完成目指す青森県・六ヶ所の核燃料再処理施設

2023/04/24
更新: 2023/04/24

日本原燃の核燃料サイクル施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。同社は2024年上期のできるだけ早くの竣工を目指す。それによって核燃料サイクル政策が動き出す。3月末にここを取材した。現状を報告する。

原子力発電のウラン燃料はこのようなペレット状に加工され、金属の容器に入れられる。写真のペレットは模型(石井孝明氏撮影)

原子力発電を支える重要施設

「バックエンド施設が一か所に集まっているのは、世界にここ六ヶ所だけです。発電と再処理は原子力における『車の両輪』。一日も早く稼働させ、地元、そして原子力関係者の期待に応えたい」。施設を案内した幹部は抱負を述べた。

「バックエンド」とは、原子力発電では燃料製造や使用済み燃料処理など、発電以降の下流部分をいう。この六ヶ所村の日本原燃には、核燃料再処理、建設中のMOX燃料製造、低レベル放射性廃棄物の処分、高レベル放射性廃棄物の一時保管、そしてウラン濃縮の5つのカテゴリーの施設が立ち並ぶ。

「トイレのないマンション」などと、原子力の反対派は50年前から変わらないスローガンを掲げている。しかし実際には着々と廃棄物処理の対応が進んでいる。

日本は核燃料サイクルという政策を採用している。一度使った使用済み核燃料を再処理し、再び燃料として使うという政策だ。そしてその際に分離したプルトニウムを発電の燃料として使い、消費してなくす。それによって日本は余剰プルトニウムを持たないことを世界各国に約束している。この施設は民間企業の施設でありながら、それを実現する重要な施設だ。

核燃料サイクルで分離されるプルトニウムは、核兵器の材料に使われかねないため、国際的に厳しい管理が行われている。世界で核燃料サイクルができる国は非核兵器保有国では日本だけだ。そして自由陣営の国では日本以外には、英仏が行なっているだけだ。技術力、国力、そして他国にそれを認めさせる外交努力が必要になる。日本は関係者の努力によって、稀な地位を獲得した。中国や韓国は核燃料サイクルを行おうとしているが、まだそれが実現できていない。

現地を訪れると、日本原燃の敷地の広さ、それぞれの建物の巨大さが印象に残る。その面積は、青森県下北半島の六ヶ所村に約730万平方メートル、再処理施設(専用道路などを含む)だけで約390万平方メートルあり、そこに巨大な建造物が並んでいる。再処理の新規制基準対策工事のピーク時には、約3200人の同社社員に加え、約8000人の協力会社の人が働いていた。MOX燃料工場(モックス:ウラン・プルトニウム混合酸化物)も建設中だった。

低レベル放射性廃棄物の埋設場。数十万本ずつ入る埋設地は巨大だ(日本原燃提供)

詳細は明かせないが、警備は大変厳しかった。ここにはIAEA(国際原子力機関)の査察官と、原子力規制庁の職員が常駐し、監視を続けている。ここで扱うプルトニウムが核兵器の材料になりかねないためだ。

再処理工場の稼働で原子力の諸問題が前進

この施設の中核は、核燃料の再処理工場だ。原子力発電で行われる核分裂反応で、ウラン燃料の全てが物質転換するわけではない。大半の成分はそのままで、プルトニウムや核分裂の生成物ができる。その使用済み核燃料を、処理して物質を分離させ、使えるウランとプルトニウムを取り出す。

再処理工場の遠景(日本原燃提供)

使用済み核燃料6体(約3トン)から、ウラン燃料1体、MOX燃料は1体、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体(約500キロ)3本が作られる。燃料は再利用ができ、処分しなければならない廃棄物の体積が4分の1に減り、プルトニウムもMOX燃料で消費できる。年約800トンの使用済み燃料を処理できる。その高レベル放射性廃棄物は地下に埋めることになる。まだ最終処分地は決まっていないが容積を減らすことは、その処理施設の規模を少し小さくすることができるであろう。

仮に使用済み核燃料を直接処分した場合、放射線量が天然ウラン並みに低下するのは約10万年必要だ。これに対し、燃料を再処理することによって同じ程度に低下する期間は約8000年程度で済む。

つまり核燃料を再処理することで、燃料の再利用、放射性廃棄物の減容、有害度低減というメリットがある。そして余剰プルトニウムを持たない国策の実現という意味がある。日本は無資源国だ。この核燃料サイクルによって、原子力燃料を再び使える。エネルギーの海外依存度を減らすために1950年代から構想されてきた。それが今、実現しようとしている。

再処理工場の建設費は当初計画の4倍の3兆1000億円になり、建設開始から2040年ごろまでの総事業費のめどは14兆4000億円になる。確かに巨額であり、その予定外の出費の是非は検証されなければならない。しかし現在の電力市場の規模は2022年で15兆1000億円と巨大なもので、核燃料サイクル事業費はそれよりはるかに小さい。核燃料サイクルの多くのメリットを考えれば、コストは決して高いものではなくなる。

なぜ審査は遅れたのか

ただし再処理工場の竣工は遅れている。1992年に建設を始めた一度試験運転をしたが完成していない。昨年2022年9月に26回目の工事完成の延期を発表した。日本原燃は「2024年度上半期のできるだけ早く」と期限を設定した。

26回の延期は、原燃のマネジメント体制の問題もある。しかし2011年以降の原子力の新しい規制体制にも問題があるように思える。それによる審査が遅れているのだ。

東日本大震災の後に、原子力規制委員会、原子力規制庁という新しい原子力規制組織ができた。そこでは、これまでの許認可を全ての原子力施設でやり直している。これは無駄なことだし、法律上の根拠はなかった。そのやり直しに時間がかかっている。また過剰とも言える、安全対策が要求され、その工事が行われていた。

確かに原燃の遅れは問題であるが、責任は原燃だけにあるのかと私は思う。規制にも問題はあるように思う。原子力の施設が安全になることは良いことだ。しかし対応で高まる安全性と、経費や建設の手間に釣り合いは取れているのか。私は疑問に思った。

竣工を目指し、努力は続く

再処理工場の竣工の遅れに対し、電力業界も支援を続けている。審査対応などで日本原燃に電力各社から多数の社員を派遣している。日本原燃の増田尚宏社長は2024年度上期のできるだけ早くに竣工させるという目標は変えていない。そしてMOX燃料工場も2024年度上期に竣工の予定だ。

2019年に社長に就任した増田氏は、エネルギー業界では「英雄」として知られる。東日本大震災の時に、津波に襲われた東京電力福島第二原発の所長として災害を防ぐ指揮をとり、プラントを安全に冷温停止させた。その実績が高く評価されている。その熱意は社長に転じた日本原燃でも活力を注ぎ込んでいるとされる。

同社は、2021年12月から体育館に関連企業、社員を集め、コロナ対策をしながらそこで400人ほどが机を並べて働いている。審査対応を、一緒に練る場所を作り、連携を強めるためだ。竣工を目指し、関係者が一丸になって取り組んでいる。

再処理施設の完成は核燃料サイクル政策を動かし、それが原子力をめぐる諸問題を、解決に向けて前進させる。1日も早く完成させ、核燃料サイクルを実現してほしい。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。