オピニオン 上岡龍次コラム

アメリカのドローン墜落で漁夫の利を得る習近平

2023/03/18
更新: 2023/03/18

ドローン墜落

ソ連とアメリカは冷戦時代に対立していたが、ソ連崩壊でロシアに変わってもアメリカとの対立関係は変わらない。国家体制が変わってもお互いの主敵は不変だった。これはロシアによるウクライナ侵攻で再認識されることになる。

アメリカはウクライナに対して軍事支援を行いロシアと間接的な戦争を開始。それに対してロシアは欧米が間接的に参戦していると批判。欧米による軍事支援でウクライナはロシアと対等以上に戦えるまでになった。それだけロシアは欧米を敵視しているが、3月14日の黒海上空でロシアの敵意を知ることになった。

ロシアはロシア軍機とアメリカの無人偵察機(MQ-9)との衝突は無かったと発表したが、アメリカが公開した動画と異なることが明らかとなった。だがロシアはアメリカの無人偵察機を回収する意欲を示しておりアメリカとの関係改善を拒む方針が明らかになった。
 

関係悪化の原因

ソ連の国家体制が変更され現在のロシアに変わった。だがアメリカはロシアへの警戒は解いていなかった。ロシアに変わった当初は軍事力だけの弱い国だった。だが政府主導の強引な政策で経済が復活しアメリカの覇権に挑戦することを隠さない。ロシアから見ればNATOが旧ソ連圏を取り込んでロシアを包囲する態勢になった。だからロシアはアメリカ主導のNATOに挑戦する道を選んでいる。

ロシアとしては覇権を拡大したいがNATOは邪魔。だからNATOの脅威論を大義名分にして覇権拡大を正当化している。さらにウクライナがNATOに組み込まれたらロシアの覇権拡大は不可能になる。さらにロシアの首都モスクワを防衛するには広大な領土が必要なのだ。

ロシア周辺の地勢は平地が多く防衛に適した山岳地帯が無い。平地では攻撃側が有利であり防衛に失敗すれば首都に到達される。実際に平地が多いヨーロッパでは防衛に失敗すると首都が何度も陥落する国が多い。ロシアの歴史も同じで、モンゴル軍やナポレオン軍などの侵攻で首都モスクワまで到達されている。

ロシアの歴史と地勢を考慮し国防は領土拡大で首都モスクワを守る方針に固定されている。これは領土拡大で首都モスクワまで到達される時間を長くすることで防衛の障壁に変えている。簡単に言えば国境から3日で到達するよりも30日にすることで障壁とする考え方だ。

国境から首都モスクワまで30日以上の日数が必要になると戦闘部隊を支援する兵站が負担となる。だからロシアの国防は常に領土拡大で首都モスクワを守る方針を貫いている。これは日本の北方領土問題にも影響している。ソ連からロシアに変わってもロシア軍は北方領土に居座っている。この理由は仮に日米が極東から侵攻した時の時間稼ぎにするためだ。日米が北方領土の島々を攻略することで時間稼ぎになり、シベリアの防衛を固めて日米の上陸に備えるのだ。この考え方でロシアはウクライナを求めている。
 

ウクライナ侵攻で状況変化

ロシアとしては国際情勢の空白地帯であるウクライナは好機だった。何故ならNATO加盟国に侵攻すれば加盟国が参戦してロシアと戦争することになる。これではロシアが勝っても損害が多くなり最終的にアメリカが喜ぶ世界になる。これを回避して覇権拡大するには空白地帯であるウクライナ・フィンランド・スウェーデンしか残されていない。

実際にロシアがウクライナに侵攻してもNATO・アメリカは参戦していない。ウクライナは空白地帯だから軍事支援で対応するのが限界なのだ。だから、この危機を認識したフィンランド・スウェーデンはNATO加盟に急いでいる。

だがロシアにも予想外の結果が生まれる。ウクライナ侵攻は短期間で勝利すると予測していたロシアは1年以上も戦い続けている。さらに欧米がウクライナに軍事支援したことでウクライナ軍は強力になりロシア軍の損害を増加させている。ウクライナ軍の発表ではロシア軍の死傷者は16万人を超えたとされる。

実際の死傷者数は戦後にならないと判明しないが、ロシア軍の戦車は骨董品のT-62を近代化改修して投入していることから損害が深刻なのは事実。さらに欧米は各国が保有する戦車・歩兵戦闘車などをウクライナに提供している。ロシア軍は装甲戦力が低下するがウクライナ軍は向上するので、夏からウクライナ軍は反転攻勢すると予測されている。

これが明らかだからロシア軍は冬の間に攻勢を行った。だが戦線全体を見てもウクライナ東部のバフムート付近だけ前進できた程度。3月になると欧米の戦車がウクライナに到着し始めた。これはロシア軍の攻勢は失敗であり損害が出ただけで戦略的な意味は無い。

ロシアはウクライナ侵攻で弱体化が明らかになった。そうなるとロシアは強気にならないと世界から三流国と見なされる。ロシアから見ればアメリカと戦争する気は無いが、脅すことで手を出させない策を選んだ。それが今回の無人偵察機を墜落させた事件の背景と推測する。
 

ロシアンルーレット

ロシア陸軍の97%はウクライナに集まっていると分析されている。これが事実なら日本付近に展開するロシア陸軍は日本に侵攻できないことを意味している。ロシア周辺に展開するロシア軍は日米を威嚇する飾り。だから今のロシア軍は“弱い犬ほどよく吠える”ことをしているのだ。今回は黒海で墜落事件を引き起こしたが、今後は日本周辺でも実行されることを示唆している。

それに対してアメリカから見ればロシアからの敵対行為と認識する可能性が有る。つまり“売られた喧嘩を買う”可能性が有るのだ。これまでアメリカはウクライナに軍事支援をする間接的な戦争をしている。間接的な戦争は直接戦争するのではなく、友好国を軍事支援して間接的な戦争をすることを指す。

戦前で言えば、日本と対立していた蒋介石を軍事支援したことが間接的な戦争に該当する。当時のアメリカは蒋介石に軍事物資だけではなく義勇兵と称したフライング・タイガースを派遣している。義勇兵と称しても中身は正規兵なのだが、国際社会では義勇兵と称すれば正規軍すら黙認される。実際に朝鮮戦争で中国は人民解放軍を義勇兵と称して丸ごと投入している。だが義勇兵なので直接中国は朝鮮戦争には参戦していないことになっている。これが国際社会の現実だ。

ポーランドの対ウクライナ戦闘機供与、米国の立場「変えない」 ホワイトハウス

では無人偵察機を墜落させられたアメリカはどうする?怒ったアメリカはウクライナにF-16を提供する可能性が有る。それどころか義勇兵と称してウクライナに派遣する可能性も有る。アメリカは公式にはF-16をウクライナに提供しない。さらに“米国製戦闘機には訓練やメンテナンスに莫大(ばくだい)なコストがかかるとした上で、「各国が保有しているもの、必要と思うことに応じてさまざまな行動を取っている」”と続けている。

これは事実と嘘を混ぜた言葉になっている。簡単に言えば状況次第で対応が変わるのだ。訓練とメンテナンスでコストがかかるのは事実。さらにパイロットだけではなく整備兵も育成しなければ使えない。そうなると、F-16のパイロットと整備兵を丸ごと義勇兵としてウクライナに派遣すれば訓練とメンテナンス問題を解決できる。これは戦前のフライング・タイガースで知っているからウクライナで再現する可能性が有る。この状況になったことで、ロシアの強気は引き金を引くたびに空撃ちか実弾が飛び出して頭を撃ち抜くロシアンルーレットなのだ。
 

漁夫の利を得る習近平

アメリカの無人偵察機が墜落したことは中国の習近平には漁夫の利を得る好機になった。何故ならアメリカの敵意が中国からロシアに向けられる。もしくは中国とロシアの二正面作戦になるからだ。何方に転んでもアメリカ軍の戦力が分散するから習近平には喜ばしい未来が手に入る。

習近平がプーチン大統領に依頼したのではなくロシア単独の行為だから、結果的に習近平が漁夫の利を得る好機になった。さらにアメリカが義勇兵としてF-16戦闘機隊をウクライナに派遣すればアメリカの戦略は干渉から関与に変わる。これはアメリカの敵意が中国とロシアの二正面作戦になったことを意味するので、習近平はアメリカの義勇兵派遣を強く望んでいるはずだ。

そうなると習近平は親中派を使いアメリカ議員への工作を行なうだろう。これはロシアを裏切る行為だが国際社会には国家間の友人はいない。しかも習近平が裏工作に長けているなら迷わず実行する。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。