中国スパイ気球 上岡龍次コラム

気球撃墜は米中戦争の狼煙

2023/02/08
更新: 2024/06/13

気球撃墜を実行

2020年の日本上空を謎の気球が通過した。この時は気球を運用する国は不明だった。だが2023年2月2日に同型の気球は中国の物だとアメリカが断定する。気球がアメリカ上空に到達すると、アメリカ国防総省はアメリカ本土上空を通過中の「偵察気球」を追跡していると発表した。それに対して中国は偵察気球ではなく気象観測用の気球だと反論。

 アメリカは2月4日にサウスカロライナ州沖で「偵察気球」を撃墜した。翌日、中国は自国の気球を撃墜したことを批判する。中国は軍事用ではなく民生用の気象観測気球とするが、アメリカは気球を回収し、公表する事になりそうだ。

現在の状態

国家間の状態区分は協力・友好・融和・不和・緊張・対立・戦争に区分されている。この中で冷戦は「不和・緊張・対立」で覇権を争う世界。覇権を争う手段は様々で、東西冷戦期は自由主義と共産主義が覇権争いの手段になった。そして東西冷戦は「核戦力の均衡(balanceof power)を背景にした覇権の現状維持と現状打破の戦い」だった。

■国家関係の状態区分
協力・友好・融和・不和・緊張・対立・戦争

東西冷戦は現状維持のアメリカと現状打破のソ連が冷戦で覇権を争った。つまり冷戦ならば軍隊同士が戦う戦争にはならない。今のアメリカと中国の関係は現状維持のアメリカと現状打破の中国が「不和・緊張・対立」で覇権を争う世界。

アメリカは現状維持であり強国。国際社会の平和は強国に都合が良いルールだからアメリカン・スタンダード=グローバル・スタンダード。それに対して中国は今の平和が気に入らない現状打破の国。それどころか中国は、アメリカに代わって次の強国になろうとしている。

戦争になる時

戦争は、現状打破の国が現状維持の国に挑戦する時に発生する。典型的なのは第二次世界大戦。欧米は現状維持だがドイツは現状打破。ドイツとしては少しでも地位を改善したい立場だったが第二次世界大戦に至っている。現代では中国がアメリカに代わって強国になろうとしている。この点ではドイツよりも危険な存在。

アメリカは今の平和は都合が良いから現状を維持したい。一方の中国は平和の書き換えを求めている。アメリカから見れば平和への挑戦なので回避不能の戦争と見なす。中国は軍拡と海外基地の建設で戦争に備えている。実際に南シナ海で基地を建設している。これに呼応するかのようにアメリカはフィリピンで基地の増加を決定している。

さらに中国は台湾侵攻を想定しており、地政学と戦略からアメリカには譲歩できない状況になっている。これは台湾と沖縄は大陸国家が南シナ海・太平洋に進出する出口であり、海洋国家が中国大陸に進出する入り口に該当する。同じ場所でも大陸国家と海洋国家で出口と入り口の違い。だが地政学と戦略で重要な位置になっている。

だからアメリカは沖縄に基地を置いているのであり中国が狙う理由。台湾は中国が沖縄を占領する時のジャンプ台だから避けられない緊要地形。さらに台湾は海上交通路を遮断する位置にあるから戦略として争奪戦の場所になる。

大陸国家の中国が台湾を占領すれば、海洋国家が使う海上交通路を遮断できる。こうなるとアメリカは中国の覇権拡大を無視できない。それどころか今の平和を否定し現状維持の立場を奪う存在になる。こうなると、見た目は外交で融和を求めるが真意は戦争準備。

気球撃墜

各国は以前から所属不明の気球を探知している。だが多くの国は所属不明とした。だが2023年になるとアメリカは中国の偵察気球だと断言。国籍と目的を明確にすることは中国への警告と侮辱を含んでいる。さらに中国が反論した後にアメリカの領内で気球を撃墜した。これは明らかにアメリカが譲歩しないことを示している。

仮にアメリカが中国との関係改善を選ぶならば国防上は問題だとしても国籍を公言しない。さらに海上で撃墜しても回収しないで終わる。実際に行ったのは中国を名指ししてから気球を撃墜している。しかも回収するのだから中国を侮辱する行為。こうなると中国は引くことはできない。

実際に中国は強気に反論しており報復も示唆している。こうなると不和・緊張・対立の冷戦では終わらない。端的に言えばアメリカは意図的に中国を怒らせることをしているのだ。答えは簡単で、中国から開戦させることが目的だ。

国際社会では軍隊を用いて先に開戦した国が悪の国になる。これは今の平和を否定する行為なので悪にされる。これが原因で戦前の日本は悪の国にされた。今ではロシアがウクライナに侵攻したことで悪の国にされている。これが国際社会の基準なのだ。

戦前の日本は欧米からABCD包囲網を受け経済制裁を受けた。さらにハル・ノートで日本を怒らせ日本から開戦させることに成功した。今のアメリカが行っていることは中国への経済制裁から始まり現代版ハル・ノートを中国に突き付けることになるだろう。実際に中国は気球撃墜で怒っており報復まで示唆している。

こうなると習近平は正義を盾に開戦する可能性が高くなった。アメリカから侮辱され外交で譲歩すれば習近平の面子は丸潰れ。こうなると中国の覇権は縮小し習近平の地位は低下する。そうなると中国共産党での立場が危険になり追放される可能性がある。これは明白だから習近平は強気しか選べない。さらに譲歩する交渉材料もないし攻勢的な外交しか選べない。

これは何を意味しているのか。要するにアメリカは中国に未来を強制的に選ばせている。中国から見れば戦争への道しか選べない。遅いか早いかの違いだけでアメリカが選んだ未来へ進まされている。このことから気球撃墜は米中戦争への狼煙なのだ。

アジアは主戦場

こうなると米中戦争は5年以内に始まっても不思議ではない。怒った中国が台湾侵攻を早めるかもしれないし、人民解放軍とアメリカ軍の偶発的な戦闘が戦争に拡大する可能性もある。それだけ気球撃墜は米中関係を悪化させた。

アメリカ軍はアジア周辺で戦争できるが中国はアメリカ本土で戦争できない。こうなると主戦場はアジアになる。つまり日本は戦場の中に放り込まれるがアメリカ陣営に付くしか選べない。アメリカと中国のどちらを選ぶ?日本の未来を選ぶならアメリカ。

仮に中国を選べばチベット・東トルキスタン・香港のように人権を奪われる未来。これは明らかだからアメリカを選ぶことになる。それに中国が敗北すればチベット・東トルキスタン・香港は開放される。これは中国から人権弾圧を受ける人々を救うことを意味する。

ウイグル人は人権を無視され内臓を奪われ中国の金儲けに使われている。中国の非道からウイグル人を救うためにアメリカと共に中国と戦うことは有益。それに中国は日本を狙う仮想敵国。そうなれば米中戦争に巻き込まれる日本にも有益なのだ。

(Viwepoint https://vpoint.jp/ より転載)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。