焦点:アマゾン保護と農業ビジネス、ブラジルで新たな両立の試み

2023/04/16
更新: 2023/04/16

[リオデジャネイロ 11日 トムソン・ロイター財団] – ブラジルアマゾン地域には、森林破壊の大きな原因となっている大規模な大豆栽培や牛の放牧を基盤とする経済の他に、もっと歴史のある、家族や協同組合経営による持続可能な形態の農業が存在する。ヤシ科の果物アサイーやゴム、製薬材料といった林産品の生産を行う産業だ。

この「バイオエコノミー」に従事しているのは、先住民族のコミュニティーを含む多数の小規模生産者らだ。だが、大豆栽培や牧畜に流れ込む膨大な投資に比べれば、そこに向かう金額は極めて少ない。

ブラジルは、急激に縮小している熱帯雨林を保護し、経済的な不平等を正し、持続可能性の高い経済を構築しようと試みているが、バイオエコノミーの拡大に向け投資の転換を促すことこそ、アマゾンとそこに住む人々を守るために最善の道だという指摘が出ている。

「既存モデルでは、搾取という観点から天然資源を捉えている」と語るのは、ブラジルの非営利団体(NPO)「コネクサス」の創設者カリナ・ピメンタ氏。同NPOは、伝統的生産者が成長のために必要なビジネスの専門知識や資金を得られるよう支援を行っている。

ピメンタ氏は、天然資源の搾取の代わりにバイオエコノミーを積極的に開発・強化することで、ブラジルは森林を保護し、気候変動や生物多様性に関する国際公約を達成できるだけでなく、経済を活性化し、地域のコミュニティーに投資を振り向けることができる、と語る。

「こうした持続可能なシステムにする方が、経済的利益も大きくなる」とピメンタ氏は言う。アマゾンの破壊が続けば、ブラジルの牧畜、大豆栽培を軸とする経済にとって不可欠な降水量も減るとなれば、なおさらだ。ピメンタ氏は先日、シルバ政権の環境省バイオエコノミー担当局長に任命された。

「残念ながら、私たちはこれまで、バイオエコノミーを成長の道として推進してこなかった。国民は別の生産手段に慣れてしまっている。これは公共政策により誘導されなければならない文化的転換なのだ」

チョコレートからアサイーまで>

コネクサスは今月、その革新的な取り組みを評価され、反貧困を掲げる米国のスコール財団から225万ドル(3億円)の賞金を受け取った。現在コネクサスは、現場でアサイーやチョコレートなどの小規模生産者を支援し、スキル向上や資金調達を後押ししている。

コネクサスの目標は、小規模な協同組合と自給自足レベルの生産を、成長する持続可能なビジネスへと変貌させることだ。

例えば、コネクサスはアマゾン川流域のパラ州において、独自ブランド「カカウウェイ」のチョコレートを生産するカカオ栽培農家の協同組合「クーパトランス」に、より高品質のカカオ豆の生産方法を技術支援した。

クーパトランスの組合員は、成長事業をより効果的に運営する方法について指導を受けられる。低利の与信枠が与えられたことで農家への迅速な支払いが可能となり、関係が改善された。

「以前は、農家への支払いに30─60日、場合によってはもっと長くかかっていた」と組合員のヘリア・フェリックスさんは語る。「最近は協力農家の側でも、収穫物を納品すれば即座に支払いを受けられると分かっている」

コネクサスの支援により、「私たちは(クーパトランスを)単なる共同体ではなく、ビジネスとして捉えている」とフェリックスさん。

同様にコネクサスは、パラ州のマラジョ島一帯でも、アサイー生産農家が無駄を省き、融資を受け、アサイーを付加価値の高い製品に加工し、学校などへの供給契約を締結できるよう支援している。

「マラジョ島ではうまく行っている。この方式を加速させ、ツールやソリューション、投資を提供して、もっと早く軌道に乗せる可能性はある」とピメンタ氏は語る。

<進む森林破壊>

コネクサスの誕生は2018年。当時、ピメンタ氏をはじめ、アマゾン地域に詳しい持続可能な開発の専門家は、大豆栽培と牛の放牧が拡大してアマゾンの森林破壊が加速したことを失望の目で眺めていた。

コネクサスの暫定エグゼクティブ・ディレクターで、発足当時の40人からなる専門家グループの1人のマルコ・バンデアリー氏は、自分たちの経験を活かして森林破壊の加速傾向を逆転させ、もっと持続可能性の高い経済活動への投資を促進しようと、コネクサスを立ち上げたと語る。

ブラジルを代表する科学者で、気候変動の専門家であるカルロス・ノブレ氏によると、降水量の確保や大気の浄化、気候の安定など、森林がもたらす寄与による利益を考えれば、アマゾンの原生林には、同じ面積の土地が牛の放牧地に転用された場合に比べ4倍の経済的な価値がある。

だが、「金融システムは、そのような見方をしない」とバンデアリー氏は指摘する。大部分の投資が牧畜と大豆栽培の拡大に向かう理由の1つだ。

ピメンタ氏によれば、現在、ブラジルの公的金融機関を経由する農村向け補助金付き融資のうち、バイオエコノミーに投じられるのはわずか22%だ。ここを変えたいと同氏は願う。

さらに重要なのは、ブラジルの民間銀行に、バイオエコノミーが優れた投資先であると説得することだ。バンデアリー氏は、そうした変化を促進するには、政府による新たなインセンティブや政策のほか、投資実績が必要だと説明する。

「変化を生み出すのは大変な仕事だ」とバンデアリー氏は言う。だが、民間銀行が投資収益を得られるようになれば、バイオエコノミーのための資金調達が自律的に続くようになると期待している。

<広がる目標>

コネクサスの取組みの約半分はアマゾンに集中しているが、同NPOは、消滅が危惧される熱帯サバンナや大西洋岸のマタ・アトランティカ熱帯雨林などの他の主要なブラジルの生態系にも目を向けている。

「どこの生物群系でも、驚くべき生物多様性が見られる」と、バンデアリー氏は指摘する。

国内バイオエコノミーの構築に向けた取組みは、土壌が劣化した国内5000万ヘクタールに及ぶ地域でも実施可能だ、とピメンタ氏は語る。

もっとも、森林保護に由来する炭素排出権を売ることが、持続可能性の高いブラジル森林経済の主力になるかどうかはまだ不透明だ、とピメンタ氏は言う。

炭素排出権は土地回復の費用を調達する際には重要な役割を演じる可能性がある、だが、既存の森林の保護を理由に炭素排出権を発行するとなると話は複雑になる、とピメンタ氏。炭素市場が整備されておらず、土地の所有権は曖昧なことが多く、利潤狙いの不正な排出権取引業者が入り込んでくるからだ。

「ブラジル全土に広がる問題だ。地方のコミュニティーでは準備もリソースも十分ではない。だからこそ、彼らの権利を守るために規制が重要になる」とピメンタ氏は語る。

ピメンタ氏によれば、炭素排出権に頼るよりも、アマゾンにおいて自然を基盤とした持続可能なビジネスを築く方が確実性の高い選択肢だという。大規模な大豆栽培や牧畜、多くの炭素排出権取引に比べ、「地域に定着する富を生み出すから」だという。

(Laurie Goering記者、Fabio Teixeira記者、翻訳:エァクレーレン)

Reuters