【分析】なぜ米価格が急騰しているのか

2024/11/04
更新: 2024/11/04

2024年夏、日本価格急騰し、家庭の食費への圧迫が加速する。昨年までは5キロ2千円台で販売されていた米が、現在では3千円を超えることも珍しくない。この記事では、米価格に影響する需給バランスの崩壊、消費志向、および生産コストの上昇などを詳細に分析する。

価格高騰の原因

需給バランスの崩壊

米の価格が高騰し続けている。一因として、インバウンド需要の増加や物価高騰による食のシフトが挙げられる。特に2022年のロシア-ウクライナ戦争により小麦価格が上昇したことで、パンから米への移行が進み、米への需要が増加している。

生産コストの上昇

肥料や燃料などの生産資材の価格が上昇し、これが直接的にコスト増加につながっている。JA(農業協同組合)による概算金の上昇も、結果的に店頭価格に反映された。

物価上昇の影響

東京都区部での米類の消費者物価指数は、前年同月比で41.4%上昇し、これは49年ぶりの伸び率を記録した。これにより、多くの外食チェーンではライスメニューを値上げする事態に陥り、消費者の選択肢が限られる結果となった。

生産面の課題

猛暑や異常気象の影響で、収穫量が減少し、品質も低下する。さらに、農家の高齢化や後継者不足が生産力の低下を招く。これらの問題は、供給不足を引き起こし、価格高騰の一因となる。

インバウンドが動かす日本の米市場

昨今、訪日外国人旅行者数の増加が見受けられる中、彼らが日本国内で消費する米の量もまた注目されるトピックとなっている。農林水産省の公開している2024年7月から2025年6月までのデータによると、インバウンド旅行者は約5.1万トンの米を消費したことが試算される。この数値は、日本全体の主食用米需要量702万トンの約0.73%にあたる。

インバウンドによる5.1万トンの消費は、日本人の個人年間消費量50.9キログラムを基にすると、約100万人分の米消費量と同等で、インバウンドによる米の消費は、日本の米市場全体に占める割合は小さいものの、その絶対量は無視できない規模といえ、インバウンド需要の増加は、国内米価の高騰に一定の影響を与えている可能性がある。

特に観光地域や都市部では、外国人観光客の増加に伴い地元の飲食店などが高騰する米を仕入れざるを得なくなる状況も発生し、地域経済にとってはプラスの効果をもたらす一方で、消費者価格に対する圧力となる場合もある。

小麦価格の上昇が米消費に与えた影響

2022年のロシア-ウクライナ戦争勃発に伴い、国際小麦価格は急騰した。特に注目されたのは、2022年3月に記録された1ブッシェルあたり13ドルという過去最高の先物価格である。この価格の上昇は、日本国内におけるパンやその他の小麦製品のコストを押し上げる結果となり、消費者の食生活に直接的な影響を及ぼした。

主要な製パンメーカーでは、食パンの価格を2022年から2023年にかけて10〜30%程度引き上げる措置が取られた。例として、山崎製パンは2023年1月に主力商品の価格を平均12%引き上げると発表している。このような価格の上昇は、家計にとって無視できない影響を及ぼした。

農林水産省が発表した「食料需給表」によると、2021年度の1人当たり年間米消費量は50.7kgであったのに対し、2022年度は50.9kgと微増した。この微増は、2000年以降見られた米消費量の減少傾向に初めて歯止めがかかったことを示している。

外食産業でも変化が見られた。一部の外食チェーンでは、コスト増を背景にパンベースのメニューからご飯ベースのメニューへのシフトが進んでいる。例えば、ある大手ファストフードチェーンでは、朝食メニューのパンをご飯に変更するオプションを提供し始め、これが消費者から好評を得た。

家庭での米消費傾向について、日本政策金融公庫の調査では、2023年度上半期に米の購入量が「増えた」と回答した世帯は全体の約15%に上り、前年同期比で3ポイントの増加を記録する。また、業務用米の需要も同年度に前年比で約5%増加しており、これらのデータからも小麦製品の価格上昇が米消費へ部分的にシフトを促していることが窺える。

