台湾では、今年6月ごろから与党である民進党内で元職員によるセクハラ被害の訴えが相次いだことがきっかけで、台湾版「#MeToo」(ミートゥー)運動が広がっている。
そこで、もし中国でもこのような「#MeToo」運動が起きたらどうなるのか、とする話題がネットで議論されている。確かなことは、道徳も人間性も崩壊した今の中国社会において、女性が性暴力の被害者になりやすいだけでなく、時として「性」は権力や金銭と取引をするための手段にもなっていることだ。
中国社会の「残酷な現実」
まずは、ある台湾の女性学者の経歴を紹介したい。これは本人が告発した実話である。
北京の清華大学で「科技・哲学」の博士課程を修めた台湾出身の研究者・龍縁之(龙缘之)さんは2018年4月、博士論文の最終校正という重要な段階で、指導教員である劉兵という教授から「論文を指導する」という理由で自宅に呼び出された。
そこで彼女は、劉兵からセクハラを受けた。彼女が激しく抵抗したため、最終的にレイプされることは免れたが、教授の家を後にした彼女はパニックに陥りながらも「今後のこと」について真剣に考えざるを得なかった。これから博士論文を提出するにあたって、まだまだ多くの審査過程がある。どれも指導教授を通さなければ、卒業や学位を取得することは不可能なのだ。
「なんとしても博士号を取って卒業したい。この年を逃せば、これ以上の費用を家が負担することはできない」。その時、そう考えた龍縁之さんは、不本意ながら沈黙することを選ぶしかなかった。
実のところ、この「劉兵教授」は、中国でも有名なフェミニストと称される学者であった。「フェミニズム」や「セクハラ」などのキーワードでネット検索をかければ、彼の多くの著作やインタビューコンテンツが表示されるという。
しかし、その劉兵には、まとこに卑劣な「もう一つの顔」があった。女子学生への性加害をふくむアカハラ(アカデミックハラスメント)である。自ら辛い体験をした龍縁之さんは、こう訴えた。
「中国で博士課程を修め、博士の学位を得るにあたって、指導教員の権力の大きさは、おそらく他国では想像できないほどのものだろう。そのうえ中国は人治社会であるため、コネ(人間関係)がなければ何もできない」
「劉教授は(学部に)在学中の学生を食い物にしていただけでなく、大学院で修士や博士の取得を希望する多くの学生もその被害を受けた。劉教授から性的被害を受けた女子学生の保護者が教授を告発するケースは後を絶たなかったが、上層部による庇い合いで、結局この件はうやむやのうちに葬られた。これが中国の大学で学ぶ女子学生の置かれている環境であり、中国社会の現実だ」
著名な在米経済学者が語る「中国の大学の闇」
米国へ亡命した中国人経済学者でジャーナリストの何清漣氏(女性)は、米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、次のように語っている。
「中国で修士号や博士号を取得しようとする女性は、時として、獣のような指導教員によるセクハラや性的暴力に直面しなければならない。彼女たちは学業を完成させるため、多くの場合、屈服せざるを得ないのだ」
中国の著名ポータルサイトによる調査の結果、芸術系大学で学ぶ女子学生100人のうち、4割以上が「教員からのセクハラや性的暴力を受けたことがある」と回答していた。
2009年8月、中国の芸術系大学で唯一国家重点大学に指定されている中央音楽学院(北京)の70代の著名な教授は、同学院で博士号取得を目指す女子学生と性交渉を持った。さらにこの女子学生から、博士号取得するにあたっての「謝礼金」として、10万元(約200万円)を受け取ったことを自ら明かしている。
中国国内で最高峰の外国語教育機関・北京外国語大学で修士課程を修めた女子学生は2009年、指導教員の何其莘氏が、論文審査権を利用して彼女に性的暴行を加えたことを暴露した。
中国の代表的な法学教育および法務従事者の養成機関である中国政法大学(北京)の程春明副教授には、自身と「曖昧な関係」にあった女性がいた。ところが、その女性の恋人である男によって、2008年に程副教授が殺害される事件が起きている。
