中国の医療制度にみる「非人道的な格差」 庶民は生き地獄、退職高官には国費で最高待遇

2023/05/18
更新: 2023/05/26

中国外交部(外務省)の華春瑩報道局長は13日、自身のツイッターに「米中の比較写真」を添付し、「中国は人民のために投資するが、米国は戦争に投資している」として、米国の「非人道性」を指摘する投稿をした。

中国の官製メディア「環球網」は同日、この華氏のツイッター投稿について取り上げた。これに対してネットユーザーからは、「まあ間違ったことを言っていない。中共は確かに人民にお金を使っているよ。安定維持費だけどね」など、違った意味でなら賛同できるとする意見もあった。

そのほか、特徴的だったのは「全国民の医療費無償化」を求める切実な声がコメント欄を埋め尽くしたことだ。だが、当初は約1万7千はあったこれらのコメントは、当局の検閲の後、139件だけが「生き残った」という。

中国で重病にかかれば「もう終わり」

日本の読者各位は、中国の医療制度についてご存じだろうか。当然ながら、私たちが(日本で)当たり前のように享受している、優れた医療制度とは大きく異なっている。

中国には、日本の「国民健康保険」のような皆保険制度はない。そのため(党幹部ではない)一般国民の医療費は、基本的に全額自己負担となる。

大手企業に勤務していれば、会社が医療費の一部を負担してくれることもあるが、負担額はどんなに高くても医療費の50%だ。残りの50%は、やはり自己負担しなければならない。

民間の保険会社の医療保険を活用する方法もある。しかし、保険料は決して安くないうえ、保険料を払っている地域以外で医療を受ける場合、その費用は全額自己負担になるケースも多い。つまり、自己負担にしても保険を活用するにしても、中国で医療を受けるのは非常に費用がかかることになる。

さらに中国では、高度な医療機関は大都市部に集中している。地方の都市や町になるほど医療そのもののレベルは下がる。農村部になると、簡易診療所ぐらいはあっても、病院は全くない無医村も珍しくない。

中国では「医療の質」が高くなるほど、自己負担の額も高くなる。その「治療費の支払い」に関しては、治療後にまとめて払う日本のシステムとは全く違って、中国では「前払い」が原則だ。

初診の受付時にも、医師を指名する時も、カルテを作成する時も、その都度、少なからぬお金を前払いする。検査や入院時には、保証金も先に支払わなければならない。

つまり中国では、お金がなければそもそも病院の治療は受けられないし、受けさせてもらえないのだ。そのため、中国で重病にかかれば、経済的に余裕がない限り「終わり」を意味することになる。

「金を用意できないなら、チューブを抜くぞ」

吉林省長春市にある「208医院」の病室で撮影されたとされる以下の一幕は、中国の医療の現実を赤裸々に物語っている。女性の医師が、患者の家族に向かって「金が用意できないなら出て行け!」と怒鳴っている場面である。

医師:「金を払えないなら(病人に取り付けられている生命維持装置の)チューブを抜く」

患者家族:「(必死に、お金を工面する電話をしながら)すぐに用意しますから、あと1分だけ待ってください」

医師:「いいから、とりあえずここから出なさい」

患者家族:「どうか少し待ってください。お願いします」

医師:「お願いしますじゃない。すぐに出ていけ!」

動画投稿者は「これが医者の言うことか?(地獄の)閻魔大王だってここまでやらない。天罰が怖くないのか」とのコメントをつけている。

実際のところ「お金がなければチューブを抜くぞ」は、今の中国ではよく使われる言葉になっている。それはまさしく、中国の医療体制の、非人道的な現状を露呈した言葉でもあるのだ。

 

医療費を払えない庶民の惨状「母親は全裸になった」

SNS上には、庶民のなかでも特に経済的に苦しい低層の人々が、病気の我が子や親の治療のために、なんとか医療費を恵んでもらおうとする「凄まじい光景」を映した動画がアップされている。

ある動画のなかには、病気の我が子の治療費を恵んでもらうため、若い母親がその子供とともに、なんと街頭で「全裸」になって通行人に施しを求める一幕があった。

また、病気の我が子の治療費を手に入れるため「草を食べる様子」を路上で披露する農村出身の夫婦もいる。

湖南省の農村からきたというこの夫婦は、白血病を患う9歳の子供の医療費を恵んでもらうため、路上に跪いて「草を食べる様子」を通行人に見せていた。

これまで、子供の治療のため70万元(約1300万円以上)つぎ込んだが、子供の病状は回復の兆しもないという。中国の農村住民にとっての「70万元」は、もはや天文学上の数字でしかない。

 

(子供の医療費を恵んでもらうため「草を食べる様子」を路上で披露する父親と母親)

