今から2年近く前になる2022年4月、河南省の村鎮銀行による突然の「預金凍結」事件が発生した。以来、1千人以上の預金者が預金を引き出せないため、生活に困窮する事態が続いている。
このほど「不当に凍結された預金」を返してもらうため、中国東北部から河南省鄭州市へ赴いた70代の高齢夫婦がいた。その夫婦(王喜章さん、蔡広麗さん)は、河南省の当局者に暴力を振るわれた後、連絡が取れなくなっていることが分かった。いま王喜章さん夫妻は「全く所在が分からず、生死さえ不明の状態だ」という。
駅へ着いた途端、高齢夫婦に暴行
同じく預金を凍結されて返還を求める預金者仲間の王嵐さん(仮名)によると、拉致された王さん夫妻は、2月25日午後、鄭州の鉄道駅に着いた。
駅前広場へ出たところ、私服警官と思われる複数の男たちに囲まれ、殴られたり背負い投げされるなどの暴行を受けた。さらに夫妻は拉致されて、消息不明になっているという。
「暴行時の様子を捉えた証拠写真もある。この老夫婦とは今も連絡が取れず、生死さえ不明だ。私たち預金者仲間は、みんなで代わる代わる、鄭州の110番にこの件について通報してきた。しかし、鄭州警察から折り返しの電話を受けた人はいない」
「70代の高齢者に手を出すなんて、あの自称警察どもはクズで、悪魔だ。拉致された老夫婦は、心臓に深刻な持病をかかえているんだ。血圧も高く、上が220ある」
そのように憤慨する王嵐さんによると、行方不明になっている王さん夫婦は、預金者のなかでも「特別な存在」だったという。
「老夫婦はともに高齢であるうえ、健康状態も良くない。そのうえ、彼らの経済状況は非常に悪い。老夫婦は(預金を凍結されてから)2年近く、ゴミ拾いや残飯集めをしてなんとか食いつないできた。本当にお金がないんだ」
「見せしめ」のための暴力
旧暦の大晦日の日(2月9日)にも、凍結された預金の返却を求めて、全国各地から大勢の預金者が河南省鄭州を目指した。しかし、無事に鄭州入りできたのはわずか数十人だった。その他の大勢の預金者は、鉄道駅に着いた途端に現地の警察によって拘束されたからである。
王嵐さんによると、3人の預金者仲間は、1か月ちかく経つ現在もなお監禁されている。また、その家族は、警察からのいかなる通知も(口頭でも書面でも)受けていない。逮捕された後、釈放された預金者たちもいたが、拘束されていた10日間は「地獄のような日々だった」という。
「河南省の当局は、私たちの合法的な預金を奪うために、そうやって預金者を大量に逮捕したり、老人を暴行したりしている。それを私たちへの、見せしめにしているんだ」
つまり「預金を返して欲しい」という正当な要求をする預金者を、わざと虐待し、とことん痛めつけて「見せしめ」にする。そうして他の預金者を威圧することで、預金の請求を諦めさせようとしているのが河南省当局であるということだ。王嵐さんは、次のように憤慨する。
「私たちは、いかなる犯罪も犯していない。ただ、自分のお金を、河南省の地方の国有銀行に預金しただけだ。私たちにこんな仕打ちをする河南省政府も、河南省の公安や警察も、みな正気を失っている」
「預金凍結」から、もはや2年
河南省と安徽省の複数の銀行は2022年4月中旬以降、顧客の全ての預金を凍結した。他省からの大口預金者は千人以上いるが、今も自分の預金を引き出すことができないでいる。
この問題をめぐり、これまでにもたびたび預金者が集まって抗議活動を行ってきた。しかし地元当局は、抗議者への暴力をふくむ逮捕や不法監禁、抗議活動の妨害など、容赦ない弾圧を行っている。
中国のSNS上に拡散された抗議現場とみられる動画の中には、警官のほか、当局が手配したとみられる男たちが、こん棒を振るって預金者を殴りつけるなど、妊婦や高齢者、体の不自由な抗議者にも容赦なく、無差別に暴行している場面があった。
そうした預金者なかには2年近く、預金を一銭も引き出せない人もいる。そのために生活が困窮し、今では市場で捨てられる菜っ葉などの「野菜クズ」を拾って食いつなぐ人さえいるという。
また、預金を引き出せないために、ガンの母親の治療費が払えず「母親が死んでゆくのを、ただ見ているしかなかった」という人もいる。同じく、ガンを患ったが治療費が工面できないため病院で治療することができず、先月病死した浙江省紹興市の預金者もいた。
預金凍結の被害を受けた人のなかには、中小企業の経営者も多かった。預金を引き出せないことで資金難に陥り、倒産する企業も少なくないという。
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