「この子に似ていたら、連絡して!」 双子の1人がさらわれた母親、魂の訴え=中国 広東

2023/12/09
更新: 2023/12/09

このほど、広東省に住むある女性は、自身が22年前に出産した双子のうち、病院から「死亡した」と告げられ、どこかへ連れ去られた下の子が「死んでいない。誘拐された疑いがある」と訴えて注目を集めている。

母の叫び「この子に似ていたら、連絡して!」 

中国メディアによると、およそ22年前の2002年1月30日、広東省茂名市の黄秀娟さんは、地元の衛生院(病院)で双子を出産した。2人とも男児であった。

分娩時、下の子は一時的に窒息状態(呼吸停止)になったが、なんとか最終的にうぶ声を上げることができた。その後、双子はそろって保育器の中に入れられた。この時、双子を見守っていたのは黄さんの姉だった。

だが、しばらくしてやってきた医師は、黄さんの姉に対して「下の子は、もうだめだ(死んだ)」と告げた。そのすぐ後に、ある老人が現れて、保育器から下の子を取り出し、そのまま抱きかかえて持ち去ったという。姉は、その時の老人を「遺体を処理しに来た人間だ」と考えてしまった。うかつな思い込みであった。

「下の子が亡くなった」と姉から聞かされた黄さんは、大きなショックを受け、悲しみのあまり冷静な思考を失っていた。そのため、その時は、泣く泣く長男だけを連れて退院した。

しかし、よく考えれば、下の子の死を自分の目で確認していない。そのことがずっと心残りだったという。

それから、長い年月が経った。母親として一人の男の子を懸命に育て上げ、ようやく長男の大学受験が終わった後、黄さんは息子に対して、胸の底に重く沈んでいた言葉を告げた。「あなたには、双子の弟がいる」。以来、黄さんは、あの時の真相を探し求める決意をした。

昨年5月、当時出産をした衛生院で調査を行った結果、亡くなったはずの息子の死亡証明がないことがわかった。

さらに黄さんは、自身が退院した翌日に「黄秀娟の子」と登録された男の新生児が「退院」したことも突き止めた。どのような偶然か、その男児には「分娩時窒息」の病歴まであった。自身の出産時の状況とまさに一致すると感じた黄さんは、一つの確信を得た。「下の子は死んでいない。誘拐されたのだ」と。

それから黄さんはさっそく、この件について現地の関連部門に告発し、警察にも通報した。しかし、1年経っても事件の進展はなかった。

そこで今年3月、黄さんは病院の責任を追及をする訴訟を起こしたが、訴えは棄却された。

11月30日、八方塞がりの黄さんは「公安部門は立件してくれず、裁判所も提訴を却下した。今、私はどうしたらいいかわからない」とメディアに助けを求めた。

この事件は、ネット上で注目を集めた。当局のあまりの不作為に対して「関連部門は何をしてるんだ!」など、市民の怒りと非難が殺到している。

「この顔に似てると思ったら、どうか連絡してほしい」。黄秀娟さんは、双子の「兄」の顔写真を手に持ってカメラに向かい、全国の人々へ協力を呼びかけた。

今では立派な若者に成長したその「兄」は、20数年泣き悲しみ、叫び続けた母親によく似た、まさに親子の顔であった。

この顔にそっくりな「弟」が、この中国のどこかに、必ずいるのである。

 

(「この顔に似てると思ったら、連絡してほしい」。双子の「兄」の顔写真を手に持って、協力を呼びかける母親の黄秀娟さん)

子供を売りわたす「中国の病院」

近年、中国では、医者が病院ぐるみで人身売買業者と結託し、赤ちゃんを売りわたす事件が頻発している。

なかでも最も有名な事件は、2014年の産婦人科医師・張淑俠による乳児誘拐・売買事件だ。張は自身が関与した6件の児童誘拐・人身売買事件のなかで、7人の乳児を売り、1人を死亡させている。その後、張は執行猶予つきの死刑判決を受けている。

2017年9月、河南省信陽市で新生児の人身売買事件が注目された。5人の新生児が救出され、容疑者9人が逮捕された。この赤ちゃんの人身売買集団は、まさに病院と結託し、生まれたばかりの新生児を病院から高値で取引していたという。

先月にも、湖北省の病院で、顧客に「偽の出生証明書」を売ることで人身売買に関与した疑いにより、院長ら6人が警察に拘束される事件が起きた。

逮捕された院長(女医)は、複数の業者と結託してSNSで顧客を集め、長期にわたって、偽の出生証明書やワクチン接種ノートを販売し、赤ちゃんの人身売買にも加担していたという。

例えば、どこかで誘拐され人身売買業者によって「売り物」にされた子供を購入した場合、その子の出生証明書やワクチン接種ノートをこの病院で偽造してもらえば、役所へ「実子」としてスムーズに登録できるのだ。

入院、出産、退院までの情報を偽造し、偽の出生証明書を発行するまでの「値段」は日本円にして約200万円(9.6万元)という。このお金を、院長や分娩室の職員らで分け合っていた。

病院や公的機関までが結託

中国で、明るみになっているケースは年間で20万人とも、あるいはそれ以上とも言われる失踪児童。中国の民間では、新生児から未成年者まで「年間100万人の子供が失踪している」とも言われている。

そうしたなかで、中国の人身売買の闇は、こうした病院や公的機関までが結託していることもあり、その全貌解明と犯罪の撲滅には全く至っていない。

なお、ここで言及した「公的機関との結託」とは、何か。その一例を挙げれば、中国には無数の監視カメラがついていながら、警察は全くそれらを失踪児童の捜索に活用せず、交通違反の罰金稼ぎにばかり躍起になっている実態がある。

警察に通報しても全く捜査が進展しなかったのは、まさに黄秀娟さんの場合もそうであった。

実際、中国において、失踪した子供が警察の捜索によって無事に発見されるケースは、皆無と言ってよいほど少ないのだ。警察に不作為があるとすれば、それが直接か間接かを問わず、大権力をもつこの公的組織も誘拐の共犯者にちかい。

さらに記憶に新しいところでは、昨年10月に学校から失踪した高校生・胡鑫宇さんが今年1月28日、学校近くの山林で、変死体となって発見された「胡鑫宇事件」がある。

その失踪から発見時の状態に至るまで、不審な点があまりにも多かったにもかかわらず、地元警察はわざわざ記者会見を開き、早急な幕引きを図るように「本人の意思による自殺」と結論づけた。

「靴のひも」で首を吊っていた、と警察は言う。しかし胡鑫宇さんは長身で、体重70キロはあった。

鉄の鎖の女性」事件もある。人身売買されてきた少女を監禁し、すさまじい虐待の末、8人あるいはそれ以上の子供を産ませた。失踪時、13歳であったとみられる少女は、やつれ果てた中年女性となり、精神に異常をきたしていた。

当時はまだ「一人っ子政策」中であったため、多産は許されなかったはずだ。しかし、地元役人たちは、それを「目こぼし」した。もちろん賄賂にするような金銭はない。そのため「夫」は、賄賂代わりに、自分の妻を地元役人たちに「貸した」といわれている。

地元役人たちは、それが人身売買されてきた女性であることを、もちろん知っている。今の中国において、悪事の裏側に「公的機関との結託」があることは、むしろ通常の風景になっていると言わざるを得ない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。