富山県の入善町海上風力発電プロジェクトでは、中国の再生可能エネルギー大手、明陽智慧能源集団(明陽智能)の発電システムが採用され、設置工事が進んでいる。日本の保守派議員や専門家は、発電設備から日本の海洋環境情報が中国軍に伝わったり、電力網が恣意的に停止されたりといった安全保障上の問題が生じかねないと指摘する。
3月末、貨物船に載せられた洋上風力発電ユニットが天津港から出荷したーー。中国の国営新華社通信は、風力発電で中国第二位の明陽智能が、日本の洋上風力発電プロジェクトで初めて納入された中国メーカーになったと報じた。
総事業費はおよそ60億円。すでに4月から洋上での建設作業が始まっており、今年後半には竣工し送電網に接続される。発電した電力は全量「再エネ固定価格買取制度(FIT)」を活用して北陸電力に売電され、最大出力は一般家庭3600世帯分の電力使用量に相当する。
明陽智能への発注を決定したのは、事業の設計と調達、建設を担う清水建設だ。かたや明陽智能は富山湾でのプロジェクトを契機に日本市場での躍進を狙い、東京に全額出資の子会社を設立。「中国と日本の企業間で海上風力発電技術と経験の交流が深まり、新エネルギー分野での日中協力の模範的存在になる」と担当者は意気込みを語っている。
明陽智能の日本法人はリリースがなく、確認できていない。今回の契約が中国本土か日本法人かを清水建設に問い合わせたが「今回に限らず個別契約の内容は明かすことはできない」との回答だった。
風力発電「ほとんど中国製」
企業などが再エネプロジェクトを推進するいっぽう、広大な敷地面積を必要とし、建設に際し詳細な国土調査が必要となる観点から、日本の安全保障にとってのリスクになりうると指摘する有識者も多い。
青山繁晴参院議員は昨年10月の経済産業委員会で、洋上風力発電について「余りにも懸念点が多過ぎる」と指摘した。
洋上風力発電は、発電事業者が集める風力や風向、海流といった、防衛上の重要データと見なされる機微な情報を取り扱う。青山氏は、風力発電の設備がほとんど中国製であり、これらを海上に設置することで、海洋に関する情報が中国軍に伝わる恐れがあると訴えた。
昨年2月、日経新聞は富山湾のプロジェクトに関する詳報で、「日中双方の企業は安全保障上の懸念にきめ細かく対応する姿勢を示し」、「各種データについて『中国には持ち出さない』としている」と伝えた。
しかし、中国製の洋上風力発電システムは、情報漏洩のリスクがあると、研究論文で指摘されている。2018年に学術誌サイエンスダイレクトに掲載された論文によれば、風力発電などの再生可能エネルギー源が電力供給網に接続されることで、攻撃者がこれらのシステムを悪用して情報を盗む、または電力網を破壊する可能性があるという。
清水建設に、明陽智能の風車を使用することによる上記のような政治的リスクを尋ねた。「当社は経済産業省の指導の下で対応しており、懸念事項は一切ない」との回答だった。
中国共産党は通信技術や環境情報まで、狙いを定めた対象国の幅広いデータをあらゆる手段を駆使して収集していることで知られる。直近の例では、米司法省は今月3日、米海軍所属の中国系米国人の兵士2人を起訴した。沖縄のレーダーシステム電気図面や艦船の運用マニュアル、米海軍の作戦などを中国軍の情報将校に渡していた。
このほか、風車群はミサイルや航空機を捉える自衛隊や在日米軍のレーダー、無線通信の機能を妨害し、悪影響を及ぼす。防衛省が事業者に「お願い」を発出し、設置にあたり事前協議の協力を呼びかけている。
1基あたり百〜数百メートルに及ぶ風車群が設置されることによって、レーダー電波の反射が大きくなる。このため、「自衛隊のレーダーの主な探知目標である航空機やミサイルといった小さい物体からの微弱な反射波は、風車からの反射波に埋もれてしまい、目標の探知や追尾に支障を生じるおそれがある」という。
秋元真利元外務政務官が、風力発電事業者「日本風力開発」から献金を受け取っていた問題で、風力発電システムの設置予定地は青森だったとされる。津軽海峡や陸奥湾は大湊基地はじめ自衛隊施設が点在し、在日米軍と早期警戒システムを備える三沢基地にも程なく近い。民間を装う「ステルス妨害」も否定できない。
「いまの7倍」G7は風力発電の拡大目標掲げる
「メイド・イン・チャイナ」の再エネ事業リスクは風力発電に限らず、太陽光パネル発電でもかねて指摘されてきた。
米軍と海上自衛隊が共同使用する岩国基地の周辺や、福島県西郷村での陸上自衛隊の演習場に近接した土地で、中国政府直属の機関が監督する国有発電会社の100%子会社、上海電力が開発を進めており、地元議員らは調査や規制を訴えている。
外資による再エネ事業の土地利用は「安全保障上好ましくないのではないか」「外資企業が国内法の遵守を約束できるのか」と、今年5月の参院経済産業委員会で平山佐知子議員は岸田文雄首相に迫った。最近では、外資と判断されないよう、代表者を日本人名にしたりして外国人の関与を公表していないという事例もあるなど、巧妙になっているという。
首相は再エネの外資対応について、「長らく取り組みが行われている分野だ」とした上で、重要土地規制法や外為法などを通じて、国土を利用する事業は外資含め「厳格な審査を行なっている」と強調した。
平山氏が引用する姫路大学・平野秀樹特任教授の試算によれば、2021年6月末までで外資系の太陽光発電事業者が占有する日本の土地面積は6万ヘクタールにも及ぶ。これは、JR山手線の内側の面積のおよそ10倍に相当する。
今年の広島G7の気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明には、洋上風力発電と太陽光発電の数値目標が設けられた。洋上風力発電は30年までに7か国合計1.5億キロワット、21年実績のおよそ7倍だ。太陽光は10億キロワット、現状の3倍となった。これまで以上の再エネ関係設備の設置が要求されている。
G7と歩調を合わせ、再生可能エネルギーの導入を進めることは疑いようのない重要性を持つ。いっぽう、それが国家安全保障を損なうようでは本末転倒だ。「理想」とは違う方向へと進むといった勇気ある選択肢も検討すべき時がきている。
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