By Jon Hemming
[13日 トムソン・ロイター財団] – トルコとシリアの国境付近で6日未明に発生した大地震では、多くの建物が倒壊し、がれきに埋まった人々の救助が難航している。死傷者の数が近代史上最多に上る見通しとなったトルコ国内では、なぜこれほど多くの建造物が倒壊、崩落したのかを巡り、怒りの声が高まっている。
エルドアン政権は建物の倒壊について、責任の所在を詳細に調査すると表明。これまでに100人以上の逮捕が指示された。
一方で、建築関連の基準法の施行が不十分で、汚職を増長させ、1999年に発生した大地震発生を受けて建物の耐震性を高めるために課された特別税が不適切な用途に使用されてきたとして、エルドアン大統領を批判する声が上がっている。
コラムニストのフェレイ・エイテキン・アイドアン氏は先週、トルコ国内の左派紙「ビルギュン」でこう述べた。
「大勢の命を奪ったのは地震ではない。『都市変容』という名のもとに街を共同墓地に変えてしまった人々、そしてあらゆる建築許可証の下部に署名をした人々だ」
クルム環境相は、17万戸以上を調査した結果、今回のマグニチュード(M)7.8の地震で、被災地域で2万4921戸の建物が倒壊ないし甚大な被害を受けたと発表した。
過去の地震を経験してきた多くのトルコ人にとって、今回の地震には気が重くなるような既視感があるという。
トルコ北西部で1万8000人以上が命を落とした1999年の地震の後にも、建築基準法の不備と汚職が被害を悪化させたとして多くの非難を浴びた。
あるトルコの大手新聞は当時、「またしても腐敗した建物、そして悪徳な建築業者による手抜き行為だ」と報じていた。
デベロッパーが基準法を守らない建築計画を行うことも常態化しており、腐敗した政治家や地方自治体の担当者がこうした違反に目をつむって賄賂を受け取っていることも多いとの批判もある。
2022年までの10年間、トルコでは建設ブームが広がった。非政府組織「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」による「腐敗認識指数」ランキングで、2012年に174カ国中54位だった同国は、22年には101位にまで転落。10年で47位も順位を下げた。
エルドアン大統領の事務所にコメントを求めたが、返答は得られなかった。
<「クリーンな始動」か>
エルドアン氏率いる公正発展党(AKP)を2002年に政権与党の座に押し上げたのは、1999年の地震などに起因する人々の怒りや経済的課題だった。同党は、まん延する汚職から距離を置く「クリーンな始動」を公約していた。
AKPは大規模なインフラプロジェクトに着手。新たな空港や港、道路、鉄道、公営住宅などが国内の至るところで次々に建設され、トルコ経済に重要な恩恵をもたらした。
「AKP政権初期の10─12年間、建設業がトルコ経済の高度成長を支える柱の一つだった」
こう分析するのはコンサルティング会社テネオのウォルファンゴ・ピッコリ氏だ。ピッコリ氏は政党と建設会社に「密接な関係」があると指摘する。
こうしたインフラの急成長は、他国の投資家からも称賛を集めてきた。
「これまでずっと、素早くインフラ整備ができるトルコの能力を評価してきた。ただ、後から考えれば本当に速すぎただけかもしれない」と、ブルーベイ・アセット・マネジメントのトルコ情勢アナリスト、ティモシー・アッシュ氏は言う。
「原因がコストカットと欲深さにあることは容易に想像がつく。それ以外に説明のしようがない。どれだけ代償を払っても、成長しようとする文化なのだ」
政府と親しい建設業者は政治的・金銭的な支援と引き換えにに、国家事業に参加し、利益を受け取れる。国内で「レンティア(不労所得生活)システム」ともやゆされる、こうした資金循環のモデルに対し、野党側からは追及の声も上がる。
最大野党・共和自民党(CHP)のケマル・クルチダルオール党首は、地震で被害を受けた南部訪問後の発言で、「倒壊したのは、組織的な『レンティア政治』の結果だ」と述べた。
エルドアン氏は、野党が政治的な思惑から情勢を利用していると主張。この災害で同じく打撃を受けた、野党が主導権を握る自治体で起きている汚職は無視していると非難した。
<建築基準法巡る規制と恩赦>
トルコ政府は2007年、建設セクターでの腐敗を一掃すべく新たな規制を導入した。新しく建築される建物には耐震性を持たせ、古い建造物の補強工事を進めることが目的だった。
2018年には建築基準関連法が強化され、地震の揺れを吸収する鉄骨や鋼柱の使用が義務付けられた。
しかし同年、政府は既存の不適格な建築物件について有償で義務を免除する仕組みを導入。1000万人を超える人々が申請し、政府は不動産税や登録費として30億ドル(約3980億円)以上を徴収した。
公式のデータによれば、トルコ国内にある1300万戸の建造物のうち半数以上が法令に違反している。多くの不動産所有者が免除を選び、これが政府の収入源にもなっている。
今回の地震を前に、昨年も新たな免除を導入する法令の改正案が提出され、批判を浴びながらも審議された。
1999年にトルコ北西部で発生した地震から23年が経った昨年8月17日、建築家組合は「建築基準関連法案の適用免除発令に賛成票を投じる議員はみな、殺人に加担した責任を負う」と表明していた。
エルドアン氏は、6月に予定されている大統領選と議会選がこの20年で最も苦しい選挙戦になると見られている。そこへ、今回の地震によって大規模な救助活動や復興という難題が降りかかった。
災害対応の不備や、建築基準法の不十分な取り締まりなどを巡る政府への批判がエルドアン氏への支持を揺るがすとの指摘もある一方、同氏が災害対応を通して国民の支持を集める可能性もあると一部の専門家は分析する。
地震によって甚大な被害を受けたハタイ県に訪問した際、エルドアン氏は、公営住宅建設に携わる建設業者を総動員してがれきを撤去し、1年以内に被災地域の再建させると表明。こう宣言した。
「私たちは、こうした問題で実績を上げてきた政府だ」
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