日本における米消費量の変動

2022年の1人当たり年間米消費量は50.7kgであったが、2023年は50.9kgとなり、200g(0.39%)の増加が見られる。

2023年と比較して2024年のデータでは、1か月あたりの1人当たり精米消費量が約5キロと記録され、前年同月比で2.6%の増加が確認された。2024年6月の消費者アンケートによると、26%の人が「前年同時期と比べて米を食べる量が増えた」と回答している。この増加は30代で37%、20代で35%と、若年層に顕著である。理由としては「おいしいから」と答えた人が36%、「腹持ちがいいから」が24%、「健康的だから」という回答が22%を占める。

2024年の米消費量の増加は特に20代と30代で顕著であり、全体の「増えた」と回答した人の半数以上がこの年代層からのものである。自宅での米消費は「自宅での食事」が50%、「自宅から持っていく弁当」が21%と、ポピュラーな用途で増加が見られた。また他の主食からの置き換えも顕著で、パン類の消費が30%減少し、米へのシフトが進んでいる。これらのデータから、若年層を中心に日本の伝統的な食文化への回帰が進んでおり、健康志向や経済性の追求がその背景にあることが分かる。

肥料、燃料、資材コスト上昇が米価を押し上げる

2024年、日本国内で米の生産コストが大幅に上昇している。

日本の農家が直面している経済的圧力は日増しに増加し、特に米の生産コストにその影響が顕著である。ここ数年で、肥料、燃料、その他の資材の価格が急激に上昇し、それが直接的に米価に影響を与えている。

2024年、農林水産省の報告によると、肥料価格は2020年比で約2倍に上昇した。具体的には、N-P-K比14-14-14の高度化成肥料が、20kg当たり2千円から4千円以上に跳ね上がった。

その他、福島県の米農家からの証言によると、トラクターやその他の農業機械に必要な燃料代は、過去3年間で約30%も上昇しており、肥料を含む農業資材全般のコストが過去3年で約30%増加し、米の小売価格にも影響を及ぼしている。

農林水産省の「米生産費統計」によれば、2023年産の10アール当たりの全算入生産費は、2020年産と比較して約10%上昇している。

米農家に支払い概算金の大幅な引き上げ

農家が農協(JA)にコメを出荷した際に、事前に受け取る前払い金であるJA概算金は最終的な市場価格が確定する前に支払われ、生産者の経済的安定を支える重要な役割を果たしている。具体的には、JA全農の各県本部が目安額を設定し、それに基づいて地域のJAが概算金を決定する。この金額はコメの市場価格にも影響を与えるため、消費者価格の指標としても機能している。

ここ数年、日本国内での米の消費量が減少しており、供給が需要を上回る状況が続いており、その結果、米の価格が下がり、農家の収入も減っていた。政府は、米が過度の余剰をさけるため「減反政策」を施行し、農家に米を少なく作るように依頼し、その代わりに他の作物を作るように支援していた。

こうした中、肥料や燃料などの価格が上昇し、生産コストの高騰が続いた。農家の経済的負担は増大の一途を辿り、政府はこれまで、市場が急激な価格変動を避けるため概算金を通じて価格を調整して抑えてきたが、生産コストの現実と概算金との間には大きな乖離が生じていた。

日本の米業界は、生産コストの長期的な上昇と市場の需給バランスの変動を背景に、概算金の見直しが急務となっている。

2024年産米の概算金の引き上げは、こうした背景のもとで行われた。例えば、宮城県では主要品種で60キロ当たりの概算金は前年比1200円増、青森県では県産品種「まっしぐら」で前年比4200円増と、地域によって差異はあるが、全国的に大幅な引き上げが行われている。

JA全農福島のデータによると、2024年産の米60キロあたりの概算金は、会津コシヒカリが2万200円、中通り・浜通りのコシヒカリが2万円と設定されている。これは30年ぶりに2万円を超える額であり、この概算金の設定は、生産コストの上昇を反映したものと考えられる。

この引き上げにより、農家の手取りは向上し、農業経営の持続可能性が少しでも改善されることが期待される。

しかし、この改正がもたらす一方で、消費者への影響も無視できない。米価格の上昇は、消費者の家計に直接的な打撃を与え、米消費量のさらなる減少を招くとの見方もある。また高価格が新たな需給バランスの変化を招き、市場の安定を脅かす新たな要因となる可能性も指摘されている。

需給バランスの崩壊、生産面での課題、生産コストの上昇といった複数の要因による今回の米価格高騰は、短期間で解消される見込みが低く、米価格の高止まりはしばらく続く可能性が高い。消費者や産業にとって、この状況に適応し、可能な解決策を見出すことが求められている。今後も米価格の動向には注目が集まることだろう。

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