中国のSNSには、白血病を患う我が子を前に「ごめんね。ママはもう本当にお金がないの」と、泣き伏して土下座する母親の姿を映した画像も拡散されている。

 

白血病を患う子を前に「ごめんね、お金がないの」と泣いて土下座する母親(中国SNSより)

 

病院近くの路上で「死を待つ老人」

また、ある動画のなかには、路上に座り「ここで死が訪れるのを自分で待つ」という70代の老人の姿があった。

心優しい通行人が、この「死を待つ老人」に気づいて声をかけ、食べ物をもってきた。

「ワシは、もう廃物なんじゃよ」。そう語った老人は、自身のことを次のように話した。

老人は「高額な医療費で、これ以上家族に迷惑をかけたくない」として、医療器具の尿袋がとりつけられたままの姿で入院先の病院から抜け出し、ここに来た。場所は、省立病院の正門の近くである。

老人は、脳梗塞や心臓病など複数の重病を患い、もういつ死んでもおかしくない状態だという。「ワシは、もう長くないことを知っているよ。だから、もう望むものはない。何も要らないよ。あんたにも、誰にも、迷惑をかけたくないんだ」

老人に声をかけた親切な人は、たまたまここを通っただけであるが、いつの間にか老人の黒い手をとって、その話を聞いていた。

あなたに何かしてあげられることはないですかと聞くと、老人は少し涙ぐみながら「あんたが優しい人だということは、よく分かってるよ」と言い、何も求めなかった。

その人が去る時も、路上で死を待つ老人は「気をつけて行きなさいよ」と最後まで相手を気遣う声をかけていた。

「もうボクの治療は止めて」と父親に懇願する子

別の動画では、まだ6歳にもならないような男の子が、若い父親に向かい、泣きながら頭を下げて必死に訴えている。

「パパ、今までボクを育ててくれてありがとう。だけど、もう治療をやめて家に帰ろう。うちの家は、ボクの病気のせいでずたずたになった。もうこれ以上、迷惑をかけられないよ。(ボクが死んで)生まれ変わっても、きっとまたパパの子供になるよ!」

父親も泣いた。そして、この幼い親孝行な息子を、つよく抱きしめるしかなかった。

この動画の投稿者は「幼児にそこまでさせるのか。こんな最低最悪な国や社会など、早く潰れてしまえ!」と怒りをあらわにしていた。

 

父親の病室の外で「自分をビンタする息子」

高額な医療費を家族が負担できないため、自ら治療を拒否した重病の父親(70歳)の病室の外で、すさまじい光景があった。

どうすることもできない無力さに苛まれたその息子は、大声で泣き叫び、病院の廊下で地団太を踏みながら、自分の顔を猛烈にビンタしていたのだ。何回も、何回も。

大の男をほとんど発狂させるほどの悲しみと怒り、そして無力感。その辛さは画面越しにも、ひしひしと伝わってくる。

中国の病院にこうした想像を絶する光景があることは、海外にはほとんど知られていない。しかしこれは、極めてリアルな、今の中国の庶民が直面している医療の実状なのだ。
 

 

退職した党幹部は「全額国費で最高待遇」

いっぽう、中国メディアが報じる、中国共産党の老幹部が受ける「VIP級の待遇」がこちらである。

ICU(集中治療室)や豪華な病室に4年間入院した、ある老幹部の医療費1000万元(約2億円)は全額国が負担するという。これをツイッターに投稿した人は「庶民の医療保険を使って、こんな死にぞこないの寄生虫どもを養うのか?」とコメントしている。

中国共産党の高官および退職高官らは「特権三昧」に浸る優雅な生活を送り、体調が少し悪くなっただけても専用病棟に住み、無料で診察や医療を受けている。

それが退職した最高級の指導者ともなれば、専用の航空機や専用列車のほか、「北京解放軍総医院(略称:301医院)」「上海華東医院」「広州軍区総医院」といった、中共指導部ご用達の、最高級病院から派遣された複数の医療専門家チームがいつでも待機しているのだ。

以前、中共体制内の元官僚が、こんなことをメディアにぽろっと明かしたことがある。「中共の高官には、ニラ(搾取される庶民)から臓器をいくらでも収奪できる特権がついている」と。

中共の高官と、名もない庶民。この両者の差といえば「天地の差」いや「非人道的なほどの格差」と言うしかない。

中国共産党の「為人民服務(人民に奉仕する)」は、最も有名な政治スローガンとして昔から知られてきた。

しかし、他のことはこの際さておいても、この「天地以上の差」がある中国の医療待遇の現実を見たら、とても同じ人間の扱いとは言えないだろう。

中国共産党が、真に「奉仕」しているのは誰なのか。この巨大な欺瞞を前にすれば、もはや怒りに近い感情さえ禁じ得ない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。