【寄稿】中国経済崩壊で現実味帯びる台湾侵攻 バイデン氏の宥和政策はただの「時間稼ぎ」か

2023/09/20
更新: 2023/11/14

失敗続きのG20サミット

9月9日から10日にかけてインドの首都ニューデリーで開かれたG20サミットは、開催前から成功が危ぶまれていた。というのも中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領が事前に欠席を表明していたからだ。

もっとも、この3年、G20サミットは成功と言えるほどの成果を生み出していない。2020年にサウジアラビアのリヤドで開かれたサミットは、コロナ騒動でオンラインのみの会合だった。

2021年10月末のローマサミットは、世界経済や気候変動ばかりが論ぜられ、同年8月に米軍がアフガニスタンから完全撤退し、同年9月にはウクライナ国境にロシア軍が集結していた事が報ぜられていたにもかかわらず、安全保障が議題にならなかった。いわば、その結果としてロシアのウクライナ侵攻の阻止に失敗したといえよう。

2022年、インドネシアのバリ島で開かれたサミットでは、欧米側とロシア側の対立が表面化し、首脳宣言も両論併記にならざるを得なかった。

こうして振り返ってみると、成功した最後のG20サミットは2019年に日本で開かれた大阪サミットであることが明らかになろう。今は亡き安倍晋三氏が当時の総理として会合を主宰し、米大統領としてトランプ氏、中国の習主席、ロシアのプーチン大統領、フランスのマクロン大統領、インドのモディ首相、サウジアラビアのムハンマド王太子等々が一堂に会し、大阪城を背景に記念写真を撮った頃が、世界が平和であった最後の日々であったと言ってもいいのかもしれない。

屈辱のバイデン大統領

インドでのG20サミットは首脳宣言に「ロシアによるウクライナ侵略」という文言が入らず、ウクライナも「誇るべきものは何もない」と声明を出したことで、失敗という烙印が押された。

米国側としては、バイデン大統領が熱望していた習近平主席との会談が実現しなかったのが一番痛かった。バイデン氏はサミット閉幕の10日に中国の李強首相と話をしたことでお茶を濁さざるを得なかった。

この10日に新華社通信は「習主席は、8日、人民解放軍を視察し『戦争準備の質とレベルの向上』を指示した。」旨を報じた。バイデン大統領は横面を張られたようなものだ。8日に軍を視察したのなら、その後、インドに向かいサミットに参加できたはずである。しかも、その動静は李強首相と話した当日に報ぜられたのだ。

中国の意図は、バイデン大統領は習主席に会う必要があるが、習主席はバイデン大統領に会う必要がない、ということを世界に印象付けることだろう。

確かに、バイデン大統領は習主席との直接会談を模索してきた。だが習主席は応じようとしていない。これは何故なのか?バイデン大統領は習主席に直接会って、何を申し入れようとしているのか?

中国の経済崩壊と台湾侵攻

李強首相と話した後の記者会見で、バイデン大統領は「中国経済の減速が中国による台湾侵攻を惹き起こすとは思わない」と述べている。実はこの発言には、伏線がある。8月10日にバイデン大統領は米ユタ州での演説で、中国経済の減速について「時限爆弾だ」「悪い人間が問題を抱えていると悪いことをする」として、中国経済の減速が習主席に台湾侵攻を決断させる危険性を示唆していたのだ。

ところが、1か月後、バイデン大統領は自らの見解を否定して見せた。この変化は何を物語るのだろうか?

中国の経済減速が台湾侵攻に直結するとの憶測は、今年前半から米国などで囁かれていた。つまり中国は経済成長により軍事費の増額を賄ってきた。その成長が失われれば、もはや軍事費の増額は望めないから、今が軍事力の頂点であることになる。従って今、台湾に侵攻しなければ台湾併合の機会は永久に失われることになる、という理屈である。

この憶測によれば、習近平指導部は中国の経済崩壊を目の当たりにして、台湾侵攻を検討している訳だ。この憶測が俄かに現実味を帯びたのは、3月に中国の外相に就任した秦剛氏の解任が7月5日に発表されてからである。

秦剛氏は3月まで駐米大使を務めていたが、異例の抜擢で外相に栄転した人物だ。2月に中国の偵察気球が米国本土上空で撃墜され、米中関係が一気に悪化した直後の人事異動だから、習政権が対米関係を好転させる意図で秦剛氏を抜擢したとの観測が一般的だった。

ところが6月にブリンケン米国務長官が訪中した後から消息不明となり、7月に解任が発表された。8月には戦略ミサイル軍司令官と同軍政治委員の更迭が発表された。戦略ミサイル軍はICBMを管理しており、互いに誤射がないように米国と緊密に連絡を取っている部隊である。つまりこの二人の幹部は親米派と見られる。今月には中国国防相が解任されたとの報道が流れた。この李尚福氏も3月に国防相に就任した親米的な人物である。

つまり習政権は3月の時点では親米路線であったのに、それ以後、反米路線に転じたと見ることが出来よう。

米国の焦りと説得工作

4月頃から中国の経済成長の鈍化が表面化し、中国経済崩壊論まで取り沙汰されていた。中国共産党は本来、マルクス経済学を信奉しているから、資本主義経済崩壊説には肯定的である。さらには資本主義の最終段階は、帝国主義戦争に至り、その結果、共産主義社会が実現するというレーニン主義も中国共産党では、健在だ。

習近平主席が、中国の経済崩壊を目の当たりにして、こうしたマルクス・レーニン主義の反米強硬派に耳を貸すようになったとしても、不思議はなかろう。

米国としては、ウクライナに武器を供与しているため、台湾に十分な武器を供与する余裕がない。つまり、今、台湾に中国が侵攻しても台湾を十分に支援できないのだ。

従って米国は中国の台湾侵攻を何としても思いとどまらせたい。何と言って説得すればいいのだろうか?

それは、中国経済崩壊論を否定することである。つまり、米国が手助けをすれば、中国経済は今後も成長を続けるから、今が中国経済と中国軍事の頂点ではない。だから慌てて台湾に侵攻する必要はないと言って説得する作戦であろう。

バイデン大統領が、習主席と対面で会談したがるのはこのためではないか?だが、この説得工作には問題が二つある。一つは、習主席がバイデン氏の言葉を信じるか、どうか。もう一つは、仮に信じたとしても、台湾侵攻の時期が後ろにずれるだけで、侵攻そのものを思い止まらせることにならない点である。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。