中国では約6億台もの政府の監視カメラが市民生活をのぞき見し、人権を侵害する監視社会が作られている。それに協力してきた監視カメラ大手のハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)、ダーファ・テクノロジー(浙江大華技術)の2社が、日本での販売に力を入れ始めた。規制が緩く、危機感の薄い日本を狙う面があるようだ。このままで大丈夫なのか。
監視実践で技術が洗練? 安さも強み
世界の監視カメラの販売は2019年で6480万台もあり、増え続けている(矢野経済研究所調べ)。このうちハイクビジョン)がシェアの約3割で第1位、ダーファ・テクノロジーが約1割で第2位を占める。両社の強みはIT技術の活用と値段の安さだ。
中国国内では監視カメラが大量に購入され、それが技術の進歩と大量生産による値下げにつながっている。中国での監視カメラの数は2021年に5億6000万台と推定される(モルドールインテリジェンス調べ)。中国共産党政権による人権侵害、その監視社会の息苦しさが他国に伝えられる。この多数の監視カメラが、その統治に活用されているのだろう。
ハイクビジョンがネット上に公開している一般向け販促映像で、同社の技術が公開されていた。監視カメラだけではなく、管理システムと連動し、手法が洗練されている。暗闇では、映像に熱を示す「熱画像」を加え、人の動きを鮮明にして把握する。またAI(人工知能)と監視カメラの映像を連動させ、重要な情報を見分けやすくする。人の顔や指紋や声、車のナンバーや特徴を記憶させ、蓄積したデータと照合することで、建物の出入り管理を容易にする技術もある。監視カメラも小型化し、外から見ても分からないデザインの製品もある。
これらは民間向け技術で、中国の警察が活用する監視システムは、見ると恐ろしくなる精密さだ。大紀元(日本版)の2022年1月13日掲載の記事「監視カメラ大手ハイクビジョン、中共の人権弾圧に協力 活動を発見次第『警報』送る」によれば、その方法は次の通りだ。
監視カメラから映像を得ると、人工知能で人の外見、特徴でどのような社会属性か、どのような行動かを自動的に振り分ける。例えば、「法輪功」「ウイグル人」などの属性分類、「デモ」「暴動」などの行動分類が加えられる。その重要さ、政府にとっての危険度を一瞬でAIにより分析し、遠隔地から監視する治安当局が対処法を決める。人物の特定もカメラから集めた情報で行えて、政治犯の追跡も容易だ。この映像データを、中共政府は2社と協力して蓄積・保管しているようだ。
世界のIT関係者の間で懸念されているのが、「海外のハイクビジョン、ダーファの製品から、中国のデータベースに情報が流れること」(日本のI T企業社員)という。中国政府の敵と見なされた人物は、国籍を問わず中国国外でも監視されることになりかねない。
このように監視カメラ大手2社は中国共産党政権の国内監視活動に協力して成長してきた。ハイクビジョンの陳宗年会長は、中国共産党員と確認されている。
これら2社の製品の値段は公開されていないが、他の企業より安いようだ。日本のキヤノングループが監視カメラの世界シェア3位だが、2社の製品の安さゆえに苦しい戦いになっているという。
西側での懸念、米国では法規制の対象に
ハイクビジョン、ダーファ共に、対外進出には積極的だが、中国共産党政権との関係への警戒から、米国を中心に活動に規制がかけられている。
米国では、2018年ごろから両社の製品が米軍基地や政府施設で使われていることが明らかになり、順次取り替えられた。当時のトランプ政権は、通信機器のファーウェイ(華為)の製品から中国共産党政権に情報が流れる疑惑を問題にしていた。監視カメラ2社の製品で情報の抜き取りは確認されていないが、同じ懸念が出た。また中国共産党政権のウイグル人、チベット人、法輪功などの監視や人権侵害政策に、これら2社の製品が使われていることも問題になった。
米トランプ政権で2019年に施行された「国防権限法」で、中国企業5社の製品の政府調達が排除され、これら2社も入った。米商務省も輸入管理対象に2社を指定した。
英国やEUも追随し、中国の人権侵害企業などの調査が行われ、輸入規制が検討されている。英国は2022年11月に、政府庁舎など機密性の高い場所での中国製監視カメラの使用停止を指示した。
ハイクビジョン、ダーファの日本法人、米国法人のホームページは共に、米国などの規制への弁明、また該当国の法令を遵守することの誓約が掲載されず、沈黙しているのは不気味だ。
警戒感が鈍いため、日本へ進出か?
人権や安全保障に敏感に反応する欧米の政府や企業と違い、日本の官民の動きは鈍い。これら2社が日本での販売てこ入れに動いているのは、その違いのためだろう。
日本では監視カメラがそれほど目立たない。権利意識の強い国民の拒絶反応があるためだろうが、密かに着実に増えている。中国の監視カメラ2社は日本での太陽光・風力などの再エネ施設での監視業務で製品を使うことを売り込んでいる。この分野では上海電力など中国企業の進出が目立つ。また日本の警備大手で、中国製の監視カメラを警備に使い、販売代理店になっている会社もある。国内の企業やインフラの情報が、抜き取られないだろうか。
日本では、経済安保推進法が2022年に施行された。日本で違法な情報収集や経済面での敵対的行動を取る中露両国への懸念が高まっているためだ。その法で定められた「基幹インフラ事前審査制度」が2023年以降に施行される。電気や航空、金融など重要な産業について、経済安保上の脅威となる外国製品の導入、外国企業の介入を防ぐように政府が指導できる。ただし、この制度はサイバー攻撃などによる発電設備や鉄道などへの妨害を念頭に置いている。ここで中国製監視カメラが取り上げられる可能性があるが、実際に行われるかは不透明だ。
中国製監視カメラの容認は中共政権を支えかねない
中国では共産党政権が、監視カメラの情報を支配の道具として活用し、国民も受け入れている。「幸福な監視国家・中国」(NHK出版)という本で、梶谷懐・神戸大教授は、「功利主義」というキーワードで、その問題を説明した。
中国共産党政権は、監視活動で得た情報の一部を使い国民に金融取引や書類発行を簡易にするなどの利便性を提供し、犯罪削減の効果があったと強調した。もともと共産党政権の下で人権意識が広がらないところに、そうした利便性があったために、国民は監視を容認したという。また2019年からの流行した新型コロナウイルスのパンデミックへの対策で、共産党政権は、当初は監視技術を駆使し、人々の行動を制限して押さえ込みに成功したかに見えた。
ただし自由の束縛が永続するわけがない。共産党政権のコロナ対策での強権的な手法に不満が蓄積し、2022年の後半から、中国各地でのデモ、国民の怒りが伝えられている。中国共産党政権と共に歩む監視カメラ2社の行く末も危うさをはらむ。
中国の人々とその企業の努力によるビジネスの成功なら私たち日本人は称賛すべきだし、その製品を使うことに問題はない。しかし共産党政権と一体になる監視カメラ大手2社の製品を使うべきではないだろう。その行為は中国人への人権侵害や少数民族の弾圧を支え、共産党政権を支え、真の日中友好を妨害することになる。そして情報漏洩などの形で自らを傷つけることになりかねない。
中国製製品の安さと利便性ばかりに目を向けてはいけない。監視カメラという製品の場合には特にそうだ。私たちにはそれ以外にも、守らなければいけない価値がある。ハイクビジョン、ダーファの日本での活動には、警戒をする必要がある。
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