中国では今、学校内で「不可解な死」を遂げる学生が絶えない。
さらに不可解なのは、そういった事件が起きるたびに、どの学校も、もはや「必ず」といっていいほど隠蔽を図り、真実を明らかにしないのである。
遺族が納得できる説明は一切ない。あろうことか、学校側の不誠実に対して声を上げる遺族やネット民を弾圧して、まるで何もなかったかのように、全てを隠滅して葬り去ろうとするのだ。
このパターン化された、恐るべき「事件処理方法」は、もはや中国の社会問題になっているといっても過言ではない。
中国社会に蔓延する「戻気」
中国の伝統医学では、正気(せいき)の反対、つまり邪気(じゃき)に相当するマイナスのエネルギーを戻気(リーチー、れいき)と呼ぶ。
「戻気」は、それが人間の精神に作用すると、横暴で残忍、他人に対して恨みがましく、偏狭な心になってしまう。そのような気分に陥ると、人は何事にも手ひどく、極端に走りがちになる。
今の中国社会には、この「戻気」が充満しているといってよい。先月(5月)だけ見ても、中国各地で相次いだ無差別殺人や一家惨殺などの凶悪事件によって、判明しているだけでも犠牲者は40人以上に上る。
その制御不能な中国社会の「戻気」は、各地の学校や大学のキャンパス内にも広がっているらしい。学校内では、陰湿ないじめや暴力が蔓延するほか、学生が「不可解な死」を遂げるという事例が後を絶たないのだ。
そのような場合、学校側は総じて「自殺」と決めつけるが、その理由や詳細な情報を明らかにする姿勢は皆無である。
納得のいかない遺族が、学校前で横断幕を広げたり、社会に支援と救済を求めるため正門前にひざまずき、泣きながら懇願する姿もある。そのような場面はSNS上で多くみられている。
昨年10月14日、江西省の高校生であった胡鑫宇(こ きんう)さんが、全く理由もなく学校から失踪。106日後の翌年1月28日に、学校近くの竹林のなかで変死体となって発見された。
地元警察は、本人の意思による「自殺」と断定。その結論に合わせるかのように、警察は異例の記者会見を開いて、強引に幕引きを図ろうとした。
しかし、遺体の形状や着衣の状態、発見時の状況証拠などから、不可解な点があまりにも多いため、「臓器収奪」の可能性もふくめた事件性とともに、学校および地元警察も巻き込んだ巨大な陰謀の存在が疑われている。
そして現在。この「胡鑫宇事件」にも類似するような、極めて不可解な「自殺」や「事故死」が中国の学校で頻発している。以下に、その一部を伝える。
武漢:監視カメラ映像「一部しか遺族に見せない」
武漢の華中農業大学の門前でも、見る人の心が締め付けられる一幕があった。
動画のなか、遺族とみられる複数の男女が地面にしゃがみ込み、あるいは横たわって、泣き叫んでいる。そばでは、盾を持った警備員らしき要員が治安維持に当たっている。
動画の説明によると、遺族と警察との間で衝突も起きて、現場は一時混乱したという。
この投稿の説明によると、遺族は校内で死亡した子供の死に関して、真相を明らかにするよう大学側に求めていたという。死亡した学生は同大学の4年生で、性別ははっきりしないが、動画の中国語のニュアンスから男子学生とみられる。
死因は「原因不明の溺死」だという。しかし「原因不明」では、それを死因と呼んでよいものか、大いに疑問は残る。
中国メディアが遺族の1人を取材して伝えたところでは、事件は5月19日に起きたという。遺族が、校内の監視カメラ映像を見せてくれるよう求めたところ、大学側はごく一部の短い映像しか見せなかった。
また葬儀場でも、なぜか「遺体の顔」しか見ることが許されず、遺族が全身を確認することはできなかったという。
中国メディアの記者が事件が起きた大学に連絡しようとしても、電話に出ないという。このような大学側の対応や、遺族に遺体の全身を見せないことについて「怪し過ぎる」と疑う声が広がっている。
なかには「胡鑫宇事件」を連想したのか、「たぶん(臓器収奪されて)内臓が全てなくなっているんだ。全身を見せられるわけない」といった身の毛もよだつコメントもあった。確かに今の中国であれば、その可能性がないとは言いきれない。