はじめに述べた台湾の研究者・龍縁之さんの親しい友人(男子学生)も、中国の指導教員による女子学生への性加害の影響で精神的に病んだという。この「獣欲」教師は、この男子学生に対して、なんと「自分と関係を持つよう、恋人の女性を捧げさせていた」という。この男子学生は悩み、ついに精神分裂症を発症するに至った。
米ニュースサイト「博訊」は以前、北京大学の副校長による友人への警告「あなたの娘に、中国で博士課程を修めさせるな」について、報道したことがある。
それによると、この北大副校長は「中国の博士課程のほとんどの指導教員は、博士号を取得したい女子学生の弱みにつけこんで、彼女たちを性の餌食にする。北京大学の教授が知見する範囲内では、全国の博士課程に学ぶ女子学生のうち、70%以上が指導教員から性的虐待を受けているという統計まである」と明かしたという。
「70%以上が指導教員から性的虐待を受けている」について確認する資料はないが、そのような証言があったことは事実と見てよい。
女子学生が反抗しない理由
「なぜ女子学生は反抗しないのか」。この問題に触れるにあたっては、女子学生の人権が十分に考慮されなければならない。その原因と女性側がとる行動に関して、関連報道などをまとめると以下のようなパターンがある。
なかには論文や就職、生活費などを教授に援助してもらう代わりに、指導教員からの性的要求を受け入れる学生も確かにいる。要するに、双方ともこれを一種の取引として受け入れているケースだ。
これとは別に、教員からのセクハラなど快く思っていないが、告発するための証拠もなければ、告発したところで逆に名誉毀損で訴えられて自身が深刻な損失を被るリスクを考え、我慢を強いられるケースもある。この場合、被害女性が声を上げなければ、加害者である教授は他の女子学生にもその黒い手を伸ばしていくことになる。
ごく少数派だが、なかには勇敢に名乗りを上げて、教員の卑劣な行為を暴くケースもある。しかしこの場合、権力に挑戦する側は大きな代償を強いられることになる。「スキャンダルは学校のイメージを悪くする。これ以上、事を大きくしないように」と学校側からの圧力もかかるだろう。
教員側も示談を持ち出す可能性がある。そこで女性が示談を受け入れない場合、「それならば道連れだ。お前にも、ろくな人生を送らせてやらないぞ」と脅迫に変わる場合もある。
自分の権利を守ろうと立ち向かう人はほんのわずかで、ほとんどの場合、被害者側の女性は妥協を強いられる。ただし、ごく少数のケースではあるが、残念ながら「自殺」を選択する人もいる。
中国官界で横行する「権色交易」
「権色交易」とは、あからさまに言えば「権力とセックスの取引」のことだ。
女性が積極的に自身の美貌や肉体を利用して権力者に近づき、自分が望む利益を手に入れる。あるいは受動的に「権力」に抱かれる代わりに、何らかの取引をするケースは、残念ながら今の中国では珍しくない。
1990年代、政権を握った江沢民は汚職と淫乱による統治を行い、人間の貪欲と邪念を野放しにした。いまや中国の官界では「権色交易(企業や商人が利益のため、権力者へ賄賂として美女の特別サービスを提供する。その代わり、各種の便宜を図ってもらう)」が横行し、中国社会は道徳も人間性も崩壊してしまった。
こうした政界官界の腐敗堕落は、中国の経済界から教育界にまで、絶望的なほど深く浸透している。
上述した中国の大学教授による女子学生へのセクハラ、アカハラ(アカデミックハラスメント)、性加害などは、重篤な多臓器不全にかかった現代中国がかかえる「氷山の一角の一つ」に過ぎないのかもしれない。
「女性が中国で生きることの難しさ」とは、これを表題にすること自体、はばかられるようなタイトルである。伝統中国のもつ輝かしい文明からすれば、今日の中国の惨憺たるありさまは、中国史上、最も恥ずべき状態にあると言わざるを得ない。
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