宇宙できらめく星々。これらは核融合という自然界の奇跡によって生み出されている。ドイツのスタートアップ企業はその神秘を地球上で再現しようと、数百万ユーロの資金を集めて核融合エネルギー装置の開発に着手した。
ミュンヘンの拠点スタートアップ企業プロキシマ・フュージョンは目下、核融合発電所を設計している。同社の5月30日付プレスリリースによれば、2030年代に最初の発電所が計画されている。開業前の準備資金のために700万ユーロ(748万ドル)を調達した。
現在の原子力発電所は、原子の分裂によって生成されたエネルギーを利用する核分裂に基づいている。核融合エネルギーは、2つの軽い原子の原子核が一体になってより大きな原子を形成するときに生成される。
核融合が核分裂に勝る利点は、放射性廃棄物を排出することなく、より多くのエネルギーを生み出すことだ。さらに核分裂とは異なり、核融合エネルギーは温室効果ガスの副産物も生成しない。
核融合は天体の星にエネルギーをもたらす過程と同様だ。地球上で核融合を処理するには、磁場を使って「プラズマ」と呼ばれる高エネルギー電離物質を閉じ込める必要がある。
そのためには、ステラレータとトカマクという2種類の方法があり、ドーナツ型のデバイスに磁気の「ケージ」を作成することによって行う。ステラレータはプラズマの外側で一連の複雑な電磁石を使用するが、トカマクは外部の電磁石とプラズマ内の大電流を組み合わせるため、全体的な設計は簡素化されるが、大きな制御上の課題が発生する。
現在の磁気閉じ込め装置においては、太陽中心部の温度の100倍である10億度以上のプラズマを日常的に得られる。
ステラレーター対トカマク
ステラレーターは、設計上、トカマクよりも複雑だがいくつかの利点がある。ステラレータは定常状態で動作でき運用上の課題も少ない。「材料表面の過剰な熱負荷を管理するための魅力的な解決策」と見なされている。また、ステラレータは、プラズマを維持するために注入する必要電力が少なくて済む。
以前、ステラレータには複数の欠点があったが、その多くは解決された。「W7-Xの実験とステラレータのモデリングの進歩により、状況は大きく変わった」と、プロキシマ・フュージョンの共同創設者であるフランセスコ・ショルティ―は述べている。
「ステラレーターはトカマクの重要な問題を解決し、スケールアップが実現され、プラズマの安定性を根本的に改善して、定常状態で高性能な運転が達成される」
W7-X実験が優れた成果を出してはいたが、ステラレータの商用電源化の実現までには、長い時間がかかる可能性があり、推定では約25年と考えられている。
核融合発電の進歩
9月15日、上院エネルギー天然資源委員会では、民間核融合会社コモンウェルス・フュージョン・システムズのCEOであるボブ・マムガードが、「商用核融合発電所が、2030年代初頭からグリッドに乗る可能性がある」という希望的な観測を表明した。
2022年にフュージョン産業協会が行った調査によると、このセクターでは、民間投資が28億ドル増加して、その年に47億ドル以上に達した。
核融合エネルギーの飛躍的な発展は12月に起こった。カリフォルニア州にあるローレンス・リバモア研究所国立点火施設の科学者が、供給エネルギー量よりも多くのエネルギーを放出する核融合反応を引き起こすことに成功した月だった。歴史上初めて、制御された条件下で核融合が機能した時だった。
プロキシマ・フュージョンは、マックスプランクプラズマ物理学研究所(IPP)からのスピンアウトだ。IPPは、最先端のステラレーターであるヴェンデルシュタイン7-X(W7-X)の生誕地である。このスタートアップ企業は、HIPP、MITおよびGoogle-Xの元科学者やエンジニアによって設立された。
「融合は我々の時代の課題であり、我々の仕事はそれを商業化することだ。今後12カ月間、プロキシマは学術や業界のパートナーたちと協力して、初めてとなる核融合発電所の設計を完了するために全力を注入する」と共同創設者のマーチン・キュービー氏は語った。
(翻訳・大室誠)
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