福建:学校側による、徹底した「証拠隠滅」
福建省では先月26日、複数のルームメイトからいじめを受けていたとされる19歳の女子学生が、学生宿舎の13階から転落して死亡する事件が起きている。
目撃者の1人とされるウェイボー(微博)アカウントの投稿によると、学生が落下した後、学校側は校医を呼んで心肺蘇生を行うなどした。しかし、その間、時間をあまりにも無駄にしており、救急車が現場に到着するまで2時間近くもかかったという。女子学生は、助からなかった。
その後、学校と警察は事件関連の情報の封鎖を行った。事件現場を目撃した学生を全員一時拘束して、スマホから画像や映像などを削除するよう強要するとともに、この件について口外しないよう圧力をかけたという。
また、別の現場目撃者によると、事件後、学校の上級職員がやってきて、転落した学生がもっていた携帯電話を操作し、チャットの通信記録を削除するなど「証拠隠滅」を行った、という。
もちろん、監視カメラ映像は「故障のため、何も映っていない」と学校側は言う。
女子学生の遺体は、郷里から駆けつけた両親が会う前に、学校側によって直接火葬された。警察も「スマホのパスワードを解除できない」ことを理由に捜査を遅らせるなどして、事件の解明が一向に進まない。そのため被害者遺族は、やむなく校門前で抗議するに至ったという。
この事件が注目を集めると、学校側は各学生に対して、ネット上で同事件に関する討論やコメント投稿を禁じた。目撃者のウェイボーアカウントまで削除された。
さらに学校側は「ネット警察」まで出動させて事件関連の投稿をした者を追跡し、逮捕させているという。
河北:大学前で泣く遺族「もう一人の胡鑫宇」か?
中国メディアによると、同省にある「河北経貿大学」で5月17日、学生の謎の転落事故が起きた。学校側は「自殺」と主張。しかし遺族は「当日まで、本人は家族と楽しげに談笑していた」として、自殺など全く信じられないと反発している。
学生の死因について疑問を抱く遺族は、事件の真相解明をもとめて大学側に再三かけあったが、大学側は「知らぬ存ぜぬ」の一点張り。警察も「原因はわからない」というばかりだった。
そこで遺族は、転落死した我が子「馮培森」のルームメイトや同級生、教師に会って直接話を聞きたいと申し出たが、全て大学側から拒否された。
このように、真相を知る道をすべて大学側によって断たれた遺族は、下の動画のように、学校の門前にひざまずき、大声で泣きながら社会の助けを懇願している。
この様子を捉えた動画はSNSで拡散されたが、今は中国国内の検閲に遭っている。
これを「もう1人の胡鑫宇」と呼ぶ人もいる。そのため「横行する臓器収奪の魔の手が、ついに大学にも忍び寄ったか」「臓器が全て揃っているかどうか、遺体を念入りにチェックして!」とするコメントも寄せられている。
大学側が全く応じない今の状況では、遺族が「臓器収奪」につながる確かな証拠を入手するのは極めて困難だろう。警察も、全く動こうとしない。
しかし、もはや「臓器収奪」が本当にあることを知る市民が、中国全土に普遍的にいるのは事実である。
将来ある15歳の少年が変死体で見つかった「胡鑫宇事件」をはじめ、これまで数多くの猟奇的な事件を見せられてきた中国の一般市民は、学校・警察・政府といった「権威部門」が出す公式声明など、もはや全く信じていない。
そうした意味で、頻発する学生の不可解な死を「臓器収奪」に結びつけることは、根も葉もない推測ではなく、極めて現実味を帯びた実感なのである。
上海:「自殺する素振りなど、全くなかった」
先月12日、上海の大学院生も「謎の転落死」を遂げた。
「上海応用技術大学」に通う大学院生の王さんが、6階から転落して死亡。学校側は「自殺」と主張している。
しかし遺族は「(本人に)そんな素振りは全くなかった」として、大学側の主張を受け入れていない。
以来、遺族は連日、大学前に座り込み、大学に対して納得のいく説明をするよう求めている。
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