中国では今年8月末から9月にかけて、各地で呼び方は異なるが、その症状からして「新型コロナ」とみられる感染症が再燃し、小児科をはじめとする多くの病院が真夜中まで大混雑している。
そのようななか「バットウーマン(こうもり女)」の異名をもつ、中国武漢ウイルス研究所の著名研究者・石正麗氏に関する話題が、再び注目されている。
なぜ「パンデミックが起きる」と警告したのか?
注目の理由は、今年7月に英文の学術誌に掲載されたある論文のなかで、石氏が「ほぼ断定できることだが、将来、コロナウイルスによるパンデミックが再び起きるだろう」と警告していたことだ。
石正麗氏は、その論文のなかで「40種類のコロナウイルスがヒトに感染するかどうかについて、評価を行った。その結果、半数がハイリスクであった。さらに、そのうちの6種類は、ヒトに感染して病気を引き起せるものだった」と指摘した。
中国当局の支配下にある香港のメディア「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」の9月24日付は、今年7月に英文学術誌「Emerging Microbes & Infections」に掲載した石氏とその研究チームによる論文について報じた。
しかし、なぜ論文発表から2カ月も経った9月に、これを報道するのか。
この疑問について、時事評論家の唐靖遠氏は「今後やってくるであろう新たなパンデミックのときに責任追及されないよう、中国当局は、ここで率先して警告を発するよう判断した。そうすることで、責任回避を図るのが狙いではないか」と分析している。
今月17日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「新型コロナの発生源を調べるための調査チームを、再度派遣する用意がある」として、中国側に対し、疫病に関連する情報の完全な提供を求めている。
これについて、唐靖遠氏は「WHOの発表と香港紙の報道は、タイミングが一致している。WHOが、何かを知っている可能性がある」と分析する。
昨今、国際社会では、中国共産党上層部の人事に関する「異変」など、習近平政権の今後の動向に衆目が集まっている。
そのようななか、中国当局がこのタイミングで、あえて人々の不安をかき立てる「ウイルス警告」を自ら発した理由が何であるか、その真相はまだ明らかではない。しかし、中国当局のいかなる行為にも「表に出さない目的」があることは確かである。
より危険な「新ウイルス株」を獲得
石正麗氏の研究チームは、このほど発表した新型コロナウイルスに関する新たな研究報告のなかで「より危険な、新たなコロナウイルス株SMA1901を獲得した」と主張した。
米国のウイルス学の専門家で、米陸軍研究所のウイルス学科実験室主任も歴任した林暁旭博士は、次のようにいう。
「彼女(石氏)がマウス実験で得られた新たなコロナウイルス株は、7日以内の致死率が約90%というほど、非常に危険なものである。老いたマウスや抵抗力の弱いマウスにとっては、特にそうだ」
その一方で、林博士は「新型コロナ起源に対する追及は今も続いている。武漢ウイルス研究所から漏洩した可能性が非常に高い、と国際社会が普遍的に考えているなかにあっても、石氏の研究チームはずっと(ウイルスの)機能獲得研究を行っている。彼女(石氏)の目的は、いったい何なのか?」と疑問を呈した。
バットウーマンの「研究」は、何のためか?
つまり石氏の研究チームは、新型コロナ起源を追求する世界中の目が「ここは最も怪しい」と見ている武漢ウイルス研究所で、病原体の毒性や感染力を増強する研究(機能獲得研究)を継続しているのである。
機能獲得研究とは、肯定的に見れば「予防ワクチンや治療薬の開発」に資する研究である。しかし、もう一つの面においては、そこで培養したウイルスを「生物兵器」として軍事転用する可能性も否定できないのだ。
米NBCニュースは、2021年の時点から「石正麗氏が、少なくとも2人の中国軍科学者と協力してコロナウイルスを研究していたことを証明する証拠を掴んだ」と報道している。
その石正麗氏といえば先月、中国で「科学者の最高栄誉称号」の候補者に上がるなど、輝かしい「昇進の機運」が伺われる。
これは、彼女が新たなウイルスを研究開発したことを高く評価し、中国当局が彼女を「功労者」とみなしているからではないか、と一部のアナリストは分析している。
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