このほど、ロシアによる占領が続くウクライナ東部ドネツィク州マリウポリの劇場の廃墟で、ロシア民謡「カチューシャ」を歌う中国人オペラ歌手・王芳氏の動画が物議を醸している。
今は廃墟となったこの劇場は、600人以上のウクライナ市民がロシア軍の攻撃によって殺された場所でもある。そのため、中国人歌手の軽率な行動を知ったウクライナ市民は「受け入れられない」と憤慨している。
ウクライナのニコレンコ外務報道官は8日、自身のフェイスブックアカウントで「この動画は、完全な倫理的堕落の産物だ」と形容したうえで、マリウポリを訪れた「中国(人)視察団」の目的と渡航手段に関して、中国政府に対して説明を求めた。
ニコレンコ報道官は、あきれ顔で彼らを「中国視察団」と呼んでいるが、もちろんこれは中国政府が正式に送った訪問団や視察団ということではなく、ただのビザ無し旅行ツアーのようなものらしい。
つまり、「この中国人たちは(たとえロシア占領下であっても)ウクライナ政府が発行する正規のビザがないのに、どうやってマリウポリのその地へ行ったのか。不法入国ではないか。説明しなさい」ということなのだ。
ニコレンコ報道官はさらに、「彼ら(中国視察団)のマリウポリ訪問は違法である。参加者全員に対し、ウクライナへの渡航禁止措置をとる」と述べた。
(マリウポリの廃墟となった劇場で、ロシア民謡「カチューシャ」を歌う王芳氏)
問題の動画は、王芳氏の夫である周小平氏が8日に公表したものだ。周氏は、自分の妻を「戦地に咲くバラ」と称賛したばかりか、「彼女の歌を聞いた現地の人々(ウクライナの市民)は、さぞ励まされただろう」と述べた。
周小平氏は、五毛党(ネットで中国政府に有利な書き込みをするアルバイト)代表の若手ネット作家であるとともに、中国の国政に助言する「全国政治協商会議(政協)」委員でもある。
周氏は今年3月に開かれた両会(全人代と政協会議)において、小粉紅や五毛党たちの血を沸かすような「台湾独立支持者の粛清」を提案した。また最近も、日本の処理水海洋放出をめぐり「福島を『核の島(中国語:辐岛)』へ名称変更せよ」と提案している。
カナダ在住の著名な中国民主活動家の盛雪氏は、このたびの王芳氏の行為を、以下のように批判した。
「中国人オペラ歌手である王芳氏の行為は、間違いなく多くの人から恨みを買うだろう。(世界中の)ほとんどの人たちは、善悪を見分けられる。だから(彼女の歌で)気分を害されたのは、ウクライナ人だけではないはずだ」
「ロシアがウクライナを侵略した事実は、中国でも知らない人はいない。それでも王氏は、ロシア側に立つ中国政府に同調することを選んだ。彼女は、強大な祖国を後ろ盾にすれば世界中どこでも粗野なふるまいができる、とでも考えたのだろうか」
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。