いま中国では、同国のお笑い芸人であり、トークショーの人気MCでもあるHOUSE(本名:李昊石、31歳)氏が「大炎上」している。
HOUSE(豪斯、読みはハウス)氏は、北京で行われたあるトークショーで、習近平主席の10年前の発言を引用して、中国軍と野良犬を関連づけた(ようにも聞こえる)お笑いネタを取り上げたところ、ネットユーザーから「中国軍を侮辱した」とする批判が殺到。HOUSE氏は、この一事によって所属事務所から契約を解除されてしまった。
さらにHOUSE氏は現在、中国の芸能界から完全に「干される」存在になったばかりか、ついに北京警察によって逮捕されたのだ。
北京当局は、HOUSE氏の所属事務所「笑果文化」に対しても、日本円で2億円以上に相当する罰金を科したほか、同事務所による北京や上海での公演を「無期限」に禁止した。
問題視されたネタは、HOUSE氏が13日に北京市内で開かれたトークショーで披露したもの。
HOUSE氏は、2匹の野良犬(これは本当の犬の話だが、実は、ろくでもない人間を暗示している)を拾って飼い主になった「経験談」について語った。もちろん、お笑いネタとしての作り話であって、実話ではないだろう。
そのなかでHOUSE氏は、「普通、犬と聞けば、皆さんはきっとカワイイと思うよね。でも、僕がこの2匹の野良犬を見たときは、態度が良ければ戦いに勝つことができる(作風優良,能打勝仗)の8文字が頭に浮かんだよ」と発言した。ライブ会場はその瞬間、大爆笑になった。
この8文字「作風優良,能打勝仗」は、習近平氏が2013年の党大会において、中国軍の職業倫理を強調しながら打ち出した重要方針であり、軍に向けて発した政治スローガンである。
トークショーのMCを得意とするHOUSE氏は、それをパロディー化したのだ。もちろん、中国の人民解放軍がどうこうと発言したのではない。ただ、その時の観客の爆笑が、まさに「笑いのツボ」にはまっていたことを証明している。お笑いネタとしては、大いに「成功」なのである。
補足するが、中国語の「野良犬(流浪狗)」は日本のそれとは少しニュアンスが異なる。日本語では、単純にその辺にいる「飼い主のない犬」のことだが、中国語でこれを言うと、完全に人間を想定した侮蔑語になるのだ。
そのため、「野良犬」の話をする際に、中国軍を連想させるスローガンを引き合いに出したHOUSE氏の発言に、一部のネットユーザーが「中国軍を侮辱するものだ」と反応してSNSに投稿し、炎上することになった。
いっぽう、ネット上には「(お笑い芸人の)ジョークを、あまりにも真剣に受け止め過ぎているのではないか」と疑問視する声も上がっている。
しかし、複数の国営メディアが同氏へのバッシングに加勢していることもあり、この事件がもたらす波紋は今後も続きそうだ。
現在、これをご注進(通報)した人物の身元も、他のネット民によって掘り起こされている。そのため通報者は、氏名や生活写真、携帯番号や自宅住所などの個人情報までネット上に晒される事態になった。
今回の事件が「中国のトークショー業界にもたらす影響は大きい」と指摘する声もある。
米国在住の時事コメンテーター・姜光宇氏は、次のように指摘する。
「中国に本物のトークショーなどありえない。トークショーの精神は、相手に遠慮なくものを言うことだし、不公正を糾弾し、権力と権威に挑戦して、それらを揶揄することだ。トークショーは自由社会では広く歓迎されるが、中国共産党の統治下にある中国では存続が許されるはずがない。トークショーが中国で炎上すれば、それはトークショーの末日となる」
また中国時事評論家の唐靖遠氏は、「今回の事件で(中国の)芸能界およびその業界人は、より積極的に当局の各種タブーや、その暗黒の歴史について学ぶようになるだろう。さもなければ、いつどこで、自分の不注意のせいで、わけもわからないまま(失言して)HOUSEの二の舞になりかねない」とコメントした。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。