<森永康平氏が語る>制御失い不況に突入する中国経済 向かう先は「失われた10年」以上の窮境か

2023/09/07
更新: 2023/09/07

経済に手を突っ込んで管理しようとするものなら、一旦歯車が外れて変な方向に動き出すと、より悪化しやすくなる。

中国共産党が長年、経済を思うがままに操作してきたツケがいま回ってきた。硬直した体制でイノベーションが起こらず、自由主義陣営からは締め出される始末。中国の向かう先は「失われた10年」以上の窮境か。気鋭のエコノミスト・森永康平氏が語る。<第二弾>

ーー中国は7月に若年失業率の公表を取りやめた。「失われた10年」に突入しつつあるのか。

かなり厳しい状況だと思う。中国は社会主義国であり、当局による経済活動への規制は厳しく、かなり手を突っ込んでいる。今までは当局がなんとかコントロールしてきたと思うが、今はその歪みが少しずつ表面化しているようだ。日本の「失われた10年」と同じようになるとの意見もあるが、むしろ日本よりも酷いことになる可能性があるのではないか。

中国は若年失業率の公表を取り止めたが、過去にもコロナ禍の最中にGDPや貿易データを公表しなかったことがある。元々共産主義国だから、と言えば話は単純だが、分析する側としては何を信頼していいのか分からなくなる。コロナが流行り出した当初は、アナリストたちは情報が入手できないため、経済がどうなっていくのか予測できずに困っていた。

ーー中国当局による情報統制と情報操作の問題が叫ばれて久しい。

中国経済の実態は見かけ以上に悲惨だと思う。ある程度統計を改ざんして景気を粉飾するのが前提であれば、今更悪いデータを出す意味はない。すなわち、中国当局にとっては、正しい数値を出すか、または実態よりも良い数値を出すかの二択だ。中国当局が実態より悪い数値を出していたとは考えづらいので、中国経済の現状としては、やはり皆さんが知っている以上に悪いと考えられる。

ーー経済状況が日本以上に悪くなるのはなぜか。

中国経済は市場原理を完全に取り入れたわけではなく、ある程度国が主導権を握っており、政府の都合のいいように操作している。それがうまくいっている間は一定の良い結果を出せるかもしれないが、いざ雲行きが怪しくなると、コントロールできなくなってしまう。

中国の一人っ子政策が良い例だ。本来であれば、子どもを作ることは各個人の自由だ。しかし中国当局は一人っ子政策を実施したため歪みが生じてしまい、現在では少子高齢化が著しく進んでしまった。計画経済は理論上成り立つかもしれないが、現実社会では計画通り経済をコントロールすることは至難の業だ。

ーーアダム・スミスは「神の見えざる手」を主張していた。

やはり一度人工的に経済を操作してしまうと、その後も様々な問題に付き纏われる。計画経済を経験した国は経済を自由化しても、指導者や体制が大幅に変わらない限り、またどこかのタイミングで元に戻ってしまう。経済に手を突っ込んで管理しようとするものなら、一旦歯車が外れて変な方向に動き出すと、より悪化しやすくなる。

ーー以前SBI証券にお勤めの際、東南アジアを担当されていた。共産主義から資本主義への転換を経験した国も多いが、どのように転換していったのか。

そのような意味ではシンガポールが良い例だと思う。シンガポールは一見自由な資本主義国家のようだが、実態はそうではない。

結局のところ、国がどこまでコントロールするかという按配の問題だと思う。ベトナムはかつてベトナム戦争時にハノイとホーチミンとを中心にそれぞれ社会主義と自由主義の両陣営に分かれて内戦となったが、現在は統一国家としてバランス良く発展している。

いっぽうの中国は政府のコントロールが強すぎる。インターネット産業が良い例だ。中国当局は当初、インターネット産業がここまで発達するとは思っていなかったため、政府の規制が少なく、民間企業は発展することができた。しかしあまりに発展しすぎたため当局は不安を感じ、ジャック・マーのような大物はかえって目の上のたんこぶとなった。

中国で起きていたのは、政府の規制が強すぎてイノベーションが起きないことと逆の現象だ。最初は比較的緩やかな環境だったからこそ、アリババのような企業が成長することができた。逆に今はネットの重要度が高い時代になったため、当局の監視は厳しくなり、かえって民間企業の発展は見込めなくなった。

ーー日本はどうか。

今日の日本は、何もかも自由化するという、中国とむしろ逆の問題を抱えている。電力会社が民営化し上場すると、電気代は高騰し、人々の生活は苦しくなるばかり。結局のところ、生活インフラに関する部分は政府は保護し、その他の分野は市場で競争させ、イノベーションを起こす。直近の100年ほどの歴史を振り返れば、これは定石と言えよう。

ーーウクライナ戦争によって人々の経済に対する意識は変わったか。

コロナ禍とウクライナ戦争は、経済の流れを大きく変えることとなった。西側諸国は中国共産党の脅威に気付き、半導体産業に制限を設けるなど、ブロック経済の再来を彷彿とさせる動きを見せている。

どの産業を市場に晒すかは時代の流れに合わせて変化すると思う。必ずしも何パーセントは国が管理しなければならないと決まっているわけではなく、時代の流れに応じて比率も適宜動いていくと思う。

ーーサプライチェーンの重要性も盛んに叫ばれている。

今はまさに経済安全保障が重要視され、国がより多く管理すべきとの考え方が広がっている。逆に10年ほどまでは皆が小さな政府を志向しており、グローバルで競争したらいいと考えていた。

もちろん波があり、歴史は繰り返している。単純に景気が波を打ってるだけかもしれないが、今は小さな政府から大きな政府に移行している段階だと思う。そして、さらに時間が経てばまた小さな政府志向になっていくだろう。

世の中の流れに合わせて調整していくのが正しい政治のあり方だ。中国が失敗したのは、世界の流れを意識しないで、ひたすら政府にとって都合の悪いところに手を入れてコントロールしようとしすぎたことが原因ではないか。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。