ここ数か月、中国を拠点とするシリコンに代わる物質を探そうとする動きが、米国と欧州連合(EU)で勢いを増している。中国の国営輸出業者と取引すれば、人道的・地政学的な影響を受けるという懸念が広がり反発を招いており、欧米諸国では太陽光パネル生産の国内移転を求める動きが活発化している。
欧米諸国は、中国共産党政権が新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人に対してジェノサイドを行っていると認定した。また、法輪功学習者からの臓器収奪が明るみに出たり、言論の自由の抑圧、経済的強制、経済の失政、南シナ海での侵略、そして台湾侵攻の可能性の懸念もあって、西側諸国のエネルギー輸入業者は、中国から独立したサプライチェーンに依存することを望んでいる。
EUは、グリーンエネルギーという未来ビジョンの中で、重要な役割を果たす太陽光パネルの建設において、中国産シリコンの過度な輸入依存を抑制しようとしている。しかし、西側諸国は中国との競争において、エネルギーコストという点での大きな不利に直面している。
「半導体の製造工程と同じで、多結晶やシリコン、太陽光パネルの製造には、非常に高い熱を必要とする。安価なエネルギーを持つ中国はコストを下げることができ、彼らには規模の経済が味方する」と、ワシントンに本拠を置くエネルギー研究所の政策・コミュニケーション担当マネージャー、アレクサンダー・スティーブンス氏は、エポックタイムズに語った。
それゆえ、西側諸国のエネルギー部門は岐路に立たされている。国内の生産能力は、壊滅的な規制や安価なエネルギーとの競争力の欠如によって相殺されてしまう。エネルギーコストは、太陽光パネルのコストの約40%を占めている。
「この分野の技術進歩は非常に遅い。安易なイノベーションは排除され、実質的なテクノロジーの改善はますます難しくなっている」とスティーブンス氏は語った。
シリコンの採掘と加工は難しくはないが、中国は規模の経済を展開して高熱を効率的に発生させ、太陽光パネルを安価に製造している。欧州でのシリコン採掘も課題ではないが、エネルギーコストの安い中国と競争することは難しいとスティーブンス氏は付け加えた。
中国のエネルギー部門の採掘者、生産者、輸出業者は惜しみない補助金を政府から貰い、安価なエネルギーを巧みに利用している。西側諸国では遵守すべき環境規制も中国ではほとんど受けずに運営されている。これらの規制は非常に煩雑なため、西側諸国が近い将来、エネルギー自給を実現することは非常に難しいと、エネルギーセクターのアナリストたちはエポックタイムズに語った。
米国では、シリコン太陽光パネルを製造するために必要な工業用熱は、石炭と天然ガスに大きく依存するプロセスであるとスティーブンス氏は指摘する。
しかし、中国の成功を見習うことは、論争が多く、政治的にも複雑な水圧破砕法の話題に立ち戻ることになる。この問題については、ジョン・フェッターマン上院議員(民主党)などの米国の政治家たちが政治的な都合で、方針を決めかねている。
暫定的な手順
米国下院は2月15日、H.R.7176「Unlocking Our Domestic LNG Potential Act of 2024」法案を224対200の賛成多数で可決し、エネルギー自給の支持者に希望を与えた。この法案は、天然ガス法(15 U.S.C. 717b)の文言の一部を明確にし、液化天然ガス(LNG)施設の立地、拡張、運用に関する米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)の承認基準の改正を定めている。FERCは、公共の利益に資する合理的な基準を満たした場合に承認を与える。
HR 7176の可決は、ライバルである中国に対して、米国のエネルギー部門の競争力を高めることを望む生産者や流通業者にとっての勝利である。
この投票は、1月30日、マルコ・ルビオ上院議員らがバイデン大統領に対して、太陽光パネルの製造に使用する中国輸入品に対する関税を引き上げるよう要請したわずか数週間後に行われた。
議員らは中国共産党政府が国内産業に補助金を支給しているため、太陽光パネル製造を、米国の製造業者や流通業者よりも、中国企業が優位に立つ分野と説明した。また、2023年における太陽光パネルの製造コストは1ワット当たり0.15ドル(約22.18円)に下落し、米国の同等のコストよりも60%以上低くなっていると指摘した。
「中国は2026年までに、今後10年間の世界需要を満たすのに十分な能力を持つことになる。この能力は、米国の太陽光発電産業とエネルギー安全保障に対する脅威だ」と議員らは述べた。
