プーチン大統領の決断と習近平の思惑

2023/05/13
更新: 2023/05/13

ロシア軍の停滞とアジアでの変化

ロシア軍は2022年2月24日にウクライナに侵攻した。侵攻初期はウクライナ北部・東部・南部を占領し首都キーウまで迫った。だが首都キーウまで迫ったロシア軍は撃退され、さらにウクライナ北部から撤退した。それでもプーチン大統領は諦めずウクライナ東部で乾坤一擲の攻勢を開始するが2023年になってもロシア軍の攻勢は成功しない。

ロシアの民間軍事会社ワグネルが配置されているウクライナ東部のバフムートだけが攻勢を続けているだけで、他の戦場では戦線が膠着していた。ワグネルは損害を無視してバフムートで攻勢を行うが人命軽視の攻勢は長く続かない。次第に人材募集でも苦しくなり部隊を維持することも困難になり始めた。

それに対してウクライナ軍は欧米からの軍事支援が到着し、戦車・歩兵戦闘車・装甲車など一個師団を超える装甲戦力が集まった。ロシア軍は損害回復が難しく骨董品を戦場に投入しているが、ウクライナ軍は最新兵器を含んだ損害回復が行えている。これでウクライナ軍の反転攻勢が間近と言われ、ロシア軍が致命的な敗北を受けるとプーチン大統領の未来まで途絶えることになる。

そんな時にアジアでは変化が始まっている。日本とNATOは事務所開設に向け協議中であることが公表され、進展すればNATOの領域がロシアを包囲することは明らか。このためロシアだけではなく中国も反発する。

現状維持と現状打破

人類3000年の戦争史を見ると、常に現状維持派と現状打破派の対立関係になっている。現状維持派は今の平和は都合が良い国で、現状打破派は今の平和は都合が悪い国である。現代であればアメリカ・日本・イギリス・ドイツ・フランスなどが現状維持派になり、中国・ロシア・北朝鮮・イランなどが現状打破派に該当する。

現状維持派は強国と強国に従う国。国際社会は強国に都合が良いルールであり、この強国に都合が良いルールは平和と呼ばれる。日本はアメリカに都合が良いルールに従うことで利益を得ているから現状維持派に属している。だから今の平和はアメリカのための平和だが現状打破派には都合が悪い。このためアメリカを打倒して新たなルールに書き換えたいのが中国。

意図的か偶然か不明だが、中国は日本で開催されるG7サミット前に人民解放軍海軍の艦隊を使い日本を周回させることをした。以前から日本とNATOが接近していることは知られていたから、現状打破派の中国が現状維持派に対して威嚇をしたことは明らか。なぜなら国際社会では政治の延長に戦争が有り戦争は政治の手段の一つ。だから今回のことは中国から現状維持派に向けた間接的な宣戦布告に該当する。

中国には迷惑

ロシアとしては覇権を拡大したいがNATOがロシアを半包囲するから嫌っている。それどころか日本にまでNATOが拡大すれば完全にロシアを包囲する。さらにNATOによる包囲網は中国にも及ぶ。中国も覇権を拡大したいがNATOがアジアまで拡大すると覇権拡大を阻止される。仮に中国が覇権拡大を行えば必ずNATOと敵対関係に発展する。

こうなると中国はNATOに包囲されて覇権拡大が出来ないから日本にNATO事務所開設に反発する。今は連絡事務所だが、日本がNATOに加盟する準備段階の可能性が有る。NATOは現状維持派であり専守防衛の組織。ならば日本がNATOに参加する土壌が存在している。

NATO加盟国が攻撃を受ければ加盟国は参戦するのは事実。これで外国の戦争に日本が巻き込まれるリスクが有るが、NATOに戦争を仕掛ける国は余程の覚悟がなければ実行できない。だから人類3000年の戦争史を見ると単独よりも集団になることで戦争回避を選ぶのが基本なのだ。

戦争は単独だと容易に始まるが連合して挑むと戦争が難しくなる。この典型がウクライナ。ウクライナはNATOに加盟しておらず単独で生きていた。だからロシアはウクライナに侵攻しており、フィンランドとスウェーデンは単独の危険を察知してNATO加盟を急いでいる。日本がアメリカから離れ単独になれば、必ず中国かロシアが日本に侵攻する。それだけアメリカとの同盟は戦争を回避する道であり、さらに日本がNATOに加盟すればさらに戦争を難しくする。このため日本には都合が良いのだ。

ウクライナ情勢と習近平の思惑

ウクライナとロシアの戦争は中国には都合が良い結果になっている。中国とロシアは共に覇権拡大を求めるライバル関係。そんな国は仲が良いはずがなく、中国はソ連時代から国境問題で対立している。これは今のロシアになっても変わらないから、ロシア軍の敗北は中国の覇権拡大を約束する。しかもロシアは欧米から経済制裁を受けたので経済が停滞したが、中国企業が参加したことでロシア経済を植民地化したも同じ。

だからロシアが戦争に負ければ、中国はロシア経済だけではなく隣接する領土を奪うことも可能。さらにロシアとNATOが核戦争を始めて共倒れになることを望んでいる。仮にウクライナ軍の反転攻勢が成功すればロシア軍は損害回復が困難になり、プーチン大統領には核兵器しか手段が残されていない。

核兵器は自殺覚悟の兵器だから戦争で勝利を求めると使えない兵器なので、実際に核兵器で睨み合った東西冷戦は核戦争に至っていない。東西冷戦は戦争の勝利を追求するから共倒れになる核戦争を回避したが、仮にプーチン大統領が自殺覚悟であれば世界に向けて核兵器を使うことは間違いない。

そうなるとプーチン大統領は中国にも核兵器を撃ち込む可能性が有るので、習近平としては唯一の悩みになっている。中国はロシアの弱体化を悪用してロシア経済を植民地化できたがプーチン大統領の決断を支配することはできない。そんな時に日本にNATO連絡事務所を開設する流れだから、ロシア包囲網に中国まで巻き込まれることになった。

NATOがアジアまで拡大すれば中国の覇権拡大を阻止される。そうなれば習近平は台湾侵攻どころかアメリカとの戦争を早めることになるだろう。なぜなら台湾侵攻を行えば中国が弱体化するだけだから旨味が無い。ならば雌雄を決するアメリカとの戦争を選ぶことになるはずだ。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。