飛び入り参加し(飛び入り参加が好きな人だ)「これから反転攻勢に出る」と豪語して大規模な支援を勝ち取った。
同年6月、米CIA長官のバーンズは、「ウクライナ軍はクリミア半島の境まで領土を取り戻し、年末までにロシアと停戦交渉に入る」と明言した。
しかしウクライナの反転攻勢は完全な失敗に終わり、同年12月までにロシア軍が却って占領地域を拡大している。この時点まで米国は十分な軍事支援をしていたにもかかわらず、なぜウクライナ軍は敗退したのか?と言えば、徴兵忌避などによる兵員不足が敗因だ。
この4月から米国は軍事支援を再開したが、武器弾薬をいくら支援しても、それを使う兵員がいないのでは、勝利は覚束ない。
巧妙なプーチンの戦略
6月14日、G7首脳は「ロシアの凍結された資産を活用してウクライナに500億ドル供与する」旨を共同声明に明記した。ここで重要なのは、G7が直接、供与するのではない点だ。新たに基金を創設し、G7はここに融資するのである。
ウクライナはこの基金から500億ドル相当の支援を受け取るが、G7への返済は基金が担当し、凍結されているロシア資産の利子が充当される仕組みである。要するにG7は今までのような無償供与では、もはや国民の理解が得られないので、融資と言う形を採ったのだ。つまりゼレンスキー疲れは、完全に表面化しているのである。
同日、ロシアのプーチン大統領は、狙いすました様にウクライナ停戦の条件を提示した。ウクライナ軍がヘルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルハンスクの4州から完全撤退する事が停戦交渉に入る条件だと言う。
この4州はロシアが一方的に併合を宣言している地域だが、現実には戦闘が継続している。つまりウクライナは4州を放棄して降伏せよとプーチンは言っているのだ。
実は5月24日、「プーチン政権は、現時点でロシアが制圧している地域を認定する形で停戦する用意がある」とロイター通信が伝えている。これだと4州を貫いている戦線が停戦ラインとなる。これは現実的な提案だが、6月14日の提案は、ウクライナが飲めるはずのない提案だ。
つまり、プーチンは世界各国に広がるゼレンスキー疲れを戦略に織り込んで、戦闘が長期化すればするほどロシアに有利になると考えているのであろう。
(了)
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