現在の化石燃料に対する広範な嫌悪感は、中国企業との競争を模索する米国企業にとって厳しい状況を生んでいる。
スティーブンス氏によると、風力タービンの支柱を作るために使用される鋼材や、水力発電用のダム建設に使用されるセメントを製造するためには、炭素集約型のプロセスが必要であり、世界の石炭の約20%が鉄鋼生産に充てられている。
「これらすべてには、ある種の高温の工業プロセスが必要であり、通常、基本的な燃焼燃料である化石燃料が使われる。核も使えるが、今は使っていない」と語った。
したがって、現時点で、米国国内のエネルギー生産を拡大し、中国を拠点とするサプライチェーンへの依存の罠から逃れるために、現実的な計画を立てようとすると、大きな政治的障害に直面する。
欧州委員会のマイリード・マクギネス財務相は2月、EUが太陽光発電の導入において大きな成果を上げたと称賛した。昨年、EUで生産された全エネルギーの8%を太陽光発電が占めていた。
「欧州で展開されている太陽光パネルの97%以上が中国からの輸入であるため、EU市場の供給は、輸入に大きく依存している」とマクギネス氏は述べている。
マクギネス氏をはじめとする他の欧州の閣僚や産業界のリーダーたちは、地球上で最も悲惨な人権問題を有する中国の国有企業を潤す欧州のグリーンエネルギー推進の取り組みに納得はいっていない。しかし、西側諸国の規制が大きく変わらない限り、この中国による支配は収まらないだろうと、エネルギー専門家は指摘した。
規制は北京を教唆
2023年までに30ギガワットの太陽光発電製造能力をEU域内に戻し、中国やその他の外国勢力からほぼ独立してエネルギーを生産するというEUの新たな目標は非現実的だとスティーブンス氏はエポックタイムズに語った。中国に拠点を置く採掘業者、製造業者、輸出業者は、現在の法律や規制の枠組みが有効なままであれば、その支配的地位を失う可能性は低い、と同氏は考えている。
「中国は最大のシリコン生産国であるため、それは非常に難しいだろう。彼らは年間600万トンを生産しているが、世界全体でわずか880万トンしか生産していない」と彼は語った。
中国のシリコン産業は、環境管理の緩さと豊富な安価な電力から恩恵を受けている、とスティーブンス氏は言う。組織的な取り組みがうまく行けば、米国とEUはより効果的に競争できるかもしれない、と彼は述べた。しかし、現在のところ、彼らの環境目標はサプライチェーンの多様化の妨げになっている。
スティーブンス氏は、この問題が米国と欧州の取り組みを妨げていると見ている。
過去10年間、米国のシリコン生産量は一貫して増加し、2018年にピークに達し、2019年から急激に減少し始めた。2022年の米国のシリコン生産量は26万5千トンで、過去最高を記録した2018年の43万トンから大幅に減少したとスティーブンス氏は指摘した。
米国では、多くの要因によってエネルギーの効率的な生産が制限されている。スティーブンス氏は、地中にある鉱床が発見されてから認可され、鉱山が稼働になるまでに10年以上かかるという許可プロセスを批判した。
「米国の許可プロセスに大幅な改革がない限り、鉱業は軌道に乗らないだろう」とスティーブンス氏は語った。
多くの司法管轄区では、採掘ベンチャーに青信号を出すことに難色を示している。これは、欧米諸国が中国との競争力を高め、中国への依存度を下げるようなペースや方法でシリコンを採掘する上での慢性的な障害となっている。
中国のサプライチェーンへの依存がもたらす道徳的・地政学的な懸念があるにもかかわらず、中国共産党政府とその人権状況に批判的な国々は、この教訓を学んでいないのである。
「ノルウェー、フランス、その他の欧州諸国でも、同様の問題を抱えている。ほとんどの場合、環境規制とエネルギー価格の高騰により、経済的に生産することができない。鉱業、あるいは現在ヨーロッパで行われている開発や製造は、まったくの無謀だ」とスティーブンス氏は言う。
「もし彼らが中国以外の他の場所を探そうとしているのだったら、それはおそらく実現しないだろう」
エネルギー問題と市場を分析するテキサス公共政策財団のイニシアチブである「Life: Powered」の政策ディレクター、ブレント・ベネット氏も「EUの多くの地域で、国内のエネルギー能力を高めるための措置を講じることに消極的な姿勢が蔓延している」と、同意見を述べている。
「EUの中国への依存度を下げるには、独自の天然ガス資源を開発することだ」と、ベネット氏はエポックタイムズに語った。「EUは天然ガスの探査をあまりしていない。ほとんどの場合、欧州では水圧破砕を行うことができず、規制によって禁止されているからだ」
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