中国で「社会への報復事件」が絶えないのはなぜか? 暴走車の殺人犯に死刑執行=中国・大連

2023/05/02
更新: 2023/05/26

中国遼寧省の大連で2021年5月、乗用車が無差別に歩行者をはねる事件が起きた。5人が死亡、8人が負傷。逮捕された容疑者は美容師の男、劉東である。この劉東の死刑が今年4月7日に執行された。中国国内メディアが報じた。

故意に歩行者へ突っ込む暴走車

劉容疑者の死刑判決は昨年10月29日に大連市の中級人民法院(裁判所)で下されている。劉は上訴したが棄却された。罪名は「危険な方法で公共安全に危害を加えた罪(危険方法危害公共安全罪)」である。

2021年5月22日、黒色のBMWを運転する劉東は大連市街で、前方が赤信号であるにもかかわらず、30人ほどの歩行者が横断中の横断歩道に猛スピードのまま突っ込んだ。目撃者によると「(車が)ぶつかった衝撃で、体がバラバラになった人もいた」という。

裁判所によると「劉東は、投資によって巨額の損失を被った。生きることに自信を失い、社会への報復のため犯行に及んだ」という。しかし、具体的な犯行動機および劉被告の背景など、事件に関係する詳細については明らかにされていない。

広州でも同様の事件「犯人は紙幣をばらまいた」

広東省広州市でも今年1月11日、暴走車が大勢の歩行者がわたる横断歩道に猛スピードで突っ込み、明らかに通行人を故意にはねる凶悪事件が起きた。歩行者など5人が死亡し、13人が負傷した。

犯人の男・温慶運は、運転席から降りて「百元札」とみられる高額紙幣を路上にばら撒いた後、現行犯逮捕された。

温被告の裁判は4月18日、広東省広州市中级人民法院で開かれた。温被告もまた「危険な方法で公共安全に危害を加えた罪」により、一審で死刑及び政治的権利の永久剥奪の判決が言い渡された。

中国メディアによると、温被告の犯行動機も「社会への復讐」とされている。事件前、温慶運は友人に対して、自身が心にもつ不満や怒りを見せるとともに、「なにか世の中を驚かせることをする」という言葉を口にしていたという。

事件当日、温慶運は友人からBMW車を借りる一方、インターネットで「広州で一番繁華な場所(原文、広州最繁華的地方)」などのキーワードで検索していた。犯行前には父親に電話をかけ、「もう会えないかもしれない」と伝えていたという。



 

劉の死刑執行や、温の死刑判決をめぐり、中国のネット上での関連話題には「これで正義が果たされた」「ようやく悪人が報いを受ける時がきた」など同類とみられる文言のタイトルが目立つ。

そこには、中国当局が無差別殺人を犯した罪人への死刑執行や死刑判決を通じて世論を操作し、民衆の支持獲得を狙った可能性も否定できない。

しかし、彼らがなぜ社会報復をするに至ったのか。その原因について、当局は「投資の失敗」などの簡素な理由をつけるだけで、その真相を深く調査する姿勢は見られない。

理解しがたい悲惨な事件が起きたことは事実である。しかし、その動機が「社会への報復」にあるとしても、なぜ中国で同様の事件が絶えないのか。その根本的な原因が解決されない限り、今後もこのような事件は続くであろう。

「精神的な圧力を抜く方法がない」中国社会が生んだ悲劇

相次ぐ中国の社会報復事件をめぐり、台湾国営通信社「中央通訊社」の記者である邱国強氏は4月17日付の記事のなかで、その原因について述べている。

邱氏は、単に生計に関する問題だけならば、そこまで人を絶望させられないだろうとしたうえで、問題の根源は「鍋にフタをするように、人々を上から抑圧する中国社会にある」と分析した。

「中国では(当局の)フィルターを通された明るいニュースが溢れかえっている。しかし、それらと現実社会とのあまりの違いに、人々は不安になり焦っている。また、富の分配の不均等などにより、人々ははく奪された気分にもなっている。そのような(不満やストレスなどの)気持ちを吐き出させて、とにかく圧力を抜いてあげる必要があるのだが、中国当局は安定維持のため、その鍋に蓋をしている」

「長期にわたる精神上の緊張によって、中国の民衆の多くが息をすることも苦しいほどの限界まできている。そんなときに、金銭上のトラブルや上司からの圧力、家庭内の問題、キャリアや学業の不振など、あらゆるネガティブな事象がきっかけとなって精神の糸がプツンと切れてしまう。失望が倍増されれば、やがて絶望に至る」

邱氏はそのように指摘した上で、銃もナイフも規制されている中国において「車は、自暴自棄になった人たちにとって便利な凶器になる」と述べた。

確かに邱国強氏が指摘するように、今の中国では、乗用車やトラックなどを意図的に暴走させて歩行者を巻き込む犯罪が、あまりにも多い。それらはドライバーの不注意や運転ミスではなく、明らかに人をはねることを目的として突っ込んでいる。

3月24日に浙江省寧波市の市内で起きた事件は、白い車が、横断歩道を渡っていた高齢者と子供を轢いた。なんとその白い車は、轢いた30秒後にバックして戻り、地面に倒れている2人を再び轢いている。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。