中国の都市部では壮年期女性を中心とした娯楽に「広場舞(スクエアダンス)」がある。昼夜を問わず公園や広場で思い思いに踊る。08年北京五輪以降に大ブームとなった健康法で、コロナ禍でも入院先で体を動かす女性たちの姿がみられた。しかし、スピーカーから流す大音量によって騒音問題とみなされ、けむたく思う人もいる。
この広場舞の舞台をそのまま日本に移す在外華人もいる。東京や大阪、名古屋の比較的大型な公園で、特に花見や初夏の行楽シーズンに、ショッキングピンクの扇子を手にして楽しげに舞う人々の姿を目にした人は少なくないだろう。
4月、桜で満開の愛知県名古屋市の公園でもその様子は撮影された。陽気な舞いとは対照的に、踊りの輪に囲われてしまった日本の女子高校生らは戸惑っている様子だ。米国の時事評論家・胡力任氏が「迷惑集団による襲撃」と皮肉るコメントをつけて短い動画を投稿した。
胡氏の投稿には多くの中国語のコメントがついた。
「カナダでも見た。中国人のおばちゃん集団が図書館前の芝生の上に陣取り、大音量で広場舞をしていた」「またも中国人への差別が深刻化する」「静かに花見させて」「外国人が中国人嫌いな理由はこれ」
女性たちはなぜ舞うのだろうか。中国民俗学者で愛知大学国際交流学部教授の周星氏は以前、東方新報の取材で、現在の「おばちゃん」たちの少女時代の80〜90年代、共産党政府の農村改革を奨励する踊り「秧歌(ヤングー)」がもとになっているのだという。
同氏によれば、広場舞とはステップや姿勢、音楽さえも自由な「寄せ集め」。08年北京五輪の健康ブームを背景にさらに都市部広場でムーブメントとなり拡大したという。東方新報は、広場舞を楽しむ人口は1億2000万人に上るという統計もあると伝えた。
いっぽう円を描いて踊る輪舞(りんぶ)は日本の民俗舞踊を含め東アジアで普遍的にある。なぜ広場舞にはここまでネガティブな考えが抱かれてしまうのだろうか。
中国評論家の唐浩氏によれば、根本には、彼らが文化大革命以後の教育を受けた世代であり、社会秩序やマナーを守らない姿勢に批判は向けられていると指摘する。民俗舞踊が神仏信仰を背景にするのに対し、広場舞は秩序がない。
「文化大革命による破壊と無神論によって、伝統的な宗教信仰も失われた。厚顔無恥となり隣人への尊重や配慮も欠く」と唐浩氏は広場舞に見る迷惑行為を分析する。
コロナ禍明けの行楽だ。誰しも桜を愛でる権利はある。しかし、公園のような公共空間でいたたまれないほどの大音量であれば、現地行政や警察への相談も検討されるべきだろう。
日本の軽犯罪法第14条では「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」は拘留又は科料に処すると定めている。また桜には所有者があり枝を折るなどの行為も器物破損にあたる場合がある。
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