アングル:チェコなど旧共産圏、ロシアに代わりアフリカへの武器供給国に

2023/11/19
更新: 2023/11/19

Michael Kahn Anna Koper

[プラハ/ワルシャワ 15日 ロイター] – 中欧の防衛関連企業と政府当局者によれば、兵器や軍装備品、関連サービスの輸出を拡大するため、防衛関連各社が新たな契約交渉を進めているという。相手は、ロシアに代わる調達先を探しているアフリカ諸国だ。

たとえばチェコは、現在では西側の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の一員だが、チェコスロバキアの一部だった時期には、旧ソ連などで構成されたワルシャワ条約機構に加盟していた。共産圏だった頃にアフリカ諸国に対して武器の安定供給を行った実績があったため、関連システムのメンテナンスや改良はお手のものだ。

「アフリカ諸国は最高の新規市場だ。いまだに旧ソ連時代の軍備を使用しているが、今は西側のテクノロジーを取り入れたいと考えている」。チェコの防衛関連業界団体である防衛・安全保障産業協会で会長兼ディレクターを務めるジリ・ヒネック氏はロイターの取材に対し、そう語った。

「『ソ連製品の西洋化』と私たちは呼んでいる」

チェコの航空機メーカー、アエロ・ボドホディーがその一例だ。フィリップ・クルストルンク営業担当執行副社長によれば、練習・軽攻撃機「L-39NG」の売却契約、さらには旧型機の更新についても新規顧客と交渉を進めているという。

「新規の潜在顧客からの関心が高まっている。彼らはロシア製・中国製の軍備を廃棄し、西側の代替品に入れ替えることを模索している」とクルストルンク氏は言う。交渉の相手国についての詳細は明らかにしなかった。

チェコは2022年、約3200万ユーロ(52億2800万円)相当の弾薬、銃、軍用機などの軍需品をサハラ砂漠以南のアフリカ10カ国に輸出した。これらアフリカ諸国の多くは、西側が使用するものとは規格や口径が異なる旧ソ連時代の兵器に依存している。輸出額は、わずか200万ユーロ未満だった2011年に比べて大幅に増えた。

<ウクライナ侵攻による「隙」>

ロイターでは、チェコとポーランドの防衛関連企業、政府当局者6人ほどに取材した。その説明によれば、ロシアがウクライナ侵攻に気を取られている隙に、アフリカ軍需市場でのシェア拡大に向け新たな攻勢を仕掛けたという。

各社とも競争上の理由から、売り込みの具体的な内容やターゲットとする国についての詳細はほとんど明らかにしなかったが、交渉中の取引には銃、弾薬その他の装備やサービスが含まれているという。

防衛・民生品製造の未公開企業、チェコスロバク・グループ(CSG)はチェコ最大の防衛関連企業だ。同社は旧ソ連時代の規格を採用した装甲車両の保守・改修能力を備えており、アフリカでのビジネス獲得に役立っているという。

CSGの広報担当者アンドレイ・シルテク氏はロイターに対し、「当社は東側が開発した陸上軍事システムの保守・改修において傑出した能力を持っており、アフリカの顧客から見れば、ロシアの調達先に依存する必要がなくなる」と語った。「すでにアフリカでの多くのビジネスでこの能力を活用してきた」

ストックホルム国際平和研究所によると、ロシアは2018-22年の5年間で、サハラ砂漠以南のアフリカにおいて中国を抜いて最大の武器輸出国となり、市場シェアは26%に上昇した。

同研究所で武器供給分野における上級研究員を務めるピエテル・ベゼマン氏によれば、ウクライナ侵攻開始以降の最近のアフリカ向け輸出についてはデータ処理が完了していないものの、信頼性に対する懸念から、一部の国がロシア以外の調達先確保を急ぐ可能性があるという。

「チェコの防衛関連業界は旧ソ連製兵器に関する専門能力を持っており、アフリカ諸国への装備や部品の輸出、各国が使用する兵器の整備において有利になるかもしれない」とベゼマン氏は語る。

ポーランドの国営企業PGZ傘下の数十社は、兵器や銃弾、装甲兵員輸送車、無人機システムその他の装備を製造している。PGZのセバスチアン・シェワレク最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、同社はこの1年間、アフリカ市場開拓に向けて売り込みを強化してきたと語った。

無人機やミサイルシステムなどを製造するポーランドの軍事技術企業WBグループも、この1年間、自社の得意分野に対しアフリカの潜在顧客からの注目が高まっていると感じている。

WBグループの広報担当者レミギウス・ウィルク氏は「先日もポーランドで開催された兵器見本市に参加したが、当社のブースには、この見本市を初めて訪れたとおぼしきアフリカからの視察団が数多く訪れた」と話す。

「ある市場で既存のプレーヤーが姿を消したり、存在感が低下すれば、他のプレーヤーには必ず有利に働く」

<貿易使節団>

アフリカへの進出強化を裏付けるように、今月初めにはチェコの貿易使節団がエチオピア、ケニア、ガーナ、コートジボワールを訪れた。チェコのフィアラ首相によれば、訪問の主な目的は防衛関連産業の商機拡大だという。

使節団に参加したチェコのポジャール国家安全保障顧問によると、この訪問を契機として交渉が始まった防衛関連取引の規模は数十億コルナ相当であり、エチオピアと協議を進めている軍用機の近代化や旧ソ連時代の技術の更新もその一例だという。

ポジャール氏はロイターに対し「私たちが力を注いでいるのは、アフリカ諸国が何よりも求め、必要としていることに耳を傾けることにより、アフリカにおける以前からのパートナーとの関係を再開、強化することだ」と語った。

チェコ政府の特使として複数回にわたり対アフリカビジネス使節団の団長を務めたコペクニー元防衛副大臣は、新たな防衛関連取引を促進するもう1つの策として、アフリカ諸国の指導者を首都プラハに招待することを挙げた。

チェコ語を話すモザンビークのニュシ大統領もその1人だ。同大統領は8月にチェコを訪れたが、コペクニー氏によれば、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国の指導者によるプラハ訪問は20年以上ぶりだったという。

「こうした活動の一部は、防衛関連産業による協力にも支えられている。これまでの官民による共同の取り組みにおいても欠かせない部分だったからだ」とコペクニー氏は語った。

チェコの人口は1050万人。長年にわたり兵器生産に関しては国の規模に不釣り合いな競争力を誇っており、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始以来、ウクライナに対する弾薬や装備、その他の兵器の供給においても先頭に立ってきた。

ウクライナ向け供給に力を入れることでチェコ企業は生産を強化し、供給ラインを拡大しており、評価が高まっている。そう話すのは、チェコを拠点に活動するフリーの防衛アナリスト、ルーカス・ビジングル氏だ。

ビジングル氏は「チェコの軍需産業はアフリカ諸国の一部に向けた営業努力を強化しつつある。これらの国は今も旧ソ連式の装備を使っているが、武器調達先としてのロシアには問題が多いと感じ始めているからだ」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters