オピニオン 上岡龍次コラム

米中戦争へ向かう外交と習近平の決断

2023/02/11
更新: 2024/06/13

気球撃墜

中国は気象気球と公言しアメリカは偵察気球と公言する気球は2月4日にアメリカ領内で撃墜された。アメリカは国防上の問題から撃墜を正当化。中国はアメリカによる気球撃墜を過剰反応だと批判したが、批判する中国も過去に領土に侵入した他国の気象気球を撃墜している。

アメリカは撃墜した気球の回収を進めており、回収した気球を中国に返還しないことを公言した。そしてアメリカは2月8日になると、“中国の偵察気球は世界中に展開する部隊の一部”との見解を明らかにした。偵察気球は最新式の高高度偵察用であり情報防衛活動を担う情報機関と法執行機関が調査することを説明した。

 

中国は世界の敵

アメリカは中国の偵察気球が五大陸で活動していることを明らかにしている。アメリカは回収した残骸のデータを世界と共有していることを明らかにしたことで、暗に中国と融和しないことを示唆した。何故なら在北京のアメリカ大使館でも2月6から7日に説明会が行われた。

「米国だけではなく、五大陸にまたがる国々の主権を侵害している」

アメリカは中国による主権侵害が世界で発生していることを公言。これは“中国は世界の敵であり民主主義の敵”だと真意を隠す言い方だ。アメリカは明らかに中国と融和しないことを示す。しかも北京で行うのだから習近平の顔に泥を塗る行為。

アメリカは回収した残骸を情報機関と法執行機関が調査すると明らかにした。結論から言えば、外交問題を国内の法執行機関が担当することは間接的な宣戦布告に該当する。しかも中国の主権を否定する行為だから極めて危険で攻撃的な行為なのだ。

主権とは外交二権と国内三権
外交二権:外交・軍事
国内三権:行政・立法・司法

主権は外交二権と国内三権に区分されている。さらに自国の法律は国内限定であり、国外では外交と軍事で対応するのが国際社会の基本。端的に言えば自国の法律を外国に適用することは相手国の主権を否定する行為になる。

行政の下で立法が法律を作り司法が法律を使う。この時に外国に自国の法律を適用することは相手国の司法を否定し立法を否定する。最終的には行政を否定するので相手国の主権を否定する。だから国際社会では自国の法律を外国に適用しないことが基本になっている。このことからアメリカによる法執行機関の参加は中国の主権を否定する。だから極めて危険で攻撃的な行為になるのだ。

 

間接的な宣戦布告と世界の現実

では何故アメリカは極めて危険で攻撃的な行為を行うのか?その答えは、“中国を怒らせ中国から戦争を始めさせることが目的”なのだ。基本的に自国の法律を外国には適用しない。だが国際社会では時として意図的に使う時が有る。それは相手国から戦争を始めさせる目的で使う。戦争を覚悟した時に使う外交の策なのだ。

国際社会の平和とは時の強国に都合が良いルール。このことから戦争を始めることは今の平和を否定する行為であり強国を否定する。強国から見れば今の平和を否定する悪の国として断定できる。これが国際社会のルール。こうなると容易には戦争を行えないから、戦争を回避するための人類の知恵。だが時として戦争に使う抜け穴でもある。

この典型は戦前のアメリカが日本に使ったABCD包囲網やハル・ノートが該当する。当時のアメリカは日本を敵視すると意図的に日本を怒らせることを外交で続けたことは知られている。アメリカが日本を怒らせる目的は、“日本を怒らせ日本から戦争を始めさせることが目的”だった。

当時の日本はこのことを知らなかった。だから日本は困惑しながらも戦争を決意。その後“宣戦布告後に開戦すれば良い”と誤った決断をした。国際社会では戦争開始を意味する宣戦布告は飾り。単に戦争開始を歴史に記す程度の役割であり、宣戦布告後に戦争を始めても“今の平和を否定する悪の国”にされるのが国際社会の現実。だから当時の日本は宣戦布告が遅れたことが失敗だと言われるが、国際社会では先に戦争を始めることが悪なのだ。

最近ではロシアがウクライナに侵攻したことで、ロシアは今の平和を否定する悪の国になった。これが現実だから、アメリカは意図的に中国を怒らせて中国から開戦させたいのだ。そのために法律を中国に適用する動きを見せている。

 

中国を怒らせる武器

中国は国際社会のルールを知っているから容易には動かない。だからこそアメリカは習近平を怒らせることは明らか。現在であれば経済で中国企業を市場から追放する動きは典型的な策。以前から中国企業を叩いているので、偵察気球に関連した外交として追加可能。

さらに中国はロシアを支援していることが明らかにされた。これで各国は中国企業への制裁を行う理由になる。しかも偵察気球は五大陸で活動していることが明らかにされたので、偵察気球に関連した外交も制裁に紛れ込ませることができる。

アメリカは中国の偵察気球が世界の主権を侵害していると公言しているので、外交でも中国を敵視する戦前のABCD包囲網が現代に再現され始めた。戦前は日本に対して使われたABCD包囲網が現代では中国に使われる。

さらにアメリカは中国を怒らせる武器を持っている。それはチベット・東トルキスタン・香港・法輪功学習者への中国による人権侵害。おそらくアメリカは人権侵害を露骨に使って中国を怒らせるはずだ。それも親中派が存在する国に対して実行するのだ。

中国から見れば外国の親中派は子分。この子分をアメリカは親分である中国の面前で批判するだろう。親分の目の前で子分がボコボコに殴られたらどうなる?親分が子分を助けなければ親分による裏切り行為。こうなると子分は親分を見限るだけではなく、世界の親中派が裏切る原因になる。だが中国が子分を助けると中国の関与を世界に宣伝する。こうなると中国の立場は悪くなる。

アメリカが過去に使った策を見れば、経済制裁で中国企業を市場から追放することは明白。次に中国によるウイグル人への人権侵害と強制労働は知られている。既に人権法が成立しているから、アメリカは中国を叩く武器を持っている。

 

今後の流れと対応

アメリカが中国を怒らせることは明らか。日本であれば親中派を人権問題で叩くことになるだろう。日本ではアメリカの様に人権法が成立していない。ならばチベット・東トルキスタン・香港・法輪功学習者に対する人権法案が成立していないことを露骨に批判する可能性が有る。

人権を守ることは世界共通の価値観だから、人権法案が成立しない日本は中国の子分を叩く格好の国なのだ。ならばチベット・東トルキスタン・香港・法輪功学習者となれば親中派としては避けたい問題。だからこそアメリカは中国の子分として叩きやすい。そうなると日本国内で停滞しているチベット・東トルキスタン・香港・法輪功学習者への対応が加速する可能性が有る。

日本単独では対応できないが国際社会の動きを使うことになるだろう。それに日本から見れば中国は仮想敵国。国内の親中派をアメリカと共同で叩くことは人権侵害と国防を両立させる。日本から見れば一石二鳥だからアメリカと共同で親中派を叩くべきだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。