「中国のシリコンバレー」の名声はどこへ 深センの路上にあふれる「失業者の群れ」

2024/01/10
更新: 2024/01/10

その地方は、もとは細やかな農業と漁業以外に何もない、広東省の僻村であった。それが、香港に隣接しているというだけの地理的条件を買われて、1979年1月から深セン(深圳)市となる。

以来、深センは、中共政府によって「共産主義体制のなかの、強烈な資本主義エリア」である「経済特区」に指定され、中国屈指の金融センターとして、実を結ばぬ徒花(あだばな)ではあったものの、きらびやかな一時代を迎えることになる。

現在の深センは、どうであろう。かつて上海、北京に次ぐ中国第3の経済都市であり「中国のシリコンバレー」とも称賛された頃の栄華は見る影もなく、完全に暗転しているのだ。

近年、米国からの制裁を受けることになった通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)、経営危機に陥った不動産開発大手の「恒大集団」など、いずれも深センを拠点とする中国の大手企業が次々と、経営上の「災難」に見舞われてきた。

その上、約3年にわたって続けられたゼロコロナ政策による打撃、および外資産業の中国離れなどが追撃したことで、もはや中国経済は回復不可能なほど低迷している。

企業家や投資者向けに情報発信をするツイッターアカウント「CEO Briefing(総裁簡報)は1月6日、かつて繁栄を極めた深センの龍華区和平路(和平通り)にあふれる「路上生活者」を映した約8分間の動画を投稿した。

そこには、夜の深センの街中で、ごろごろと路上にころがり、ただ泥のように眠るだけの大勢の男性たちが映っていた。もちろん女性の姿は、ない。街全体が重金属のような空気に包まれていて、人間の生気が全く存在しない「死の世界」になったようだ。

「CEO Briefing」は現在の深センの様子について、以下のように伝えた

「かつて深センが依存していた香港は、今では『世界の金融遺産』と化している。加工産業が東南アジアやメキシコへ移転したことにより、深センは千万人規模の就業需要を満たすことは難しくなった」

「深センの路上生活者は、いわゆる米国などのホームレスとはまた状況が異なっている。彼らは、アルコール依存者でもなければ、他人からの施しに頼る乞食でもない。彼らのほとんどが、もとは勤勉な労働者なのだ。ところが、失業などの原因で経済的に困窮し、こうして路上での生活を余儀なくされている」

 

(深セン市内の夜。ごろごろと路上にころがり、ただ泥のように眠るだけの大勢の男性たち)

関連動画をめぐり、ネット上には「私も失業中だ。今は貯金で食いつないでいるが、貯金が底を突いたら(動画の中の人たちと)同じように路上生活するしかない」といった、深セン在住のネットユーザーからの共感が響き渡っている。

昨年12月、国際的に権威のある格付け会社ムーディーズは、「中国の主権信用」の格付け見通しを「安定」から「ネガティブ」に下方修正した。

併せてムーディーズは、中国の地方政府の債務リスクや中国不動産業界の危機が、いっそう深刻化していることを警告している。

中国語大紀元時報の総編集長・郭君氏は、新唐人テレビの番組『菁英論壇』で、次のように分析した。

「ムーディーズが『中国の主権信用』の展望を、安定からネガティブに変更したことは、中国の国債の発行に影響を及ぼし、投資家にとって非常に大きな影響を与えることになる」

動画のなかに見られるのは、深センの街中の至る所で眠る「路上生活者」の群れである。

やがて次の朝がきたとき、この人たちが元気よく起き上がり、十分な食事をとって健康的な生活ができるようには、とても見えない。

仕事がなければ、収入も得られない。目の前に迫る飢餓の恐怖におののきながら、深センの路上生活者たちは、固く冷たい地面にその身を横たえている。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。